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最高の妻

いつまでも若く感動純愛

俺の名前は弘明。44歳、里穂という素晴らしい女性と去年再婚し、今彼女は俺たちの子供をお腹に宿している。本来なら、こんな幸せな瞬間に何の悩みもないはずだった。だが、俺には前の結婚の時にできた娘、美鈴がいる。彼女が小学3年生の時に元妻と離婚し、親権は元妻が取ってしまった。親権獲得の裁判までしたが、結局は元妻に親権が渡り、それ以降美鈴とはもう3年も会えていない。元妻が会わせてくれなかったのだ。あの時、美鈴を守るためにもっと強引に動くべきだった――その後悔が今でも俺の心を締め付ける。

そんなある日、元義母から電話があった。

「美鈴が虐待されているの。どうにかして助けてあげてほしいのよ」

その言葉に、俺の心臓は凍りついた。元妻とその再婚相手、美鈴の義父が、彼女に酷いことをしているらしい。俺は一瞬、どうするべきか迷った。だが、美鈴を守ることが今俺にできる唯一のことだと考え、元義母に美鈴をおばあちゃんの家に呼び出してもらうことにした。その間に美鈴を保護し、児童相談所に連絡を取る決意を固めた。

こうなってしまったのは俺自身にも原因があるのは明白だった。二人が生活に困らないように家を渡した上に、かなり多めに養育費を払っていたのだ。おかげで元妻は働きにも出ず、クズのような男を連れ込んでしまった。その結果がこうことになってしまったのだ。どうにかして美鈴を取り返したい、その思いだけの行動だった。

その頃、妻の里穂は切迫早産の疑いで入院していた。里穂にこの事態をどう伝えるべきか、ずっと悩んでいた。何より、彼女の体調を優先するべきだった。だが、美鈴を目の前にした時、俺は胸が張り裂けそうになった。彼女の痩せ細った体には、いくつもの痣が残っていた。その無表情な顔、俺の目をじっと見つめる無言の目。彼女は一体どれだけ苦しんできたのか……。俺が3年も放っておいたことで、この子はどれだけ傷ついてしまったのか。

「なんでもっと早く気づけなかったんだ……」と、心の中で何度も自分を責めた。俺が父親としての責任を果たせていれば、美鈴はこんな目に遭わなかったはずだ。あの時、もっと強く美鈴を引き取るべきだったのに。法廷では何度も争ったが、それでも、俺の努力は足りなかったんだ。美鈴を守るという言葉の重さを、今さらながら実感している。

「ごめんな、美鈴……おとうさん、もっと早く助けてあげられなくて、本当にごめん……」

そう言うしかなかった。だが、美鈴は無表情のまま、静かに俺の顔を見つめていた。その目は、俺の心に鋭い痛みを刻みつけた。

 数日後、里穂がどうにか体調を持ち直し、退院することになった。俺はまだ里穂に美鈴のことを伝えられておらず、美鈴を一旦両親に預け、病院へ里穂を迎えに行った。家に帰ると、里穂が玄関に入った瞬間、何かに気づいたかのように静かに問いかけてきた。

「ねえ、誰か家に入れたの?」

その一言で、すべてを話さなければならないと悟った。俺は玄関の床に座り込み、頭を下げてすべてを打ち明けた。美鈴が虐待されていたこと、元義母に助けを求められたこと、俺がどうしても美鈴を助けたかったこと……。

里穂はしばらく黙っていた。彼女の沈黙が重く、俺の心臓が早鐘のように脈打った。結婚しているのに、こんな大事なことを隠していた俺に対して、彼女がどう思っているのか。きっと、俺に対する信頼は裏切られたに違いない。

「あなた……」と、里穂がようやく口を開いた。俺の心はもう弾けそうだった。だが、彼女はそのまま言葉を飲み込むようにして、再び口を閉ざした。まるで、何かをぐっと堪えるかのように。

その時、玄関のドアが開き、両親が美鈴を連れて帰ってきた。俺は驚き、訳が分からなかった。

「なんで……?」と聞くと、里穂が微笑みながら美鈴に優しく声をかけた。

「あなたが美鈴ちゃんね。これからは私があなたのママになるんだけど、それでいいかな?」

俺はその瞬間、何が起きているのか理解できなかった。後から聞いた話によると、里穂は俺がちゃんと家事をこなせているか心配になり、俺の両親と最近毎日のようにやり取りをしていたらしい。そこで美鈴の話を聞いたそうだ。里穂はすでにすべてを知っていたのだ。

美鈴は涙を浮かべながら、か細い声で「私のママ……?私、パパと一緒に暮らしてもいいの?」と、震えながら尋ねた。彼女の声は、まるで助けを求める子供のように弱々しかった。

「もちろんよ。もうすぐあなたの妹も生まれるから、仲良くしてくれる?」

里穂はそう言って美鈴を抱きしめた。その時、俺は一つの大きな重荷が下ろされたような気がした。だが同時に、俺は自分の無力さと遅さを強く実感していた。里穂が美鈴に対して示した包容力、その優しさを前にして、俺はただ彼女に感謝するしかなかった。その後、俺が立ち上がろうとすると、里穂が少し厳しい声で言った。

「あなたはそのまま座っていてください。」

「ええ、どうして?」俺は驚いて聞いた。

「どうしてじゃないでしょ?私たち夫婦なんだよね?そんなに大事なことを私に話さないで隠してたなんて、普通は許せないわよ?」彼女の声は冷静だったが、その裏に怒りと悲しみが感じられた。

俺は何も言えなかった。自分の行動がどれだけ里穂を傷つけたかを理解していたからだ。俺は里穂にも美鈴にも、二重の意味で申し訳ないことをしてしまった。

「美鈴ちゃん、さあ今からお洋服を買いに行こ!妹の服も一緒に選んでくれる?」里穂が美鈴に声をかけると、美鈴は小さく頷いた。

「パパも?」美鈴が尋ねると、里穂は茶目っ気たっぷりに言った。「えーパパも一緒に連れて行っていいの?」と言うとようやく美鈴がくすっと笑った。

「仕方ないわね。美鈴ちゃんに免じて許しましょう」里穂はそう言うと、美鈴を抱きしめ直し、元気よく家を出る準備を始めた。

 俺はその光景を見て、なんて素晴らしい妻なんだろう、と心から思った。彼女の優しさ、包容力――そして、何よりも彼女が俺を赦してくれたことに感謝している。これからも、俺は美鈴も、新しく生まれる娘も、そして何より里穂を大切にしていこうと誓った。

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