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浮気妻と会社の同僚

いつまでも若く裏切り

「伸二さん、少し…お話、いいですか?」

夕方、職場のフロアが静かになり始めたころ、優佳さんが控えめに声をかけてきた。彼女とは普段からよく話すけれど、いつも明るい彼女の声色は、どこか不安げで、少しだけ震えていた。
「どうしたの?」僕が答えると、優佳さんはしばらく言葉を探しているように見えた。視線があちこちをさまよい、時折彼女の指先が震えているのが分かった。
「…こんなこと、私が言うべきじゃないかもしれません。でも、あなたに知っておいてほしいんです。」
その一言で、嫌な予感が胸に広がる。何を言われるのか、僕は思わず身構えた。彼女はさらに言葉を探しているようだったが、意を決したように、深く息を吸い込むと、言葉を絞り出すように話し始めた。
「春奈さんが…浮気をしているみたいです。」
彼女の言葉は、僕の耳に届いた瞬間、まるで何か鋭いものが心をえぐったようだった。冗談だと言ってほしかった。けれど、優佳さんの顔は真剣で、嘘をついているようには見えなかった。
「どうしてそんなこと…?」
僕は、自分がどうしてその質問をしたのかも分からなかった。ただ、信じられないという気持ちだけがこみ上げてきた。
「偶然、見かけてしまったんです。奥さんと男性が…とても親密そうに歩いているのを。正直、私もどうすればいいか分からなかった。でも、やっぱり伸二さんに隠すのは良くないと思ったんです。」
優佳さんは必死に言葉を選びながら話しているのが分かった。僕の生活を壊してしまうことへの罪悪感と、でも真実を伝えるべきだという誠実さ。その狭間で苦しんでいるのが伝わってきた。
「…ありがとう。教えてくれて。」
自分でもどうやってその言葉が口から出たのか分からない。ただ、優佳さんの勇気に対して感謝しなければならないことは、どこか頭の片隅で理解していた。だが、それと同時に、自分が受け止めるべき現実に、目を背けたい気持ちが渦巻いていた。

 次の日の朝。いつも通りの朝食がテーブルに並んでいた。コーヒーカップを前にして、僕は何度も視線をさまよわせた。昨日の優佳さんの言葉が、頭の中でこびりついたまま離れない。隣に座る春奈は、何も知らないふりをしているのだろうか。それとも、もうバレているのだと察しているのか。僕は彼女に何を言うべきか、そしてどんな答えを聞きたいのか、それすらも分からなかった。
「春奈、ちょっと話がある。」
僕の声は、まるで他人の声のように冷たく響いた。春奈は手を止め、僕の顔を見つめた。彼女の表情は、少なくとも一瞬は何も感じさせなかったが、すぐに不安そうな影が差し込んだ。
「同僚から聞いたんだ。お前が浮気してるって。」
その言葉を口にした瞬間、春奈の顔がさっと青ざめた。手が震え、涙が瞳に浮かび上がる。彼女はそれを抑えようとしたのか、すぐに目を伏せたが、涙は抑えきれなかった。無言のまま、ただ涙が一筋、彼女の頬を伝って落ちた。
「…ごめんなさい。」
そう言ったきり、彼女は何も言わなかった。ただその一言だけで、すべてが本当であることを理解した。優佳さんの告白も、目の前で泣き崩れている春奈の涙も、逃れられない現実だった。
「…今はいい。今日、仕事が終わったら話をしよう。」
そう言って、僕はテーブルから立ち上がり、重い足取りで家を出た。仕事なんて手につくはずがなかった。頭の中では、春奈の浮気が何度も何度も反芻されて、心の中に広がる絶望感が止まらなかった。

