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息子の嫁なのに意識してしまうのです

シニアの話シニアの馴れ初めチャンネル様

俺の名前は東堂弘樹60代です。定年してから暇を持て余すようになったのですが正直今は困った状況になっています、その理由というのが息子の嫁です。困ったと言っても息子の嫁に問題があるわけではありません。若干気の強いところがありますが、消極的な息子にはちょうどいいと思っています。

近所に住んでいる息子夫婦は定年をしてひとりで過ごす時間が増えた俺のことをきにかけてくれています。妻はどうしたと思われるかもしれませんが、息子が子供の頃に離婚をしてそれから男手ひとつで育ててきたので元妻との交流はありません。そもそも幼い息子がいるのによそに男を作ってしまった元妻のことなど思い出したくもありません。息子も同じ気持ちなのか、離婚してから母親のことを口にすることはありませんでした。

正直息子には夫婦というものの汚い部分を見せてしまったので結婚はしないんじゃないかと思っていました。その証拠に息子は交際しても長続きをしなかったからです。自分の母親の不倫現場などを幼い頃に見てしまったことから「裏切られるかもしれない」という思いが強かったのでしょう。息子から詳しく聞いたことはありませんが、重い感情をぶつけてしまっていたのでしょう。だけど、今の嫁はそんな息子をしっかりと受け止めてくれています。息子にとって良い嫁であり、俺にとっても良い義理の娘だと思っています。

そんな嫁に対して、俺は嫁が気になってしまうようになっていたのです。端的に言えば、息子の嫁を異性として気にしてしまっているということになります。息子の嫁はまだ30代前半で、俺とは2周り以上も年下です。それ以前に息子の選んだ女性を異性として見てしまうなんて最低なことだと分かっているのです、

「お義父さん、今日のお昼に煮ものを作ってきました」

「お義父さん、顔色が悪いみたいですけど体調が悪いんじゃないですか?」

嫁は夫の父親としか見ていないと分かっていても、このように気にかけてもらえること、優しい言葉をかけてもらえることが嬉しくてどうしても意識せざるを得ません。嫁にそういうつもりがないと分かっていても、意識しているせいか勘違いがどんどんひどくなっている気がします。嫁も少なからず俺を意識しているから手間のかかることを率先してくれているのではないか、と。

これは息子に対する裏切りであり、嫁に対しても侮辱的な考えだと分かっています。まだ息子夫婦には子供がいないので俺を気にかける時間を多く取れるのでしょう。子供ができたら俺を気にかける時間などなくなるはずと思いながら、今の状況に耐えてきました。そんなある日のことでした。息子夫婦が揃って夜に俺の家を訪ねてきたのです。何かあったのだろうかと身構えている驚きの言葉を言われました。

「父さん、同居しないか?」

「……え?」

「ほら、父さんはアパートで独り暮らしだろ?俺たち家を買おうかって話をしていて……」

「お義父さんが嫌でなければなんですけど一緒に暮らせたらどうかなと思うんです」

はっきり言ってありがたい申し出です。俺には趣味と呼べるものはありません。毎日ぼんやりして過ごす俺のことを心配してくれているのでしょう。喜ばしいことだということは分かっているけれど、俺にとっては余計に頭を悩ませることでしかありません。俺の気持ちを知らないふたりだからこそ、同居なんて言ってくれるのだと分かっています。

俺だって理性というものがあるので、嫁に対して無体を強いるようなことをしません。だけどこの先年齢を重ねて認知症を患った時が怖いのです。認知症は自分の行動を自分で律することができません。俺の同僚も親が認知症になって大変だった人がいます。今は高齢者施設などもありますが、簡単に入所できるわけではなく何年も待たなければいけない場合もあるようです。

それに、義理堅い息子夫婦であれば俺がどんな状態になったとしても自分たちで面倒を見ようとするかもしれません。その時にいけないことをいけないと分からない状態になっていたら、俺は息子にも嫁にも、将来できるかもしれない孫にもひどいことをするかもしれないのです。

「お前たちの気持ちは嬉しいが、俺は遠慮させてもらうよ」

「え、お義父さん、どうしてですか?」

「お前たちはまだ子供もいないだろう?考えていないわけじゃないんだろ?」

「それはそうですけど、それとこれとは話が違うと思いますけど」

嫁も息子も俺によくしてくれています。だけど、今の距離だからこそ適切な関係を築けているのかもしれないことを伝えました。どんなに仲が良い者同士でも近すぎれば嫌なところが見えてきます。俺と息子は血のつながった親子ですが、嫁にとっては他人でしかありません。嫁の立場を考えれば、俺の嫌なところが見つかっても言いづらいでしょう。

「お前たちが俺のことを考えてくれるのは嬉しいんだが、まずは自分たちを優先しなさい。色々と助けられている側としてこんなことを言うのはよくないのかもしれないけどな」

さすがに息子の嫁を女として意識しているなんて言えるはずがありません。息子に対しても嫁に対してもひどい裏切りだと分かっているからです。だから、俺は同居の話が落ち着いたら少し遠くに引っ越しをしようと思っています。近所に住んでいるからこそ、何かと嫁も気遣わないといけないと思っているのかもしれません。物理的な距離を作った方がお互いにとっていいのだと気づいたのです。

「俺は将来嫁と子供、そして父さんと一緒に暮らせればと思っていたんだけど」

「気持ちは嬉しいよ。だけどな、お前はもう結婚したんだから自分の家族を優先しなさい。自分の親をそこに入れてしまうと亀裂が入る。しかも子供を望んでいるなら、子育てを甘く見ているだろうとしか言えない」

子供が生まれたら子育てが一段落つくなんて暇はありません。年齢に応じた大変さがあるのです。息子もしっかり協力する前提とはいえ、そこに気を遣う相手の私が同居すれば嫁の負担はどれだけ大きくなるのかと想像もできないのでしょうね。良くも悪くも楽観的な息子で恥ずかしいです。

「でも嫁も同居には賛成だって……」

「そりゃ嫁さんの立場で言えば、強く拒否することもできないだろう。お前の嫁さんは優しいから拒否しなかったのかもしれないが、普通に義父との同居は負担が大きくなるんだよ」

少し強めの口調で言うと息子はしょんぼりしました。嫁も何も言わなかったところを見ると、息子に強く同居を迫られたのではないかと思います。

「結婚したのなら、何があっても嫁さん第一でいるくらいの覚悟を持て」

息子の嫁を意識している俺が言える言葉ではないのは分かっています。だけど、しっかり言葉にすることで息子だけではなく自分の心も戒められる気がしたのです。その後、息子は同居を諦めて夫婦、そして将来の子供のことを考えたマイホームを考えているそうです。

俺は自分の気持ちをひた隠しにして、同居の話があった半年後に隣の市に引っ越しました。息子夫婦からは「どうしていきなり」と驚かれましたけどね。マイホームの話が進んで着工した時期を狙って引っ越しをしました。そうすれば、息子たちが心配して俺の近くに引っ越すことはないと思ったからです。

息子の嫁を異性として意識するなんて、はっきり言って最低です。まだ気持ちだけで済んでいるうちに距離を置いたのは正解でした。引っ越しをしてから少しずつ気持ちが落ち着いてきたからです。これならば、息子の嫁に会っても義理の娘として接することができるでしょう。もしかしたら、息子の結婚を見てから寂しさが募っていたのかもしれません。寂しさが変な方向に向かわないように、何か趣味を見つけてそちらを生きがいにしようと思います。

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