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義理の娘~残されたのは連れ子

いつまでも若く感動純愛

妻が死んだ。俺に残されたのは、妻の連れ子の瀬那だけだ。血の繋がりなんてない。それでも、今目の前にいる13歳の少女が、俺の唯一の「家族」なんだ。沙織がいなくなってから、家の中はどこか空っぽで、どうしようもなく広い。何をすればいいのか、どこを向いて生きていけばいいのか、全然わからなかった。でも、そんな時でも、俺には瀬那がいた。いや、瀬那しかいなかった。

あの葬儀の時、親戚たちが「瀬那ちゃんをどうするの?」って冷たい口調で聞いてきた時のことを、俺は今でも思い出す。あの場の空気は、喪失の悲しみに包まれているはずなのに、彼らの言葉はどこか実務的で冷たく、まるで瀬那をどう片付けるかを話しているように聞こえた。俺の両親ですら「施設に預けたらどうか」なんて言い出して、もう俺の頭の中は真っ白だった。でもその時、瀬那がじっと下を向いているのが見えたんだ。彼女の肩が小さく震えていて、でも泣かないで我慢しているように見えた。あのとき、瀬那が何を感じていたのか、どんな言葉を飲み込んでいたのか、俺には計り知れない。そんな小さな体で、どれだけのものを抱えていたのか…。それを考えただけで、胸が締め付けられた。

俺は、何か言わなきゃ、と思っていた。だけど、あまりにも感情が溢れてしまって、どうにもならなかった。ふと口から出た言葉は、「俺が育てる」だった。自然とそう言っていた。瀬那が望むなら一緒に暮らしていきたい、という強い気持ちが、言葉に変わったんだ。「俺が育てる。どんなに難しくても、瀬那が望むなら二人でやっていくんだ」と、自分に言い聞かせるようにして宣言した。そしてその直後、瀬那が小さな声で「パパと一緒にいたい」って言った。泣きながら、震えた声で。あの時、俺は目の前がぼやけて見えなくなって、ただ瀬那が泣いている姿を抱きしめた。自分の娘として、彼女を守りたい、支えたい、その想いだけが胸の奥から溢れてきた。

 実はそれまでの一年程、瀬那は俺を避けていた。話しかけても短い返事しか返ってこないし、目も合わせようとしなかった。彼女は思春期に入り、母親が病気で徐々に弱っていく様子を見ていたから、どうしようもないくらい心を閉ざしていたんだろう。それは分かっていた。それでも、あの一瞬で「パパ」と呼ばれた時、俺の心にあった全ての不安や孤独が一気に消えたような気がしたんだ。もう一度、俺たちは「家族」になれたんだと感じた瞬間だった。

俺たちは、それから二人で生活を始めた。でも、簡単なものじゃなかった。沙織がいない生活は、何をするにも静かで、なんだか現実感がなかった。夜になっても沙織の笑い声が聞こえない家がこんなにも寂しいものだとは、想像もしていなかった。俺も、瀬那も、それぞれが心に大きな穴を抱えていた。だけど、そんな中で俺たちは自然と支え合うようになっていった。瀬那はまだ中学生だったのに、文句一つ言わずに家事を手伝ってくれた。最初は不器用な手つきで作る料理だったけど、俺はそれが嬉しくて、どんなに失敗しても美味しいと言った。それだけで、俺の疲れた心が少しだけ癒される気がした。

瀬那はそれから、俺のために毎日夕食を作るようになった。「パパ、今日はカレー作ってみたけど、どうかな?」とか、「ちょっと味見してくれる?」なんて、照れ臭そうに俺に料理を出してくれる。俺はそれが本当に嬉しかった。彼女は少しずつ成長していて、沙織がいない分、俺たちが家族としてもっと強くなろうとしているのが分かった。瀬那は何も言わないけど、その行動一つ一つが、俺にとっては大きな支えだった。

高校に上がる頃には、瀬那は料理がすっかり上達していた。もはや俺が台所に立つ必要もなくなってしまったくらいだ。彼女が作ってくれる夕食は、どんどん本格的になっていった。「パパ、今日はお魚の煮つけに挑戦してみたよ」と言って、綺麗に盛り付けられた料理を出してくれるその姿は、まるでプロのようだった。それに気づいた時、俺は心の中で「この子は本当に立派になった」と誇りに思った。

