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同窓会~30年ぶりの彼女

いつまでも若く純愛

車のエンジン音が耳に響く中、俺の心臓はまるでハンマーで叩かれているかのように激しく鼓動していた。30年ぶりの同窓会。過去の影と向き合うその瞬間が迫っている。今まで何度か開催されていたそうだが、中学卒業と同時に家族で逃げるように大阪に出てきたため、正人にとってはこれが初めての参加だった。
指定されたお店の前に立ち尽くし、手が震えてドアノブを掴めない。心の中で何度も深呼吸を繰り返した。その時、「正人くん? 久しぶり」と、まるで昔のような温かな笑顔で友美が声をかけてきた。その瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなり、30年の時を一気に超えた気がした。
友美は近所に住む幼馴染で、美人で聡明な女の子だった。俺はいつも友美に引っ張られる弟タイプだった。しかし、中学生に入る頃にはお互いに異性だということを意識しだした。好きだという大人の感情が芽生え始めたころ、その事件が起こった。地元のお祭りで酔っぱらった親父がトラブルに巻き込まれ、結果として親父は逮捕されてしまったのだ。
親父は普段から気の荒い性格をしていたため、もしかしたら恨んでいた人も多かったのかも知れない。田舎ということもあり、そこから我が家は嫌がらせを受けるようになった。時には落書きや張り紙、さらにはゴミや汚物を投げ入れられることもあった。そしてそのまま村八分状態になり、その村に住むことは事実上不可能に近かった。友美の親父も周りと変わらず、俺と友美が仲が良いことを許せないらしく、一切関わることを禁止してきた。
当時は今のようにスマホもなく、会おうと思っても直接家に電話を掛けるか家に行くしか方法はなかった。しかし、俺自身もまだまだ子供で、友美を好きな気持ちは持ち続けていたが、親がしてしまったことをどう消化して良いのかわからず、近所の人にも知らせず、そのまま俺の家族は夜逃げ同然で母型の大阪の親戚の元へと引っ越した。1クラスしかない田舎の学校だったため、ほぼ9年間一緒に育ったクラスメイト達との友情、友美に対する愛情や思い出も一瞬で全てを捨て去るしかなかった。
大阪に出てからは母親とともに賠償金の為に必死で働いた。出所した親父も加わり何とか賠償金は返し終えたが、5年前に親父は死に、母も一昨年死んだ。その間に付き合う女性もいたが、どうしても親父のこと、賠償金のことがあり結婚には踏み切ることができなかった。そしてこのまま寂しく一人でずっと過ごすのかと思っていた矢先に、元親友だった卓也から連絡が来たのだ。きっかけは職場の同僚のSNSにメッセージが届いたことだった。会社の宴会の写真に写っていた俺を見て、同僚にメッセージが送られてきたのだ。その同僚から知らせてもらい、そこから卓也と連絡を取り合い、半ば強引に同窓会に参加させられることになった。しかも、わざわざ新幹線で大阪までみんなで来るそうだ。
指定されたお店の前に立ち尽くし、手が震えてドアノブを掴めない。心の中で何度も深呼吸を繰り返した。その時、「正人くん? 久しぶり」と、まるで昔のような温かな笑顔で友美が声をかけてきた。その瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなり、30年の時を一気に超えた気がした。その時ドアが中から急に開いた。親友だった卓也だった。
「おー、変わってないなー。早く入って!」と半ば強引に店内に引き込まれた。同窓会には懐かしい顔がずらりと並んでいた。しかも18人、全員が集まっていたのだ。彼らの視線が一斉に俺に向けられた瞬間、時間が止まったかのような静寂が訪れた。その静寂を破るように、卓也が口を開き、『お前が悪いわけじゃないのに、あの時声を掛けづらくて』と謝罪の言葉が次々と溢れ出した。高校卒業と同時に行われた同窓会の時から、正人を見つけて謝ろうとしてくれていたらしい。その後みんなで手分けして探していたが見つけることができなかった。それがたまたま見たSNSに明らかに正人に似ている人が映っているということで、急遽メッセージを送ったそうだ。俺はそれを聞いた時、胸が熱くなり今まで我慢していた何かが崩れ落ちたかのように涙が流れた。子供の頃の記憶、友情を取り戻し、そのまま同窓会は大盛り上がりになった。新幹線の時間もあり、最後に連絡先を交換しあい、お開きになった。かなり酔ってしまった。新幹線の時間があるとはいえみんなはもう先に帰ってしまった。仕方ないけど、一人寂しさに襲われていた。とはいえ、かなり酔ってしまった正人は運転できるはずもなく。運転代行を呼ぼうと電話番号を調べていた。するとその時、一人の女性が前に立った。友美だった。友美が目の前にいる。その瞬間寂しさは一瞬で吹き飛んだ。
「少しだけ話しても良い?」俺たちは近くの公園に移動した。友美は意を決したかのように話し出した。当時はどうしていいのかわからなかったこと、長年ずっと俺を探してくれていたこと、今は同じ大阪で働いていること、さらに、みんなが気をきかせてくれて二人きりにさせてくれたことなどを涙ながらに話してくれた。
「正人くん、あの時はごめんなさい」「本当に後悔してる。会いたくて話したくて仕方なかったの」「一番つらいのは正人くんなのにどうして寄り添ってあげられなかったんだろう」と友美は泣きながらありったけの想いをぶつけてきた。その時、俺は何も言わずに優しく友美を引き寄せ抱きしめた。それと同時に友美は堰を切ったかのように大泣きしていた。しばらくたったのち、「落ち着いた?俺も付いて行くだけの子供じゃなくなったよ。大人になったでしょ?」と軽口を言うと、友美は涙を拭いながら「ふふっ、そうね」と微笑んだ。そして、俺たちはそっと唇を重ねた。その瞬間、止まっていた時間が動き出したように感じた。この同窓会をきっかけに俺たちは再会し、止まっていた時計が動き出した。これからどのように二人の時間が進むのかはわからないが、残された時間で、失った時間を取り戻せるくらい友美を愛そうと誓う正人だった。

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