私の名前は美香、55歳の主婦です。夫の健二とは結婚して30年になりますが、最近は一緒にいる時間が苦痛に感じることが多くなってきました。若い頃は、互いに愛し合っていたはずなのに、いつの間にか私たちの関係は冷め切ってしまったのです。健二は仕事に没頭し、私の存在をほとんど無視しているような日々が続いています。食事を共にすることも少なく、私が用意した料理に対する反応は冷たく、感謝の言葉も聞けません。
先日、私は彼に「最近、どう思っているの?」と尋ねました。すると、彼は何の前触れもなく、「別に」と答えました。その一言が、私の心に重くのしかかります。
私はこのままやっていくのが本当に辛くなってきました。いったい、私たちの関係はどうなってしまったのでしょうか。心のどこかで、もうやっていけないという思いが強くなっている自分がいました。
ある日、私は思い切って健二と真剣に話をすることに決めました。今後のことを考えずにはいられないのです。リビングのソファに座り、緊張しながら彼を呼びました。「ねえ…少し話があるだけど…」と言うと、彼はスマートフォンを見ながら「何?」と興味なさそうに答えました。私は心の中で深呼吸をし、意を決して言いました。
「私たち、もう一度真剣に話さないといけないと思うの。離婚するのか、別居するのか…いろいろ考えてるんだけど、あなたの意見を聞かせてくれる?」
すると、健二は驚いたように顔を上げ、私の目を見つめました。「お前、そんなこと考えていたのか?」と健二は言いました。私は彼の反応に驚きました。
まさか、彼が私の本気の思いを理解していないとは思いませんでした。
「もちろんよ。私だって、こんな状況が続くのは辛いもの。何かしらの決断をしないと、私たちのこれからは見えないよ」
と私は続けました。
健二はしばらく沈黙し、考え込んでいました。私が思っていたよりも、彼は離婚について真剣に考えていなかったようです。それどころか、彼は私の発言に対して「別居ってどういうこと?それで本当に解決すると思っているのか?」と反論してきました。私の心は一瞬、挫けそうになりました。
その後、会話はしばらく続きましたが、意見が平行線をたどるばかりでした。健二は、私が求めるような変化を望んでいないのかもしれません。そんな時、彼は突然、驚くべき提案をしました。
「どうせなら、しばらく夫婦を交換をしてみないか?」
という言葉に私は目を丸くしました。私にはその提案の意図が全く分からなかったのです。
「何それ?」
と私は聞き返しました。
健二は少し照れくさそうにしながらも、真剣な表情で言いました。
「俺も、別に今の状態がいいとは思っていない。でも、他の人と付き合うことで、俺たちの関係も見直せるかもしれない。そう考えたんだ。」
私は言葉を失いました。夫婦交換?そんなことが本当に現実になるなんて思ってもみませんでした。自分が何を言っているのか、理解できないのです。
「そんなこと、私には無理よ」
と私は拒否しました。しかし、健二は続けました。
「もしそれで改善しないなら、離婚でもいいじゃないか。俺の最後の頼みと思って聞いてくれないか?」
その瞬間、私は心が揺れ動きました。健二の目に真剣な光が宿っているのが分かりました。彼の最後の頼みを無視することができないと思い、私は一度は心の中で拒否していた提案を受け入れる決意をしました。
「わかったわ。やってみる。でも、本当に改善するかはわからないから、その覚悟はしておいて」
そうして、私たちの新しい試みが始まることになりました。不安と期待が入り混じる中で、果たしてこれが私たちの関係を改善するきっかけになるのか、あるいはさらに深い溝を生むことになるのか、私には見当がつきませんでした。これからのことを思うと、心配と不安が両方ありました。
果たして、私たちの関係はどのように変わるのかこの時点ではわかりませんでした。夫婦交換の相手として、健二が選んだのは彼の会社の後輩、マサキくんでした。
52歳で、爽やかな笑顔が印象的な彼ですが、正直なところ、私には少し複雑な気持ちがありました。
