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夫婦交換の極意

いつまでも若くスワッピング系

「お前、最近どうなん?」と健吾が声を掛けてきた。彼の瞳には、俺が数年間抱えてきた悩みの愚痴を聞いてあげようとする優しさがあった。「こんなのがあるよ」と健吾から見せられたサイトには、予想もしていなかった解決策が映っていた。ここ数年、俺は妻との関係が冷え切っており、それが大きな悩みの種だった。大喧嘩こそしないのだが、お互いに無関心になっている気がする。関係を改善しようと色々と試してみたが、どれもうまくいかなかった。そんなとき、たまたま友人の健吾と飲みに行った時に出てきた話に釘付けになった。

「お前、ちょっと変わったことを試してみるか?」と健吾は試すような表情を浮かべながらも、あるサイトを教えてくれた。それは夫婦交換──そう、スワッピングを勧めるサークルのサイトだった。俺は興味津々でそのサイトを食い入るように見ていた。だが、「なんだよ、これ。こんなの出来るわけないよ」と否定する。
「いやいや、俺も参加したけど、そんな変なサークルじゃないよ」「お前の奥さん、専業主婦だろ?一緒にいる時間が長いと、どうしてもマイナス面ばかりが目立つんだよ」と健吾が言った。詳しく話を聞くと、ずっとパートナーと一緒にいると良いところが見えなくなってしまう。だから、趣味を作って異性の友達を作りましょうというものらしい。

「じゃあ、こんなの参加しなくてもお互いに趣味作ればいいんじゃないか?」と俺が言うと、「いやいや、そうするとその趣味に対しても不満が出てくるだろ?一緒に行くから良いんだよ」と健吾が返す。そう言われ、興味を持った俺は何日もかけてそのサイトや関連するものを見尽くしていた。調べれば調べるほど、この新しい刺激が夫婦関係を改善するきっかけになるのではないかと思っていった。

そんなある日、仕事から帰ると、妻が微かに眉をひそめながら声を掛けてきた。「ねぇ、あんなのに興味があるの?」妻が問いかけてきた。俺は一瞬固まってしまったが、「え?何のこと?」と答える声が裏返る。「ノートパソコン」 「消し忘れてたわよ」
「い、いや、あれはただ、夫婦で趣味を作りましょうってことだよ?」とアタフタしながら答える俺は、自分の態度がどれほど不自然に取り繕っているかに気づいていた。「何焦ってるのよ。別に参加してもいいわよ」と妻は呆れたように眉をひそめたが、その瞳には少し興味が見えた。
「え?」俺は驚きとともに意味が分からず聞き返した。「だから、行ってもいいわよって言ってるの。ただ、趣味を作って遊ぶってことでしょ?気分転換になるかなって思うし」「え?本当に?」思いがけない妻の言葉に心臓が早鐘を打つ。驚きと戸惑いで言葉が詰まった。「わかった、じゃあ今度申し込んでみるよ」さっそく俺は少しの緊張と楽しみを覚え申し込みを済ませた。

「いつに決まったの?」妻が問いかけてくる。「来週の日曜日だよ」「じゃあさ、今度服を買いに行かない?あなたもいるでしょ?」と妻が提案してきた。最近の俺の服なんて、スーパーの端っこで売ってるようなものを勝手に買ってくるだけだったのに、思いがけない妻とのデートのお誘いだ。

「じゃあ明日、アウトレットにでも行こうか?」と言うと、「え?アウトレット?やったぁ」「楽しみ楽しみ」と妻は嬉しそうだった。テンションがこんなに上がった妻を見たのは久しぶりだった。実際俺自身も、以前なら買い物と言われたら「え~、行って来たら?」と答えていたかもしれない。アウトレットにでも行こうかと誘った俺自身もテンションが上がっているのだろうか。

買い物の当日、妻はおしゃれをしていた。表情も明るく目を輝かせ、店内を歩く足取りも心なしか弾んでいた。そんな妻を見てそれにつられたのか、俺も買い物自体が楽しかった。あれでもない、これでもない、少し前なら早く決めてくれよと態度に出していたかもしれない。でも今日は違った。今度サークルに参加するのが目的とはいえ、これ良いかな?あれ良いかな?とお互いがおすすめし合っていた。あっという間に、数時間が経っていた。

「ふ~、いっぱい買ったな。これでばっちりだな」「そうね!楽しみね」「なんか食べて帰ろうか」「え?いいの?」普段なら、外食せずに妻に作ってもらっていただろう。俺自身は妻が作る手料理が好きなのだ。が、今日は妻に喜んでもらいたかった。
「何が食べたい?」
「なんでもいいよ」
年のせいもあり買い物でお互い疲れた体だったが、妻は楽しそうにレストランを探していた。食事中も、ずっと楽しく会話が続いた。もう本当に何年ぶりだろうかというくらい、いろんなことを話した。少し前なら、うんうんと適当に相槌を打っていたかもしれない。が、今日は妻の目を見てお互い楽しく会話出来ていた。

「今日はありがと」妻が珍しくお礼を言う。俺は照れくさそうに返事をしたが、妻の目も嬉しそうだった。

サークルに参加する日の朝、妻は早く起きてきた。少し緊張しているのか顔が強張っている。
「今日、サークルはキャンセルしたよ」
「え?どうして」と妻は驚く。
「おしゃれして二人で出かけようか」と声を掛けると、妻は目を潤ませながら「うん」と小さく頷いた。そのはにかんだ笑顔を見た瞬間、心の奥で何かが弾けた。新しい始まりを感じながら、俺は静かに手を伸ばした。

結局俺たちはそのサークルに参加することはなかったが、夫婦仲改善のきっかけはあのサイトのおかげだった。自分の気持ちを押し通すのではなく、相手を受け入れるだけで、お互いに笑顔が溢れた。笑顔だけでこんなにもお互いの空気が変わり、接し方が変わるなんて。近くにいるとついつい忘れてしまう相手への思いやりを思い出せただけでも、あのサイトを教えてくれた健吾に感謝した。

後日談だが、半年後に友達の健吾は離婚した。原因は、奥さんが健吾よりも良い人を見つけたことらしい。結局、夫婦交換やスワッピングなどが良いというのはパートナーへの順位付けが大事なんだろう。パートナーが一番であることを確認できるからこそうまくいく。その順位が崩れたら離婚に向かうのは当然のことかもしれない。友達の健吾には悪いが、俺たち夫婦は参加しなくて良かったとつくづく思っている。

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