その夜、コンビニ弁当を買った。春奈が豪勢な夕食を用意している姿を想像するだけで、家に帰るのが苦痛だったからだ。家に着くと、案の定、テーブルには豪華な食事が並んでいた。春奈は泣き腫らした目で僕を待っていた。
「…ごめんなさい、伸二さん。本当にごめんなさい。」
彼女は目を赤くし、何度も何度も謝り続けた。その姿を見ていると、許してしまいそうになる自分がいて、心の中にわずかな揺れが生まれた。だが、僕はその感情をぐっと抑え込んだ。感情を許してしまえば、何もかもが崩れてしまうような気がしてならなかった。
「どうして浮気をしたんだ?」その問いに、春奈は静かに答えた。
「寂しかったの…あなたが忙しくて、私のことを見てくれなかったから。相手は幼馴染なの。彼も既婚者で…でも、私は、本当にごめんなさい…」
春奈は土下座をして謝り続けた。謝罪の言葉が絶え間なく彼女の口から漏れ、床に落ちる涙が見苦しいほどに痛々しかった。許したい気持ちが揺らぐのを感じながらも、僕は必死に自分を律した。
「許すわけにはいかない。俺がどれだけお前を信じていたか、全然分かっていないんだな。」
その言葉が静かに響いた。すると、春奈は突然逆上し、涙ながらに叫んだ。
「あなたが私を放っておいたからでしょ!ずっと寂しかったのよ!」彼女の怒声が部屋にこだましたが、その瞬間、春奈の視線が僕のこめかみに止まった。
「その傷…どうしたの?」彼女は怯えたように僕を見つめたが、僕は冷たい目で見返した。
「ようやく気付いたんだな。いつも俺の顔なんて見ないもんな。」
「お前の浮気相手に殴られたんだよ。お前、俺がDVしてるって嘘をついてたんだろ?名乗った瞬間に殴られたよ。」
その言葉に、春奈は驚きの表情を浮かべ、言葉を失った。彼女はただ立ち尽くすだけで、どうすることもできなかった。
「だけどな、浮気相手もお前の嘘だとわかって、謝ってきた。慰謝料も払うと言ってる。だから、おまえも一週間以内に出ていってくれ。離婚届は俺が提出する。」
その言葉を聞いた瞬間、春奈は再び泣き崩れたが、僕の心は既に決まっていた。これ以上、この関係を続ける理由はもうなかった。
「もう嘘泣きなんてやめてくれ。これ以上…このままだと俺は本当にお前に暴力を振るってしまいそうだ。」
その言葉を放った俺の顔を見た瞬間、春奈は恐怖に満ちた表情を浮かべ、何も言えずに自室に逃げ込んだ。そして、俺は冷めきった弁当を食べた。何の味も感じなかった。

一週間が過ぎ、春奈は静かに荷物をまとめ、家を出て行った。彼女が最後に玄関で振り返り、小さな声で「本当にごめんなさい」と呟いたとき、僕は何も言えなかった。ただその背中を見送るだけだった。ドアが閉まる音が響くと、家の中は静寂に包まれた。
家が静まり返ると、ふと優佳さんのことを思い出した。彼女が僕に真実を告げたのは、単に僕を救おうとしたからだけではなかったのかもしれない。彼女のあの表情、その目の奥に何かを隠していたような気がした。
数日後、優佳さんが職場で僕に声をかけてきた。いつもの彼女らしい笑顔が戻っていたが、その笑顔の裏には、まだどこかに残っている罪悪感が垣間見えた。
「伸二さん、あの時…私、正直、少し後悔しています。私があんなこと言わなければ、もしかしたらあなたたちの関係を壊さずに済んだんじゃないかって。」
彼女の声には、重い後悔と自責の念がにじんでいた。僕は静かに首を振った。
「いや、違うよ。むしろ、感謝してる。きっともう関係なんて壊れてたんだと思う。本当にありがとう。」
その言葉に、優佳さんは少しだけ目を潤ませ、やがて微笑んだ。その笑顔には安堵の色が含まれていて、僕もまた、ほっとした気持ちになった。
優佳さんの笑顔をみた瞬間、僕は気づいた。人生はまだ続いている。春奈との過去は終わったけれど、新しい始まりが、もう目の前に来ているかもしれない。優佳さんとの会話が、僕に希望をもたらしてくれた。

これからどうなるかは分からない。だが、僕は新しい一歩を踏み出すための準備ができている。

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