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お隣さんからあの声が

シニアの恋愛は60歳からチャンネル様シニアの話
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私の名前は松本真理子、もうすぐ61歳になります。夫の卓は60歳で結婚して40年近く経ちました。子供たちはそれぞれ家庭を持ち、今は夫婦二人だけの生活。持ち家がない私たちは、夫の定年後にお金の不安が出てきました。その為、家賃の安い市営住宅に引っ越しをすることになったのです。築40年以上の古い建物で、壁も薄いけど、リフォームはされているので住みよくはなっていました。そして、似たような境遇の人たちが集まる場所だからか、不思議と落ち着くんです。隣のご夫婦も同年代で、私たちと似たような生活を送っていると思っていました。少なくとも、あの日までは。

引っ越して数週間して、家の中は物音が響くのが少し不満でしたが、生活自体は概ね満足していました。ところがある晩、隣から妙に大きな声が聞こえてきたんです。最初は夫婦喧嘩かと思ったのですが、どうも違う。私はこっそりとベランダに出て、隣の様子をうかがいました。そしたら、なんとベランダの窓が全開なのか、隣人夫婦が窓際で大人の行為をしているではありませんか!信じられませんでした。こんな歳で、しかも外に丸聞こえで。それも声がやたらと大きいのです。まさかの光景に、私は急いで部屋に戻りました。その日は夫が外出中だったので助かりましたが、これがもし夫と一緒だったらどうしていたかと思うと、私はなぜか冷や汗が止まりませんでした。

数日後、逆隣の奥さんと話す機会があり、あの晩のことを切り出すと、「聞こえてた?やっぱりねぇ」と言われました。なんでも、そのご夫婦の声は近隣では有名で、月に二度ほど声が響いてくるのだとか。しかも、誰も直接注意できないそうです。そりゃ中々注意なんてできませんよね。私は改めて呆れてしまいましたが、同時に妙な興味も湧いてきました。あの堂々とした行為をする二人は一体どんな人たちなのか、と。

もちろん引っ越しの挨拶時にはお会いしましたが、一瞬の出来事であまりどんな人だったか記憶にないのです。

そんなある日、夫が隣人夫婦の行為に遭遇してしまいました。その時、私はお風呂に入った後掃除をしていたのですが、突然、夫が大慌てで「ちょ、ちょっと早く上がって!」と私に早くお風呂から上がるよう急かしてきたんです。もちろん私は何があったのか察していましたが、無理よと何事もないふりをして流しました。夫はその後も落ち着かない様子で、妙にそわそわしていました。

その夜、特にその話題を夫が振ってくることはありませんでした。でも、夫が何かを考えているのは明らかでした。私はそれを見て、少々複雑な気持ちになりました。正直なところ、もうそういう関係は無理だと自分では思っていましたし、隣人夫婦のような情熱的な愛情を持つ自信もありません。でも、どこかで「いつからしなくなったのかな」という疑問も湧いてきたのです。

そして驚くべきことに、夫は隣人夫婦と話す機会があったらしく急に親しくなり、私たちを食事に招待してきたのです。

隣人夫婦からの食事の誘いに、私は正直気が進みませんでした。「いいわ、私は遠慮しておく」と断るつもりでしたが、夫が「そんなことできるか。せっかくだから行こう」と無理やり参加させられることに。私は仕方なく準備をして、隣のドアを叩きました。

ドアを開けて出迎えてくれたお二人は、なんとも上品で落ち着いた印象のご夫婦でした。あの声を出す人たちと同一人物だとは思えませんでした。中に通されるとさらに驚きました。市営住宅の一室とは思えないほど部屋でした。高そうな絨毯に、家具も高級感漂うもので統一されていました。「なんだか海外にいるみたい」とつい口にすると、奥さんが「ありがとうございます。でも、元々海外にいたんです」と微笑みました。

会話が進む中で、お二人の柔らかい物腰とユーモアのある話し方にすっかり打ち解けてしまいました。食事も手が込んでいて、まるでレストランのようでした。そんな中、奥さんが突然、あの件について触れました。

「もしかして、私たちの声が聞こえちゃってますか?」

その質問に、一瞬場の空気が固まりましたが、私は正直に「はい」と答えました。すると、奥さんは「申し訳ありません、本当に恥ずかしいです」と深々と頭を下げ、旦那さんも「気をつけるようにします」と謝罪してくれました。これには少し驚きましたが、続いて旦那さんが発した言葉に、さらに度肝を抜かれました。

「でも、お二人はどうなんですか?最近、愛し合っていますか?」

突然の質問に、私は何を言えばいいのかわからなくなり、「もうそんな年齢じゃないですし」と濁しました。すると旦那さんが、「ダメですよ、それじゃ。やっぱり愛し合わないと。だから僕たち若いでしょ?」と笑顔で返してきたのです。

「え?若いって……」と私が問い返すと、お二人は自分たちの年齢を明かしました。なんと、旦那さんは73歳、奥さんは71歳。見た目は私たちと同年代か、それ以下に見えるほど若々しいのに、その数字には驚かされました。

「だからなんですよ。愛し合うことが健康の秘訣です」と奥さんが笑顔で言い、私と夫は言葉を失いました。

その食事会を境に、夫の態度が明らかに変わりました。何か考え込むようなそぶりを見せたり、私に向ける視線がどこか落ち着かない。私は正直、隣人夫婦の話に触発されつつも、「自分にはもう無理だ」と思っていました。でも、夫が何も行動に移さず、ただそわそわしているだけなのを見ているうちに、少しずつ心が揺れ始めたのです。

自分から誘う?そんな気持ちが私の中で芽生えつつありました。だけど、そんなこと言えるはずありません。夫が先に行動を起こしてくれるのを待つしかありませんでした。なので私達は最近、妙にそわそわした日々を送っています。隣人夫婦の言葉をきっかけに、私たちの夫婦関係がどう変わるのか、少し楽しみでもあり、不安でもあります。

そんなことを思いながら、いつものように夫婦二人で、大好きなクロワッサンとコーヒーを楽しむ時間を過ごすのでした。

「ねえ、卓さん」

「なんだ?」

「ううん。なんでもない」

その言葉に夫は少し照れたように「なんだよ」と短く答えました。その言葉が妙に頼もしく、そして温かく感じられたのです。

これから私たちがどう変わるのかはわからないけれど、隣人夫婦のおかげで少しだけ、夫婦の未来に期待する気持ちが生まれたのは確かでした。

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