1週間夫婦を入れ替えて、やっと本当の夫婦になれました
私の名前は邦子、62歳。定年退職した夫、健二との静かな日常が、ある日突如として揺れ動いた。「夫を交換してみない?」という友人の突拍子もない提案が、そのきっかけだった。
健二は現役時代、大手企業に勤めており、仕事人間で毎日残業するのが当たり前だった。結婚する前からデートより仕事を優先するような人だったが、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる包容力に惹かれ、邦子は結婚を決意した。しかし、結婚後も夫は仕事を優先し、深夜帰りが当たり前だった。健二は自分のことは自分でできたため、邦子は夜中に起こされることはなかったが、誕生日や記念日などを祝ってもらうこともなく、寂しさを感じることもあった。
邦子はいつか自分の子供にもエレクトーンを教えたいと思っていたが、年に数回の交わりではなかなか子供ができず、次第に生徒たちで満足するようになった。結局、夫婦に子供はできず、年を重ねるにつれて夫婦の夜の営みもなくなり、邦子は閉経を迎えた。健二は相変わらず仕事中心の生活を送り続け、定年間際までそれは全く変わらなかった。
そして、ついに定年を迎えた。邦子は健二に「これからは趣味を見つけて人生楽しんでね」と言ったが、健二は「そんなことを言われても、俺は今まで仕事しかしてこなかったし」と困惑していた。とりあえず散歩にでも行ってみるよう促したが、健二は30分ほどで帰ってきて、リビングでテレビを見ながらお茶やお菓子を食べてゴロゴロしているだけだった。世の老人はこんなものなのだろうか。
一緒に買い物に行こうと誘っても、「俺が行っても意味ないだろう」と言われ、夕飯のメニューを聞いても「何でもいい」と返されるのが常だった。邦子が「これから教室の生徒さんが来るから、奥の部屋にいてちょうだいね」と頼んでも、健二はリビングでダラダラと過ごしていた。仕事をしている時は忙しいとはいえ充実しているように見えた健二だったが、定年後は何をしていいのかわからないみたいで、気力を感じられなくなってしまった。
ある日、同年代の生徒さんのレッスンが終わった後、邦子は夫の愚痴をこぼしてみた。その生徒さんも同じような悩みを抱えていることが分かり、お互いの夫の愚痴を言い合った。そして数日後、その友人から驚くべき提案があった。「そんなに退屈なら、お互いの夫を1週間交換してみない?」というのだ。邦子は驚きながらも、現状を打破するために一度試してみることを決心した。
夫にその提案を持ちかけると、健二は驚きつつも「そこまで言うなら」と承諾してくれた。早速、友人に連絡を取り、夫婦を入れ替えて生活することになった。友人の夫が家に来る日、邦子は緊張していた。彼は健二とは違い、口が達者な人で、邦子が作る料理を「うまい、うまい」と素直に褒めてくれながら食べてくれる。健二の「何でもいい」と言うのとは対照的に、彼は自分の意見をしっかりと持っていた。
初日の夕食時、邦子は彼の反応に驚かされた。彼は邦子の料理を褒め、「明日は何が食べたいですか」と聞くと「邦子さんのお得意料理が食べてみたい」や「明日はかなり暑くなる予報なので、冷やし中華が食べたい」など、具体的なリクエストをしてきた。夫なら感謝もされず何でも良いで済まされるので、邦子は、久しぶりに誰かのために料理を作る喜びを感じた。
食事後、彼は「邦子さんは仕事も家事もこなしていてすごいですね」とまっすぐな目で褒めてくれた。健二からはそんな誉め言葉を言ってもらったことがなかったため、邦子は逆に戸惑ってしまった。最終日の夜、彼が邦子の隣に座り、「邦子さんは本当に頑張り屋さんですね」と言って優しく肩を揉んできました。その瞬間、邦子はドキッとし、動揺してしまった。
友人にそのことを電話で報告すると、友人は「ふーん、そうななの?」とそっけなかった。夫との生活も聞いてみると、友人も夫と上手くやっているようだった。しかし、最終日の朝、彼は邦子を抱きしめ、「これ以上進んでもいいですか」とたずねてきた。邦子は罪悪感に苛まれながらも、「すみません、これ以上は」そういうと、「すみません、実は抱きしめた時、妻が出てきたんです。」と、彼も同じように、自分の妻のことを考えていたのだった。
夫婦の入れ替え期間が終わり、健二が帰宅してきた。少々心配していたが、彼は友人の妻からかなり叱られたらしく、自分の過去を反省するようになっていた。「今までおまえのことを考えてなくてすまない。でもこれからは、旅行やお前がやりたかったことを一緒にしたい」と寄り添ってくれた。その夜、邦子と健二は久しぶりに関係を持ち、夫婦としての絆を再確認した。
数週間後、友人とお互いの近況を話し合うと、友人は「前と変わらず喧嘩ばかりだけど、それが私たちにはちょうどいいのかな」と笑いながら話していた。今回の夫婦入れ替えは、お互いの大切さに気づかせるきっかけとなった。邦子は、これからの人生を健二と共に充実させていく決意を新たにした。
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