2024-07

太宰治

津輕地方とチエホフ 作:太宰治

こなひだ三幕の戲曲を書き上げて、それからもつと戲曲を書いてみたくなり、長兄の本棚からさまざまの戲曲集を持ち出して讀んでみたが、日本の大正時代の戲曲のばからしさには呆れた。よくもまあ、こんなものを、書く人も退屈せずに書いたもの哉、讀む人も退屈...
いつまでも若く

妻の友達~リライト版

以前作った作品をリライトしました→ 周囲を包む静寂の中、趣味に没頭し机に向かっていると、突然部屋のドアが開き、真理子が入ってきた。 「釣り、好きなんですね」 トロンとした目をした彼女がゆっくりと近づいてきた。俺は咄嗟に体を引いて離れたが、真...
いつまでも若く

運命の人~出会って5秒で

「大丈夫ですか?」彼女の声は俺の意識を現実に引き戻した。彼女の瞳には不安と優しさが見え隠れしていた。「ええ、ありがとうございます」と咄嗟に俺は言ったが、その目を彼女から離すことができなかった。彼女の瞳に引き込まれ、心臓が跳ね上がるのを感じた...
芥川龍之介作品

三つの宝 作:芥川龍之介

一 森の中。三人の盗人ぬすびとが宝を争っている。宝とは一飛びに千里飛ぶ長靴ながぐつ、着れば姿の隠れるマントル、鉄でもまっ二ぷたつに切れる剣けん――ただしいずれも見たところは、古道具らしい物ばかりである。 第一の盗人 そのマントルをこっちへよ...
夏目漱石

ケーベル先生 作:夏目 漱石

木この葉はの間から高い窓が見えて、その窓の隅すみからケーベル先生の頭が見えた。傍わきから濃い藍色あいいろの煙が立った。先生は煙草たばこを呑のんでいるなと余は安倍あべ君に云った。 この前ここを通ったのはいつだか忘れてしまったが、今日見るとわず...
太宰治

女人訓戒 作:太宰治

辰野隆ゆたか先生の「仏蘭西フランス文学の話」という本の中に次のような興味深い文章がある。「千八百八十四年と云うのであるから、そんな古い事ではない。オオヴェルニュのクレエルモン・フェラン市にシブレエ博士と呼ぶ眼科の名医が居た。彼は独創的な研究...
いつまでも若く

二人の妻~単身赴任中につい

結婚までの道のりは驚くほどスムーズに進み、ついにその日が訪れた。ここに用意されている婚姻届を明日俺が役場に持って行ったら完了だ。 「じゃ、明日よろしくね」と、小夜子は目を輝かせてお願いしてきた。「うん、朝いちばんで出してくるよ」と任せておけ...