PR

妻には言えない秘密

シニアの恋愛は60歳からチャンネル様シニアの話
<注意事項>
私の作品は著作権で保護されています。無断転載や模倣行為はお控えください。
必要に応じて法的措置を講じる場合がありますので、ご理解ください。

私の名前は本多智雄、60歳です。つい先日、40年近く勤めた会社を退職しました。

 長年働き続けてきた身としては、もう少し「晴れ晴れとした気持ち」になるかと思っていました。ところが、実際に会社を辞めてみると、何とも言えないぽっかりとした虚無感がありました。朝、目覚めても行くべき場所がない。時間はたっぷりあるのに、何をしていいのかわからない。そんな日が続きました。

 妻の恵はまだ53歳で、パートに出ています。お金が必要なわけではないのですが、気分転換になるし、友達とも話せるから楽しいのだそうです。

 「毎日、家にいるのも息が詰まるでしょ? 私にはこれくらいがちょうどいいのよ」

 そう言って楽しそうに出かける妻を見送ると、何だか少し置いて行かれたような気分になることもありました。私も何かしなければ、と思い、散歩を日課にしました。最初はただの時間つぶしのつもりでしたが、意外と気持ちが良く、毎日続けるようになりました。

 さらに、妻がパートの日は代わりに食事を作るようになりました。料理をするのは、思ったより楽しいものでした。レシピを見ながら材料を切り、炒め、味を調える。今まで台所仕事は妻に任せきりでしたが、いざやってみると、思いのほか達成感がありました。

 「え?、おいしいじゃん!やるじゃない」妻が笑顔でそう言ってくれるのが、何より嬉しかったのです。こうして、少しずつ退職後の生活に慣れてきたのですが…ここ最近、別の悩みが出てきました。

 もともと、私たち夫婦は仲が良いほうでした。今でも、朝起きたら軽くハグをしますし、たまにですが、未だにキスをしたりします。人に言うと驚かれますが、私たちにとっては、それが当たり前の習慣になっていました。

しかし、退職して二週間。生活が落ち着いてくるにつれ、ある変化が訪れました。会社新時代の体の疲れがすっかり取れたせいなのか、昔のような感覚が戻ってきたのです。そう。性欲が復活してしまったのです。

 恥ずかしい話ですが、妻とハグをした時に、つい体が反応してしまうようになりました。一度や二度ではありません。毎回のように、反応するようになったのです。

 最初は、バレないように少し腰を引いていました。しかし、それがあまりにも続くものだから、逆に不自然になってしまいました。

 そして、ついに先日、妻に気づかれてしまいました。

 「……ねえ」 夕方、妻がふいに声をかけてきました。

 「ん?」 何気なく返事をしましたが、その瞬間、妻の視線が自分の下半身あたりに向いているのが分かりました。

 「最近……なんか変じゃない?」どきりとしました。心臓が跳ねる音が、自分にもはっきりと聞こえる気がしました。

 「え? 何が?」すっとぼけてみせましたが、妻はじっと私を見つめています。その視線に耐えられず、私は無意識に視線を逸らしました。

 「あー……」何か言い訳をしようと思いましたが、どんな言葉を並べても、弁解にはなりません。

 妻は、しばらく考えるような顔をしていましたが、やがて「そろそろご飯にするね」とだけ言い、台所に戻っていきました。

 私は、その場で固まったままでした。気持ち悪かっただろうか。嫌な思いをさせただろうか。何も言わなかったということは、やはり触れたくない話題なのかもしれません。

 その日の夕食も、特に変わった様子はありませんでした。妻は普通に話し、普通に笑っていました。しかし、私は落ち着きませんでした。あの沈黙の意味が分からなかったからです。

 夜、私はいつものように布団に入りました。寝よう、と思いながらも、何となく眠れません。もしかして、このまま妻との関係がぎくしゃくしてしまうのではないか。そんな不安が頭をよぎった時でした。

 ふいに、隣の布団がふわりと動きました。そして、次の瞬間、妻が私の布団の中に潜り込んできたのです。

 「……恵?」驚いて声をかけましたが、妻は何も言いません。ただ、ぎゅっと私の腕にしがみついてきました。

 暗闇の中で、妻の顔はよく見えませんでしたが、呼吸が少しだけ早くなっているのが分かりました。

 「……どうした?」小さな声でそう尋ねると、妻は何も言わずに、私の胸にそっと顔を埋めました。心臓がどくん、と大きく跳ねました。十年ぶりの出来事に、私は戸惑っていました。しかし、それ以上に、妻の仕草が妙に愛おしく感じられました。私は、そっと妻の肩に手を添えました。

 「……恵」そう呼ぶと、妻はほんの少しだけ身じろぎしました。私は、その妻の顔をそっと撫でました。妻は、少し肩を震わせましたが、嫌がる様子はありませんでした。そして私たちは、十年ぶりに、お互いを求め合いました。

行為後何を言うべきか分からず、私はただ妻のぬくもりを感じていました。

 そんな私の気持ちを察したのか、妻がぽつりと言いました。

 「……ねえ、智雄さん」

 「うん」

 「びっくり、した?」

 「ああ」思わず正直に答えてしまいました。妻が、くすっと笑いました。

 「……私も、びっくりしてる」

 「なんで?」

 「だって……十年ぶり、でしょう?」言葉の端に、少しだけ照れがにじんでいました。

 翌朝目を覚ますと、あのまま抱き合ったまま寝ていたようです。

 隣を見ると、妻が静かに眠っていました。寝顔が、妙に穏やかでした

 「おはよう」

 「……おはよう」そう言った妻は、すぐに布団を頭まで引っ張り、顔を隠してしまいました。

 「どうした?」私は思わず笑ってしまいました。

 「……なんか、恥ずかしいのよ」布団の中から、くぐもった声が聞こえました。

 「何を今さら」からかうように言うと、「うるさい」という声が返ってきました。

 しばらく、そんなやりとりをして、二人で笑いました。

 朝食を食べながら、私はふとつぶやきました。

 「これからも、ずっと一緒にいような」

 何気なく口にした言葉でしたが、妻は少し目を丸くして、それから小さく頷きました。

 「……うん」その日から、私たちの日常は少し変わりました。

 特別なことがあったわけではありませんが、ハグをした時の温もりが、少し違って感じられるようになりました。

 ある日、私はふと冗談めかして言ってみました。

 「たまには一緒に風呂でも入るか?」妻は一瞬ぎょっとした顔をしましたが、すぐに「バカなこと言わないで」と笑いました。

 ですが、ふと見ると、妻の耳がほんのり赤くなっていました。

 私は、その様子を見て、思わず笑ってしまいました。

 夫婦の時間は、いつまでも同じではありません。

 これからも妻を愛し続けたいと思います。

YouTube

現在準備中です。しばらくお待ちください。

タイトルとURLをコピーしました