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水着姿にドキドキ

シニアの恋愛は60歳からチャンネル様シニアの話
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私の名前は後藤武史です。定年退職してから、私はずっと家にいるようになりました。

最初のうちは自由を満喫していました。朝は好きなだけ寝て、昼はテレビを見ながらのんびり食事をする。会社に通っていた頃に比べたら、夢のような生活です。

しかし、その生活にもすぐに飽きがきました。何をするわけでもなく、ただ時間が過ぎていきます。時計の針は遅々として進まないのに、気づけば一日が終わっている。何より、妻の視線が変わっていきました。

最初は優しかったのです。退職祝いにちょっとしたごちそうを用意してくれたり、労いの言葉をかけてくれたりしました。しかし、日が経つにつれて、口数が減り、ため息が増えていきました。

「何かしたら?」その一言が、徐々に私の耳にこびりついていきました。

何かしたら、と言われても、何をすればいいのか分かりません。長年、仕事に追われて生きてきたのです。趣味らしい趣味もない。散歩をしても、すぐに飽きる。そんなとき、昔の飲み仲間の正志から電話がかかってきました。

「お前、暇してるだろ? シニアのアクアビクスに行かねえか?」アクアビクス、なんだそれ、と聞き返しました。

「プールで歩いたり、ちょっと泳いだりするだけだよ」聞いてもピンときませんでした。正直、気が進まなかったのですが、正志はしつこく誘ってきました。

「頼むよ。一人じゃ行きづらいんだ」ここまで言われると、断るのも面倒になり、仕方なく行くことにしました。

家に帰って妻に話すと、驚くほどあっさりと賛成されました。

「あなた、退職してからお腹が出てきたし、ちょうどいいじゃない」そう言いながら、どこか嬉しそうでした。私が家を空けることで、自分の自由な時間が増えるのが嬉しいのかもしれません。

「お前も一緒に行くか?」試しに誘ってみましたが、「私は忙しいからいい」とあっさり断られました。

アクアビクスの当日、正志と一緒にプールへ向かいました。思った以上に参加者が多く、意外と活気がありました。

「お、若いインストラクターがいるぞ」正志が小声で囁きます。確かに、指導役の女性は30代くらいの爽やかな美人でした。

「お前、これが目的じゃねえだろうな」疑いの目を向けると、正志は笑いながら肩をすくめました。

「そんなわけねえだろ。でも、おっさんばっかりよりいいだろ?」まったく、昔からこういうところがあるやつです。

プールでは二人一組でのペア運動が義務付けられていました。私と正志のほかに、同じグループになったのは二人の女性でした。

「真美子さんと、久恵さんです。よろしくお願いします」二人とも60歳くらいでしょうか。しかし、妻とはまったく体型が違いました。真美子さんはスラリとした長身で、スタイルがいい。しかも、かなり際どい水着を着ています。

「うわ、すごいな……」正志が小さくつぶやきました。私も、心の中でまったく同じことを思っていました。

「では、二人一組で組んでくださいね」インストラクターの指示に従い、ペアを組むことになりました。

「お前と組むなんて嫌だ」正志はそう言って、さっさと久恵さんとペアになりました。

当然、私は真美子さんと組むことになります。

「よろしくお願いしますね」真美子さんがにこやかに微笑み、私の手を取りました。その瞬間、妙に心臓が跳ねるのを感じました。

水の中で触れ合う彼女の手は、信じられないほど柔らかく、温かく感じました。

プールの中で、私たちは手をつないで水の中を歩きました。最初は単純な動きでしたが、なぜか緊張します。

「武史さん、力入りすぎですよ」言われて、ハッとしました。確かに、私は異様に力を入れて彼女の手を握っていたのです。

「す、すみません……」情けない。たかがアクアビクスで、まるで若いころのような気持ちになっている。

けれど、何年も忘れていた感覚が、蘇るのを感じました。それからというもの、私は気づけばアクアビクスを楽しみにしている自分がいました。最初は面倒くさがっていたはずなのに、週に一度のこの時間が待ち遠しくなっていました。

家に帰れば、妻はいつも通りの生活をしていました。私がどこで何をしているかなんて、興味もないのかもしれません。

しかし、心のどこかで、自分が妻に対して何か後ろめたい気持ちを抱いていることに気づいていました。

罪悪感と期待感が入り混じるなか、私はますます真美子さんに惹かれていきました。この気持ちがどこへ向かうのか、自分でも分かりませんでした。

アクアビクスが終わると、私はいつもよりゆっくりと着替えをしていました。どこかで真美子さんと一緒に帰るタイミングを見計らっていたのかもしれません。

更衣室を出ると、ちょうど彼女も出口のあたりにいました。

「武史さん、今日はゆっくりですね」微笑む彼女の顔を見て、私は少し戸惑いながら頷きました。

「せっかくだし、少しお茶でもどうですか?」思いがけない誘いに、胸の奥がざわつきました。

「ぜひ!」

「ええ、運動のあとは甘いものが食べたくなりますから」それは何気ないやりとりでしたが、どこか特別な響きを持っていました。

近くのカフェに入り、真美子さんはカフェオレ、私はブラックコーヒーを注文しました。

「運動後の甘いものって、どうしてこんなに美味しいんでしょうね」彼女が楽しそうに言いながら、スプーンでクリームをすくいました。その仕草を見ながら、私はぼんやりと考えていました。

