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秘密倶楽部~俺の相手はまさかの妻だった

いつまでも若く純愛裏切り

『え?あなた?』聞きなれたその声が耳に届いた瞬間、目の前に立っていたのは、紛れもなく妻だった。冷や汗が背中を伝う。

私の名前は拓海。どこにでもいる普通のサラリーマンだ。子供もこの前ようやく巣立ち、娘にかかる教育費が終わり子育てからやっと解放された。娘を私立の医大に行かせるのは正直大変だった。共働きでやっと、娘一人を大学に行かせるのが精一杯だった。他の親はどのようにして大学に行かせてるのだろうと思うくらいカツカツの生活で大変だった。そして、娘が家を出ていき妻との二人での生活になった。新たな生活が始まったのは良いのだが、なぜか妻との仲は日に日に悪くなっていった。娘が同居している間は妻のストレスを上手く吸収してくれていたのだろう。娘があいだを取り持ってくれていたのもあるだろうし、娘に大学を卒業させるという共通の目標があったからお互いに頑張れたのもあるのだろう。

だが娘が家を出たあと、妻との二人きりの時間が増えるにつれ、ギスギスした時間が増えていった。娘にお金がかからなくなったことで、お互いに仕事帰りに別々で食事を済ませて帰るようにもなった。何の為に頑張ってきたのだろうと心にぽっかりと穴が開いたようだった。そんな状態が数カ月続いたある日、友人からアプリのURLが送られてきた。その名は「秘密倶楽部」。このアプリは、あとくされの無い相手とのマッチングを提供する浮気相手を見つけるものだった。始めは抵抗があったのだが、妻との冷え切った関係から逃れたい一心で、私は次第にアプリにのめり込んでいった。

始めは女性とメッセージのやり取りをするだけで十分に楽しかった。しかし、一度女性と会うことを経験してしまえば罪悪感は消えてしまい、次第に何人もの女性と会った。当初は日ごろのうっぷん晴らしになっていたが、結局はその場限りの関係で心は満たされず、いつのまにか虚しさを感じるようになっていた。そんな中、ある一人の女性が気になりやり取りが増えていた。その人の名前は真衣さん。彼女は私と同じように子育てが終わってちょうど一息ついた女性だった。お互いの趣味や行動、境遇が似ており、彼女に会いたいという気持ちが芽生えていた。彼女とのやり取りは、若い頃を思い出させるようなものになっていた。だが、中々会うことに至らず、もうそんな学生時代のような甘酸っぱいやり取りが2カ月も続いていた。

そんなある時、普段はお互いに干渉しあわない妻と大喧嘩になった。きっかけは些細なことだった。妻は大きな声を出し泣き叫んでいる。私も妻を泣かせたいわけじゃない。虐めたいわけでもない。こんなにお互いが苦しい状態が続くのであれば、離婚も頭にちらつくほどお互いが憔悴しきっていた。

翌日、あのアプリにメッセージが届いた。真衣さんだった。今まで何度誘っても会ってくれなかった彼女が、今度食事にでも行きましょうと連絡をくれたのだ。私は即、行きましょうと返事を返した。食事デートが決まった瞬間、私は気持ちが一気に晴れ渡るかのように感じていた。そしてなぜか、あのケンカから重苦しい空気が漂っていた我が家の空気も一変していた。私の顔が晴れやかだから妻にも伝わるのだろうか。妻の上機嫌の顔を見ると罪悪感に見舞われたが、ようやく真衣さんに会えると思うと他のことは考えられなかった。
食事デートの当日は朝から一生懸命仕事をしていた。だがこんな日に限って仕事にトラブルが起きる。約束の時間が迫る。仕事のトラブルで遅れると連絡を入れてもなぜか既読にならない。結局連絡が取れないまま、1時間遅れで待ち合わせ場所に向かって走った。ハアハアと息を切らせながらも、何故連絡が取れないのかなど心配していた。現場に到着すると、目印の黄色いスカーフをバッグに付けた女性の後ろ姿が見えた。
(待っててくれた!)俺は嬉しくなると同時に遅れて申し訳ないという気持ちで一杯になった。
「すいません!遅れてしまいまし….」下げた頭を上げると、その女性を見て驚愕した。
「え?あなた?どうしてここにいるの?」妻も驚いている。
「い、いや、ちょっと人と待ち合わせをしててだな」としどろもどろになりながら答える。
「わ、私もよ」
お互い沈黙の時間が流れる。
「お前の相手はまだなのか?」「うん、連絡が来ないの」とスマホを見る。
「あれ、ここ圏外だわ」と電波の入るところに移動しようとする。
にぶい私でもさすがにわかった。同じ場所で、目印のバッグを持った女性との待ち合わせ。
「舞子。真衣さんはお前だったんだな」妻もようやく気付いたのか、驚いた顔をしている。
「え?ほんとに?そんなことある?」お互いに気まずい顔を見合わせ、私たちは笑いが吹き出してきた。人通りもそこそこ多かったが、そんなことは気にならないくらい二人で大笑いしてしまった。妻と一緒に笑ったのはいつぶりだろうか。あれだけギスギスしていたものが全て吹っ飛ぶくらいお互いの顔はすっきりとしていた。
「ふ~。どうしよっか。ご飯食べて帰ろっか」「あぁ、舞子の好きな寿司でも食べるか」「え?やったぁ!」妻が喜んでいる顔を久しぶりに見た私はいつの間にか笑っていたようで、「何笑ってるの?」と妻に問いかけられた。私は無意識に微笑んでいたみたいだ。色んな女性に会ったが結局妻が笑ってくれているのが一番幸せなんだと今この時はっきりと分かった。そして私たちは、こんな偶然ある?などとお互いのこの数カ月の話をしながら美味しい食事を楽しんだ。結局、妻は知らない人に会うのが怖かったようで、なかなか誰とも会えなかったと後で聞いた。そんな中私と大喧嘩し、もうどうでも良いと思って連絡したそうだ。私は妻が誰かに取られなくて良かったなどと思える気持ちが湧いていた。
結局私は妻を愛しているのだと強く感じていた。そしてもうこんなアプリは利用しなくてもいいだろうということで、お互いの目の前で削除したのだった。ただ、私は数人と一夜限りで会ったことを最後まで言い出せなかった。

(舞子申し訳ない。二度としない)と、一生かけてでも妻に不憫な思いはさせないと心に誓ったのだった。

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