正輝くんの奥さんは私の友人の妹で、彼女とは何度か食事を共にしたことがあるため、私はこの状況が妙な気まずさを生むのではないかと心配していました。
それでも、私はすでに離婚を考えていたため、特に拒否する理由はありませんでした。
交換が始まった日、正輝くんは明るくてフレンドリーな雰囲気で、私をリラックスさせようとしてくれました。
「美香さん、よろしくお願いします」
と笑顔で言ってくれた彼の言葉に、少しだけ心が和らぎました。夫よりも優しい態度に最初は安心感を覚えました。しばらくは、彼との時間が新鮮で楽しいものに感じられたのです。
しかし、次第に正輝くんの本当の姿を知るにつれ、その印象は変わっていきました。彼は仕事が終わると、飲みに行くことが多いようで、何度も遅く帰宅しました。
最初は「仕事で疲れているんだな」と思っていましたが、ある晩、彼が帰ってきたのは午前2時を過ぎた頃でした。
「ごめん、飲みすぎちゃって」
と言いながら、ふらふらとした様子で部屋に入ってきたのです。そんな姿を見て、私は少し呆れてしまいました。
また、正輝くんは料理をほとんどしないため、私が夕食を用意しても、彼はあまり手伝おうとしませんでした。
私がせっかく作った料理を「これ、うまいな!」と褒めてくれるのは嬉しかったのですが、その反面、彼が家事をまったく手伝わないことに対して不満が募っていきました。
そんな彼に対して、だんだんと彼の妻がどれだけ苦労しているのかを想像するようになり、気の毒に思うようになりました。
ある晩、私は正輝くんに「最近、忙しいの?」と聞いてみました。
すると、彼は「いや、特に。友達と遊んでるだけだよ」と言って、またビールを飲み始めました。
飲みすぎて酔っぱらい、私に向かって「美香さんも一緒に飲もうよ!」と誘ってくるのですが、私はその場が心地よいとは思えませんでした。自分が一緒にいても、彼は自分の世界にしか興味がないように感じました。
また、正輝くんが友人たちと頻繁に遊びに行くため、私に対する配慮がまったくないことにも気付きました。彼は「明日、友達と旅行に行くから、夕食はおにぎりでも作っておいてくれればいいよ」と言い放ちました。
私は思わず「それって、私の仕事じゃないでしょ?」と反論しましたが、彼は「そんなこと気にしないで頼むよ〜」と笑い飛ばしたんです。
その姿を見て、夫の健二がどれほど家事を手伝ってくれていたかを思い出し、彼に対する評価が少しずつ変わっていきました。
そうこうしているうちに、正輝くんとの生活が終わりを迎えました。初めの頃は、健二よりも優しいと思っていた正輝くんですが、彼のだらしない言動を目の当たりにするうちに、健二の方が遥かにマシだと感じるようになりました。
正輝くんが飲みすぎて帰ってくるたび、そして何も手伝わない姿を見るたびに、私の心には健二の存在が徐々に浮かんできました。
健二は飲んでくることはあっても夜中はありませんし、起こすと悪いからと言って宿に泊まってくることもあります。その時に思ったのです。
彼は気を遣ってくれていたのだと…。
夫婦交換が終了した後、私は以前のように離婚を考える気持ちが薄れていくのを感じました。健二が私にどれだけ気を使い、家事を手伝ってくれていたのかを思い出し、少しだけ彼のことを見直すことができたのです。
もちろん、彼の全てが完璧だとは思いませんが、正輝くんとの生活を経て、夫の良さを再認識したのは大きな収穫でした。
私が離婚しないと言った時、彼は目を丸くしていました。
「やっぱり夫婦交換って効果あるんだな~!」と効果を実感しているようでしたが、
もしかしたら健二を上回る人だったら離婚していたと思います。正輝くんだったから良かったのでしょう。
だからもう少しだけ、夫婦を続けようと思うようになりました。夫婦交換の経験を通じて、健二との関係を見つめ直すことができたのです。
これからは、互いに理解し合い、協力していける関係を築いていきたいと思っています。
でもまぁ離婚しないかどうかはこれからの彼次第ですが…