そしてある日、瀬那が「お父さん、私ね…彼氏ができたの」と言った時、俺は動揺した。まだ子供だと思っていた瀬那が、もう恋をする年頃になっていたのかと考えると、嬉しいような、寂しいような、不思議な気持ちだった。「どんな人なんだ?」と少しだけ強張った声で尋ねると、瀬那は「真面目で、すごく優しい人」と頬を赤らめて答えた。彼女のその顔を見て、俺は「ああ、本当に大きくなったんだな」と改めて実感させられた。

彼氏を家に連れてきた日、俺は緊張していた。瀬那にとって大切な人なら、俺もちゃんと受け入れないといけない。でも、それ以上に、俺の中にある父親としての複雑な気持ちは、どうしようもなかった。彼が現れた瞬間、なんだか落ち着かなくて、胸がざわついて仕方がなかった。

「瀬那を泣かせたら承知しないぞ」とつい大人げなく高校生に言ってしまった。あとで瀬那に怒られたけど、彼は思った以上に誠実そうで、瀬那が選んだ相手なら大丈夫だと、話すうちに思えるようになった。それでも、家族がまた変わっていくことへの寂しさは消えなかった。

そんな中、瀬那は高校卒業の頃、「調理師の専門学校に進みたい」と言ってきた。「パパ、私ね、料理をちゃんと学びたいんだ」と、彼女の瞳は決意に満ちていた。俺は心から応援したよ。「瀬那ならきっと素晴らしい料理人になれる」と、心の底から思ったからだ。瀬那は一人で未来に向かって進んでいった。

ちょうどその頃、俺も会社の後輩の美里と付き合い始めた。美里は俺よりずっと若い後輩だったけど、連れ子の娘がいる事にも理解を示す優しい人だった。正直、瀬那にどう話すか迷っていたんだ。沙織がいなくなって、瀬那を裏切るような気がしていたから。でも、瀬那は「お父さん、彼女ができたんでしょ?」とあっさりと気付いて、笑顔を見せてくれた。彼女はいつの間にか、俺の幸せを考えてくれるまでに成長していたんだ。

そして瀬那と美里が初めて会った日、俺はどうなるか緊張していたけれど、瀬那は予想以上に美里を温かく迎えてくれた。「お父さんをよろしくお願いします」としっかり言ってくれた時、俺は涙を堪えるのに必死だった。美里もそんな瀬那を抱きしめ、「これからもよろしくね」と笑顔で答えた。その瞬間、俺は新しい家族がここから始まるんだと感じたんだ。

それから、俺たちは三人での新しい生活を築いていった。美里との結婚は順調に進み、瀬那も自然に新しい家族として馴染んでいった。美里との間に新しい命が生まれた時、瀬那はその赤ちゃんをまるで自分の妹のように可愛がってくれた。「パパ、こんなに可愛い子が家族に増えるなんて、すごいね」なんて嬉しそうに言ってくれた彼女を見て、俺は本当の家族として誇らしかった。

そして、瀬那が25歳になり結婚することになった。なんと相手は、あの時の高校時代からの彼氏だ。彼は堅実に公務員になり、瀬那を迎える準備をしてくれていた。結婚式の日、瀬那が手紙を読み上げる時、俺は涙をこらえきれなかった。「パパ……今まで本当にありがとう……ママがいなくなってから、私たちは……本当に二人で一生懸命生きたよね。パパがいたから…私はここまでこれたんだ。血の繋がりなんて関係ないよ、ずっとそう思ってきた。本当に、今までありがとう…」その言葉に、俺は号泣し涙が止まらなかった。これまでの全ての苦労や、悲しみ、そして喜びが、一瞬で溢れ出した。瀬那との日々が、俺にとってどれほど大切なものだったのか、その時初めて、心から痛感した。

沙織がいなくなって、俺と瀬那は本当の意味での家族になった。血の繋がりなんて、何の意味もなかった。瀬那は俺にとって、何よりも大切な娘だった。そしてこれからも、家族としてみんなで支え合いたいと思っている。

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