私の名前は石川秀美、58歳です。夫は小さな会社を経営しており、週末には決まって従業員の鈴木さんという男性を無理やり家に連れてきます。二人でお酒を飲み、夫が酔いつぶれるまで鈴木さんは無理に付き合わされるのが毎週末の恒例行事となっていました。
その度に私は鈴木さんを気の毒に思いながらも、最後はベロベロの彼をタクシーに押し込み、何事もなかったかのように週末を終える日々を送っていました。けれども、そんな生活が続いていたある週末に、事件は起こったのです。
その日もいつものように鈴木さんが家に来て、夫と一緒に飲んでいました。夜が更け、いつものように夫が先に酔いつぶれてしまった後、私が鈴木さんを送り出そうとしたとき、彼が突然私に抱きついてきたのです。彼の腕の温もりと近くで感じた彼の息遣いに、私の心臓は止まりそうなほどドキドキしました。翌週、彼はそのことを覚えていない様子でしたが、私はその瞬間を忘れることができませんでした。
それ以降、鈴木さんが家に来る度に私は心がざわつくようになり、彼の一挙手一投足に目を向けるようになりました。そして、ある週末のことでした。その日、夫はいつも通り酔いつぶれてしまいましたが、鈴木さんはいつもより酔いが浅い様子でした。
「奥さん、いつもご迷惑をおかけしてすみません。」
彼は頭を下げてそう言いました。
「いえいえ、うちの主人に付き合って大変ですね。嫌なら断っていいのよ。」
「いえ、社長には本当にお世話になっているので。」
彼の誠実そうな言葉に微笑みながら返事をしたそのとき、鈴木さんがふと深刻な表情を浮かべ、言いにくそうに切り出しました。
「この前は抱きついてしまって、本当にすみませんでした。」
驚きました。彼がそのことを覚えているとは思っていなかったのです。さらに彼は続けました。
「実は…僕はあなたのことが好きなんです。」
その言葉に、私は頭が真っ白になりました。
「だから、毎週ここに来るのは、社長のためというよりも、あなたに会いたかったからなんです。」
そう告白する彼は、まるで少年のような純粋さで、私をまっすぐに見つめていました。そして次の瞬間、彼は私を抱きしめてきたのです。驚きながらも、その強い抱擁に逆らうことができず、私は体の力が抜けてしまいました。
夫が隣の部屋で眠っているという背徳感が胸を締め付ける中、鈴木さんの真剣な気持ちが伝わり、私の心は揺れ動きました。久々に女性として扱われることに体も熱くなり、そして私は、そのまま彼と唇を重ねてしまったのです。
それが全ての始まりでした。一度許してしまったら、私の気持ちはもう止まりませんでした。その夜、私は夫が隣の部屋で眠っているにもかかわらず、鈴木さんと関係を持ってしまいました。彼の手が触れるたびに心が震え、押し殺した声が部屋の静けさの中に響く……その背徳感が妙に心を高ぶらせました。
それ以降、毎週末、鈴木さんと私は夫が眠りについた後に逢瀬を重ねるようになりました。最初は罪悪感に苛まれていましたが、彼の優しさと情熱に触れるたびに、その気持ちは薄れていきました。
さらに、ある週末には鈴木さんが私をドライブに誘い出しました。夫が酔いつぶれて寝ている間の短い時間でしたが、私にとっては新鮮な刺激でした。車内では鈴木さんが「奥さんとこうして二人きりになれるのが夢だった」と告白し、私の手をそっと握りました。その時、夜の街の静けさが二人の距離をさらに縮めたように感じました。
また別の日には、鈴木さんが私の誕生日を密かに覚えていて、さりげなく小さな花束を持ってきてくれました。「こんな小さなものだけど、受け取ってもらえたら嬉しいです。」と照れたように言う彼の姿に、胸が熱くなりました。それまで忘れかけていた自分が女性であるという感覚を、彼は蘇らせてくれたのです。
ある日、鈴木さんが仕事の帰りに突然私を待っていたことがありました。夫が飲み会で遅くなると知っていた鈴木さんは、「少しだけ話がしたくて」と言いながら、私を近くの公園へ誘いました。夜の静けさの中、鈴木さんは自分の過去や、孤独だった日々について語り始めました。
「僕はずっと一人でした。誰かを本気で愛したこともなかった。でも、あなたと出会って初めて、自分がこんなに人を想うことができるんだと知りました。」
彼の言葉に、私の胸は熱くなり、自然と涙がこぼれていました。その時、鈴木さんはそっと私の涙をぬぐい、「もう泣かなくていいんです。これからは僕があなたを守ります」と言ってくれました。
その言葉に、私は彼への想いが止まらなくなりました。彼との時間が私にとってかけがえのないものとなり、日々の生活が色鮮やかに感じられるようになりました。
そんな中でも、夫との生活は続いています。彼がいる限り、私と鈴木さんの関係は秘密のままでなければなりません。その背徳感が私たちの関係をさらに燃え上がらせる一方で、いつか全てが明るみに出るのではないかという不安も常につきまとっています。
それでも私は、彼と過ごす時間を選び続けてしまいます。いくつになっても人を好きになる気持ちは止められないものだと、私は身をもって知りました。私はいつか罰を受ける日が来るのだとは思います。でもどうしてもやめられないのです。