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「義理の母」~親父と再婚~

いつまでも若く純愛

「陽介、俺はこの人と再婚するぞ」と、75歳になる親父に突然宣言され、言葉を失った。その瞬間、時間が止まったように感じた。

「は? 何言ってるんだよ。お袋が亡くなったの、去年だぞ。何考えてるんだよ」と、俺は混乱しながらも親父を問い詰めた。しかし、親父は意に介さず、そのまま結婚を決め、翌週には新しい妻と一緒に暮らし始めた。

彼女の名前は美沙。親父はどこで知り合ったのかすら教えてくれなかったが、彼女は驚くほど美しい女性だった。歳は40を過ぎていると聞いていたが、実際に会ってみると40歳の俺よりも若く見えた。「義理の母が俺より若く見えるって…」と頭をかいた。

財産目当てなのかと疑いもしたが、親父に大した財産はない。あるのはこの古い家くらいだが、田舎にあるため売っても数百万程度にしかならないだろう。どうしてこんな親父と結婚することにしたのだろうかと不思議に思っていたが、彼女を初めて紹介されて以降、親父が呼ぶことも減りほとんど会うこともなかったので、聞く機会すらなかった。

そして親父が再婚して3年が経ったある日、突然親父が他界した。脳梗塞だった。「陽介さん」と、久しぶりに顔を合わせた美沙さんは憔悴しきっていた。それでも彼女は気丈に振る舞い、父の葬儀の手続きも全て仕切ってくれた。

葬式の日の夜、美沙さんは一人リビングで顔を伏せていた。「美沙さん、大丈夫?」と声をかけると、美沙は伏せたまま泣いていた。俺は何と声を掛けてあげれば良いのかわからず、「また来るから」と声を掛け実家を後にした。

親父が亡くなって悲しい気持ちと同時に、やらなければならないことが山積みだった。相続や名義変更など、考えるだけで頭が痛い。今日はその話をするために実家を訪れていた。結局、財産といえるものは家くらいで、現金は葬儀費用で消えてしまったとのことだった。正直、どこの誰かわからない美沙さんに家を渡すのは嫌だったが、美沙さんから発せられた言葉は予想外だった。

「陽介さん、私、家を出ていきますね」

「え?」全部私が相続するとか言われるのかと思っていたので、正直びっくりして言葉が出なかった。予想もしない言葉と彼女の泣きそうな表情に、「いやいや、そのまま住んでて良いよ。なかなか売れないと思うし」と思わず言葉を返してしまった。

「良いんですか?」

「あぁ、家の管理もしないといけないし、そのまま住んでていいよ」

彼女は安堵したのか、涙を浮かべながら感謝してきた。その後、少しの沈黙が流れ、
「陽介さんに話さないといけないことがあるんです」と、先ほどの安堵した顔とは違い、決意した目で話しかけてきた。

「私と哲夫さん、本当は再婚していないんです」

「え?」正直、何を言っているのか意味が分からなかった。詳しく話を聞くと、彼女は親父の親友の娘で、当時、夫の家庭内暴力に苦しめられていたという。そして離婚をして実家に戻ったのだが、元夫はストーカーとなり彼女の家族にまで迷惑をかけてきていたそうだ。そんな時に彼女の父が急死し、緊急でうちに住まわせてあげたそうだ。そして、どこかから情報が漏れても大丈夫なように、再婚したことにして匿うように住まわせてくれたのだという。

そのため彼女は2年半の間、ほとんど家から出ず怯えて暮らす毎日を送っていた。幸いなことに、つい半年前、元夫が死亡したと聞かされ、やっと安心して暮らせるという矢先に今度は親父が亡くなってしまったのだ。それを聞いた俺は、どこかで水商売している女に親父が引っ掛かったんだと思っていた自分に恥ずかしさを覚えた。

いろいろと打ち明けてくれた彼女は、疲れと重荷から解放され、安堵したのかそのままソファで無防備に寝てしまった。彼女の寝顔を見た俺は、今まで抱いていた感情が180度転換し、彼女を守ってあげなければと感じた。

親父の死後、俺はますます実家に足を運ぶようにしていた。美沙さんは徐々に元気を取り戻し始め、俺たちは次第に心を通わせるようになった。彼女の笑顔を見るたびに、俺の心は温かくなっていった。最終的に俺は実家に戻り一緒に暮らすことになった。

美沙さんとの生活が始まって半年が経ち、毎日が平穏でありながらも新しい発見に満ちていた。彼女の細やかな気遣いや、優しい笑顔は、日々の疲れを癒してくれる。ある日、仕事から帰ると、いつものように美沙さんが温かい料理を作って待っていてくれた。

「陽介さん、ご飯できましたよ」と、笑顔でキッチンから顔を出す美沙さん。その笑顔を見るたびに、俺の心は安らぎ、彼女への愛情がますます深まっていくのを感じていた。

食事を終え、リビングでくつろいでいると、美沙さんがふと俺の方を見つめながら話しかけてきた。「陽介さん、本当にありがとうございます。哲夫さんとあなたがいなかったら、私はどうなっていたか分かりません。」

「そんなことないよ。俺も美沙さんのおかげで毎日が楽しいよ」俺はそう言って、美沙さんの手を握った。彼女の手は暖かく、触れるたびに心が温かくなる。彼女の近くにいるだけで、こんなにも安心感を覚えるなんて、自分でも驚いていた。

明日でちょうど親父の一周忌。

「親父。俺、今度美沙さんにプロポーズするわな。俺が守るから安心しててな」と、仏壇の前で俺は親父に誓った。

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