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妻からのお誘い、最近少しおかしいのです

シニアの恋愛は60歳からチャンネル様シニアの話

僕の名前は中村修一、60代です。長年会社勤めをしてきましたが、定年退職を迎え、今では穏やかに暮らしています。妻の理恵とは50年以上連れ添ってきました。ですが、ここ最近、妻の様子が少しおかしいと感じています。

ある日、理恵が僕のことを名前で呼んできました。

「修一さん、今日のお夕飯は何が食べたい?」

そう呼ばれたのは何十年ぶりでしょうか。いつもは「お父さん」と呼ばれるのが普通だったので驚きましたが、少し新鮮な気持ちにもなりました。さらに驚いたのは、妻が昔のような若い服装をして、さらに下着まで妙に派手なものを身につけるようになったことです。

「今日はこれが似合うかしら?」

そう言いながら、かつて若い頃に着ていたようなワンピース姿を鏡の前で見せる理恵。その姿に戸惑いながらも、僕は嬉しい気持ちが勝っていました。さらにここ10年ほどは夫婦の営みもなかったのに、急に妻が求めてくるようになったのです。それも初めは週に1回ほどだったのが、最近ではほぼ毎日私を求めてきます。もちろん昔の様には出来ないのですが、二人の距離が縮まったようで体だけじゃなく心までも温かくなりました。ただ、私ももう60歳を超えました。さすがに毎晩となると体が持ちません。ここ数週間は寝不足だけじゃなく体も限界でした。

ところが妻はそれからも次第に行動が過剰になっていったのです。僕が仕事をしていた頃のように朝早く起きてお弁当を作ったり、家の中を掃除しながら昔よく歌っていた歌を口ずさんだり。僕を子供を叱るかのように怒って来たり。最初は懐かしく感じたこれらの行動も、だんだんとどこか異様に思えてきました。

「どうして急にそんなに頑張るんだい?」

「え?なにが?なにか変?」

僕がそう尋ねても、理恵はにこやかに答えるだけで明確な答えは返ってきませんでした。それでも、妻との穏やかな日々を壊したくなくて、僕はあまり深く追及しないことにしていました。

ある日、娘夫婦が孫を連れてやってきたのです。でもその時の妻は、何事もなく普通に孫を甘やかしているのです。

そのとき、「じゃあおばあちゃんとアイスクリームでも買いに行きましょうか」と孫と買い物に出かけました。

ちょうど良いタイミングだったので娘に妻のことを相談すると、若返っていいじゃないと軽くあしらわれました。ただ、ちょっと気になるから認知症の病院に行った方が良いかもと忠告されました。

そして娘が帰ったその夜、ある夜、理恵が眠りについた後に彼女の日記を見つけてしまいました。日記なんて書いていることすら知りませんでした。日記を発見したとき、普段はそんなことをしないのですが、どうしても妻の気持ちを知りたかったのです。誘惑に負けて日記の中を見てしまいました。そこには、妻の普段のきれいな字じゃなく、乱れた文字でこう書かれていました。

「修一さんに迷惑をかけたくない。私はまだ大丈夫。」

「今日は孫が遊びに来た。でも大丈夫。ちゃんと名前も憶えていた」

「でも明日は大丈夫かしら」

そんなような、不安を日記に付けていたのでした。それを見た時、胸が締め付けられる思いでした。

翌日、理恵が急に夕食を作りながら包丁を落としてしまう出来事がありました。慌てて駆け寄ると、理恵は動揺した様子でこう言いました。

「お父さん。なんだか最近、自分が自分じゃないみたいなの。」

「私、ちゃんとお父さんと話してる?変なことしていない?」

妻は泣きながら私に訴えかけてきました。その言葉を聞いて、僕は理恵を病院に連れて行く決心をしました。診断の結果はやはり認知症でした。医師からの説明を聞いて、僕の中に押し寄せるのは後悔と罪悪感でした。

「もっと早く気づいていれば……。」

理恵が診察室で穏やかに話している姿を見て、僕は自分を責めました。しかし、医師は「ご主人が寄り添い続けていることが奥様にとって何よりも大事なんですよ。早くてもそこまで変わりません。」と言ってくれました。その言葉に少し救われた気がしました。先生曰く妻の認知症の進行は遅いそうです。これからは薬と頭の体操などいかに現在の暮らしを長く続けられるかを考えていかないといけないそうです。

認知症という診断を受けた後も、理恵は相変わらず僕を名前で呼びます。そして、時々こう言うのです。

「修一さん、私が迷惑をかけたらごめんなさい。でも、あなたといると安心するの。」

僕はそのたびに「迷惑だなんて思わないよ。これからもずっと一緒にいるんだから」と答えるようにしています。

これからどれだけ妻を支えられるか、自信は正直まったくありません。だけど、妻が安心して暮らせるように、僕は理恵の夫であり続けたいと思っています。妻が忘れてしまう思い出は、僕が覚えていればいい。そんなふうに今は考えるようになりました。

今日も理恵と手をつなぎながら、近所の公園を散歩しています。春の暖かな陽射しの中、理恵が僕に笑顔を向けてこう言いました。

「修一さん、これからもよろしくね。」

僕は少し照れながら頷きました。何十年も連れ添った妻と、もう一度新たな時間を共に過ごすような気持ちで。

これが僕の人生の新しい形なのかもしれません。

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