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夫への罪悪感

シニアの恋愛は60歳からチャンネル様シニアの話
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私の名前は遠藤恵子。今年で61歳になります。子どもは2人おり、それぞれが既に結婚して独立しています。10年ほど前までは孫たちがよく遊びに来てくれていましたが、孫たちも大きくなったこともあり今ではその頻度も減り、私と夫は二人きりの時間を淡々と過ごしています。夫とは、特別仲が良いわけでも悪いわけでもない、どこにでもいる普通の夫婦だと思っています。なので何か大きな刺激があるわけでもなく、「これが歳を重ねるってことなのかな」と自分に言い聞かせるようにして日々を送っていました。

そんな私ですが、まだ年金を受け取るには少し早く、家にじっとしているのも性に合わないので、小さな喫茶店で働いています。家計の足しにもなりますしね。そのお店は地元の商店街の片隅にひっそりと佇む、こじんまりとした静かなお店。店主の利一さんと、もう一人のパートさん、そして私の三人で切り盛りしています。午前中は、利一さんともう一人のパートさん、私は昼から夕方まで。お昼の1時間以外は、利一さんと一対一です。そんな利一さんは55歳。長年のサラリーマン生活の競争に疲弊して、早期退職を利用して会社勤めを辞めて、この喫茶店を始めたそうです。初めて会ったときの彼は、少しシャイで穏やかな人でした。けれど、彼の柔らかな物腰や温かみのある声は、お店だけでなく、私の心まで優しく包み込むような安心感を与えてくれました。お客様もそういった彼の雰囲気が出ているのを気に入っている方ばかりでした。

パートを始めたころは、当然のように普通の店主とパートという関係でした。それが当たり前だと思っていたし、何の問題もなかったんです。でも、いつのころからか私は、彼の一挙一動に目が向き、彼の声や笑顔を心待ちにしている自分に戸惑いを覚えていました。

ある日、閉店後の片付けをしていたときでした。カウンター越しに視線を感じて顔を上げると、利一さんが静かにこちらを見つめていました。「恵子さん、最近疲れてるんじゃないですか?」その声は驚くほど優しくて、まるで私の奥底に潜む小さな悩みまで見透かされているようでした。私は慌てて「いえ、大丈夫ですよ」と笑って答えましたが、胸の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じました。その夜、帰り道を歩きながら、その一言が何度も頭を巡り、心がざわついている自分に驚きました。

次第に私は変わり始めました。鏡の前で少しだけ髪を整えたり、彼の好きなコーヒーの淹れ方を覚えたり、以前は気にしなかったようなことに意識が向くようになりました。そんな自分が情けなくて、可笑しくて、でもどこか嬉しくて。この気持ちは何だろうと、自問自答する日々が続きました。

雨が降るある日、閉店後のお店に私たち二人だけが残っていました。窓を叩く雨音が静かに響く中、ふと彼が近づいてきて、思いがけないことを言いました。「最近、恵子さんと話している時間がすごく楽しいんです」その言葉に、胸が締め付けられるような感覚を覚えました。「私なんて、ただのおばさんなのに」と笑ってごまかそうとしたのですが、彼の真剣な眼差しがそれを許さないように感じました。

その瞬間、彼が私の肩にそっと手を置き、抱き寄せました。本当は拒否できるはずなのに私の体は抵抗することは出来ませんでした。そしてその温もりに私は身を委ねてしまいました。そして次の瞬間、彼の唇が私の額に触れたのです。こんなことがあってはいけない、そう思う反面、その一瞬の温もりがどれほど私の心を満たしたか、言葉にはできません。

もしかしたらそうなることを望んでいたのかもしれません。でも、その後の帰り道、私は涙が止まりませんでした。家に帰ると、夫がいつものようにテレビの前でうたた寝をしていました。その姿を見たときに、私は罪悪感が一気に押し寄せてきました。「私がこんなことをしているなんて、もし夫が知ったら…」そう考えると怖くてたまりませんでした。

翌朝、夫が珍しく「最近、お前、元気ないんじゃないか?」と声をかけてきました。その瞬間、胸がぎゅっと締め付けられるようでした。夫は私を気遣ってくれているのに、私は…。罪悪感に耐えきれず、「ううん、何も無いよ…」とだけ答え、すぐにその場を離れました。

夫に対する申し訳なさと、利一さんへの想い。この二つが私の中でせめぎ合い、どちらも捨てることができない自分に、苦しくてたまりませんでした。それでも、利一さんの笑顔や声が、どうしても心に残ってしまうのです。

私は、今すぐに喫茶店を辞めるべきなんだとわかっているんです。そうしないと今後大変になることも分かっているんです。

このまま一緒にいると後戻りできないことになるものわかっているんです。でもどうしても彼と離れることを選択できないのです。

この歳になって、こんな感情に振り回されるなんて思いもしませんでした。でも、これが私の「今」なのだと思います。この先、どうなるのかは分かりません。ただ一つだけ言えるのは、この心の奥に灯った想いを、簡単に消すことができないということです。こうやって少しお話することで少しだけ冷静になれる自分も出来ました。

今後はどうなるのかまだわかりませんが、とにかく今はゆっくり考えたいと思います。

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