PR

青空文庫の朗読

太宰治

「義務」 作:太宰治

義務の遂行とは、並たいていの事では無い。けれども、やらなければならぬ。なぜ生きてゐるか。なぜ文章を書くか。いまの私にとつて、それは義務の遂行の爲であります、と答へるより他は無い。金の爲に書いてゐるのでは無いやうだ。快樂の爲に生きてゐるのでも...
芥川龍之介作品

あばばばば  作:芥川龍之介

保吉やすきちはずつと以前からこの店の主人を見知つてゐる。 ずつと以前から、――或はあの海軍の学校へ赴任した当日だつたかも知れない。彼はふとこの店へマツチを一つ買ひにはひつた。店には小さい飾り窓があり、窓の中には大将旗を掲げた軍艦三笠みかさの...
芥川龍之介作品

或旧友へ送る手記 作:芥川龍之介

誰もまだ自殺者自身の心理をありのままに書いたものはない。それは自殺者の自尊心や或は彼自身に対する心理的興味の不足によるものであらう。僕は君に送る最後の手紙の中に、はつきりこの心理を伝へたいと思つてゐる。尤もつとも僕の自殺する動機は特に君に伝...
太宰治

待つ 作:太宰治

省線のその小さい駅に、私は毎日、人をお迎えにまいります。誰とも、わからぬ人を迎えに。 市場で買い物をして、その帰りには、かならず駅に立ち寄って駅の冷いベンチに腰をおろし、買い物籠を膝に乗せ、ぼんやり改札口を見ているのです。上り下りの電車がホ...
太宰治

嘘 作:太宰治

「戦争が終ったら、こんどはまた急に何々主義だの、何々主義だの、あさましく騒ぎまわって、演説なんかしているけれども、私は何一つ信用できない気持です。主義も、思想も、へったくれも要いらない。男は嘘うそをつく事をやめて、女は慾を捨てたら、それでも...
太宰治

ア、秋 作:太宰 治

本職の詩人ともなれば、いつどんな注文があるか、わからないから、常に詩材の準備をして置くのである。「秋について」という注文が来れば、よし来た、と「ア」の部の引き出しを開いて、愛、青、赤、アキ、いろいろのノオトがあって、そのうちの、あきの部のノ...
太宰治

リイズ 作:太宰 治

杉野君は、洋画家である。いや、洋画家と言っても、それを職業としているのでは無く、ただいい画をかきたいと毎日、苦心しているばかりの青年である。おそらくは未だ、一枚の画も、売れた事は無かろうし、また、展覧会にさえ、いちども入選した事は無いようで...
太宰治

桜桃 作:太宰 治

われ、山にむかいて、目を挙あぐ。――詩篇、第百二十一。 子供より親が大事、と思いたい。子供のために、などと古風な道学者みたいな事を殊勝らしく考えてみても、何、子供よりも、その親のほうが弱いのだ。少くとも、私の家庭においては、そうである。まさ...
太宰治

列車 :太宰 治

この作品は青空文庫()から取得しました。 一九二五年に梅鉢工場という所でこしらえられたC五一型のその機関車は、同じ工場で同じころ製作された三等客車三輛りょうと、食堂車、二等客車、二等寝台車、各々一輛ずつと、ほかに郵便やら荷物やらの貨車三輛と...
太宰治

返事 作:太宰 治

この作品は青空文庫()から取得しました。 拝復。長いお手紙をいただきました。 縁というのは、妙なものですね。(なんて、こんな事を言うと、非科学的だといって叱られるかしら。うるさい時代が過ぎて、二三日、ほっとしたと思ったら、また、うるさい時代...
芥川龍之介作品

蜘蛛の糸 作:芥川龍之介

一  ある日の事でございます。御釈迦様おしゃかさまは極楽の蓮池はすいけのふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮はすの花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色きんいろの蕊ずいからは、何とも云え...
芥川龍之介作品

枯野抄  作:芥川龍之介

この作品は青空文庫()から取得しました。 丈艸ぢやうさう、去来きよらいを召し、昨夜目のあはざるまま、ふと案じ入りて、呑舟どんしうに書かせたり、おのおの咏じたまへ  旅に病むで夢は枯野をかけめぐる ――花屋日記――  元禄七年十月十二日の午後...