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バラ色の人生だと思っていた熟年離婚

シニアの体験シニアの恋

私の名前は邦子です。65歳の誕生日を迎えたその日、私はついに夫と別れる決心をしました。熟年離婚という言葉が頭をよぎりましたが、それでも決意は揺るぎませんでした。夫が定年退職してからというもの、ずっと一緒に過ごす時間が増え、期待していた老後の生活とはかけ離れた日々が続いていました。

夫は昔ながらの人間で、一切炊事洗濯などの家事を手伝いません。彼がまだ仕事をしている間は我慢もできましたが、今はまるで家政婦のようにしか感じられませんでした。最初の頃は一緒に買い物に出かけたり、新鮮な気持ちで過ごせましたが、次第に小言が増え、「あれはダメ、これもダメ」と何をするにも否定される日々が続きました。
昭和の女性は男性のために尽くすのが当たり前だったかもしれませんが、今はもう令和の時代です。私は自由に生きたいと夫に離婚を切り出しました。夫は案の定、激高し、さんざん文句を言われましたが、離婚の手続きを専門家に任せることにし、なんとか受け入れてもらいました。

家を出て一人暮らしを始めた私は、新しい生活に心を躍らせました。熟年離婚と聞けば大きな問題のように思うかもしれませんが、私たちにとっては、もう一緒に過ごすことはあり得ないという結論に達していたのです。

しばらくして息子から新しい女性が家に来ていると知らされました。どうやら私と離婚して夫はすぐに新しい女性を見つけたようです。驚きましたが、今流行りのマッチングサービスでも使ったのでしょうか。夫が誰と過ごそうがため息をつくことはありません。ただ、長年暮らしたあの家に知らない女性がいるのは少々嫌な気持ちでした。でも、もう関係ないことなのです。せいぜい幸せにくらしてください。

私はずっといろんなことをしたかったので、いろんな教室に通い始めました。そこには同じように老後を迎える人たちもいて、教室の時間はとても楽しいものでした。新しい出会いと習い事の時間が増え、夫のいない生活がこんなにも楽しいとは思いませんでした。しかし、家に帰ると一人です。自分で掃除をして洗濯をして、食事を作って一人で食べます。昼間は友達と楽しく食事をしても、夜になると一人でご飯を食べるのです。息子もいますが、連絡が来るのはたまにだけです。

私の両親はすでに他界し、今や身内と呼べるのは息子だけです。一人分の食事を作るとなるとだんだんと億劫になり、スーパーのお惣菜やお弁当を食べることが多くなりました。温かくもなく、美味しくもないお弁当です。料理教室に通っているのに、なぜか一人では料理をする気になれません。一人で居酒屋にも行ってみました。夫が会社員だったころ、よく同僚や上司と飲みに行っていたのを見て、私もそんな風に過ごしてみたかったのです。誰かとワイワイお酒を飲みながらおしゃべりをするのは楽しそうだと思いました。しかし、老後を迎える友達に声をかけても、誰も居酒屋に一緒に行ってくれる人はいませんでした。皆、夫がいたり家族があったりで、私の頼みを聞き入れるほど毎日暇ではありませんでした。

そんなある日、いつものようにお弁当を買った帰り道、少々の段差で転んでしまいました。足をあげたつもりが上がっていなかったのでしょう。年老いたものです。ただ自分で転んだだけなのですが、手に荷物を持っていたため上手く受け身が出来ず頭を打ってしまいました。幸いにも救急車を呼んでくれる人がいました。救急車がくると気を失っていました。気がついた時には病院にいて、医師から頭には異常は無いとのことでした。他に痛みなどは無いですかと確認されたので、腰を打っていたのかさっきから腰が痛くなってきましたと言うと、とりあえず痛み止めを出され、次の日にレントゲンを撮ることになりました。結果、腰にヒビが入っていました。立とうとすると激痛が走ります。腰が痛いと何もすることが出来ません。ただ、頭に異常が無くて良かったと思っていました。その後3日間入院し、動けないのでタクシーで家に帰りましたが、それから痛みで動くのが億劫で家から出られなくなりました。

退院してから3ヶ月が過ぎましたが、病院へ行く気力もなく、電話が鳴っても気づかないほど耳が遠くなっていました。気づいた時には留守電になっています。相手が分かればかけ直しますが、オレオレ詐欺が怖いので電話に出ることもしなくなりました。いろいろ始めた教室もやめました。もう治っているはずなのに、腰が痛くて行けないのです。医者に診てもらうために家を出るのも億劫でした。息子は心配をし定期的に連絡をくれますが、遠方に暮らしているため、完全に一人きりになってしまった気分です。

夫と別れて自由になろうと考えた結果、私は一人でいるしかなくなりました。自業自得です。けがをし、歩くのも辛くなりました。全て自分が決めたことですから、夫や息子は何も悪くありません。しかし、元夫が若い女性と幸せに暮らしているかと思うと、ちょっと腹立たしい気持ちがします。私はこんなに辛いのに、彼は幸せなのかと考えると悔しくなります。でも、もう他人です。夫婦だったのは過去のことです。今日も私は一人で食事をするしかありません。

先日、テレビで「孤食」をテーマにした番組を見ました。老後に一人で食事をする人が増えているそうです。私もその一人です。でも、どうすることもできません。痛みに耐えながら、一人で食事をするしかありません。私はまだ60代ですが、人生100年時代と言われているので、こんな状態でこの先30年も生きていく意味があるのかと考えてしまいます。このまま誰にも知られずに消えていくのでしょうか。明日もまた一人で過ごす日々が続きます。このまま消えていくなら、どうせなら静かに眠らせて欲しい。人は一人では生きていけないと言いますが、実際自分が体感すると本当にそうだなと思いました。

皆様、熟年離婚をするには早まらずに色々相談し、夫婦で話し合ってから決めてくださいね。私はどうすれば良いのでしょうか。少しでも良い日が訪れることを願って、今日も一人で食事をしています。明日の朝が来るのを待ちながら。

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