ここにいる自分は、家にいる自分とはまったく違う。妻と向かい合うとき、私はただの夫だった。定年後の男。何の変化もなく、当たり前のように家にいる存在。けれど、ここでは違いました。

「武史さんは、奥様と仲がいいんですか?」ふとした質問に、私は言葉に詰まりました。仲がいいのか、悪いのか、すぐには答えが出てこなかったのです。

「うーん……普通…かな」そう言うのが精一杯でした。

「普通、ですか。いいですね、そういう関係」彼女は少し寂しそうに笑いました。

「私の夫はずっと単身赴任だったんです。子どもが巣立ってから、やっと一緒に暮らせるようになったんですけど……なんだか、他人みたいで」

彼女の横顔を見つめながら、私は何も言えませんでした。夫婦というのは、時間が経つほどに形を変えるものなのかもしれません。長年一緒にいれば、会話も減るし、新鮮さもなくなる。けれど、それは当たり前のことだと思っていました。

でも、真美子さんといると、それが当たり前ではないように感じました。それから、私はますますアクアビクスに通うのが楽しみになっていました。

妻には「せっかくだから長く続けたほうがいいわよ」と言われました。その言葉がどこか後ろめたく感じました。

妻の目には、私はただ健康維持のために通っているように映っているのでしょう。まさか、別の理由があるとは思ってもいないはずです。罪悪感が、じわじわと胸に広がっていました。ある日、家で妻がふとこんなことを言いました。

「ねえ、あなた、最近楽しそうね」

「そうか?」

「うん、なんか若返ったみたい」その一言が、鋭く胸に刺さりました。

「いいことね、運動がそんなに楽しいなんて。ずっと続けられるといいわね」妻の無邪気な笑顔を見たとき、私は息苦しさを感じました。気づかれているのかもしれない。そんな不安が頭をよぎりました。その日は、アクアビクスに行く足取りが重かったのです。

更衣室で着替えていると、正志がひょいと顔を出しました。

「おい、どうした? なんか浮かねえ顔してるな」

「いや、別に」私は首を振りましたが、正志はニヤリと笑いました。

「もしかして、真美子さん絡みか?」私はドキッとしました。

「違うって」

「まあ、いいけどな。ほどほどにな」それ以上何も言われませんでしたが、なんとなく見透かされている気がしました。

プールに入ると、真美子さんがいつものように微笑みながら手を差し出してきました。しかし、私はその手を取るのを、ほんの一瞬ためらいました。それに気づいたのか、彼女は少しだけ首を傾げましたが、何も言わずに微笑みました。

その時足が滑って真美子さんの方にダイブしてしまいました。

顔から真美子さんの胸に。

「す、すいません」と謝るも真美子さんは大丈夫ですよと許してくれました。

帰り道、真美子さんが「今日は、あまり元気がないですね」と声をかけてきました。

「そうか…な?」

「ええ。何か、考え事でも?」私は答えに詰まりました。

そして、ぽつりと口をついて出たのは、思ってもみなかった言葉でした。

「……真美子さんと、もっと早く出会いたかったな」彼女は、驚いたように目を見開きました。そのあと、ふっと目を伏せて、微笑みました。

「……武史さん、それはちょっとずるいですよ」私は自嘲気味に笑いました。

「ごめん」それ以上、何も言えませんでした。

家に帰ると、妻がいつも通り私を迎えてくれました。「おかえり」ただ、それだけの言葉。しかし、その言葉が、妙に暖かく感じられました。私は改めて、妻の顔をまじまじと見ました。長年連れ添ってきたこの人を、私はどこかで当たり前の存在にしてしまっていたのかもしれません。罪悪感も、後悔も、未練も、すべてがないまぜになって、胸の奥で渦巻いていました。「……明日は、どこか出かけようか」不意に、そう口にしていました。妻は驚いたように目を丸くしました。

「え?」「久しぶりに、二人でどこか行こう」

「……いいの?」

「いいに決まってるだろ」妻は少し照れくさそうに笑いました。

その笑顔を見たとき、私はふっと息を吐きました。ほんのわずかに、心が軽くなった気がしました。

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