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昼下がりの情事

いつまでも若く純愛背徳
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昼休み、俺はいつものようにコンビニのイートインスペースにいた。

 ツナマヨおにぎりと唐揚げ棒、それに缶コーヒー。簡単な昼飯だけど、営業の合間に食べるにはこれくらいがちょうどいい。

 ぼんやりと窓の外を見る。視線の先には、公園のベンチにぽつんと座るひとりの女性。40歳くらいだろうか。肩までの髪がゆるく揺れ、柔らかそうなブラウスが風にそよいでいる。けれど、どこか覇気がない。

 小さく俯き、まるで何かに耐えているように見えた。目を閉じたまま微動だにしない。

 ——具合が悪いのか?

 少し気になったが、特に助けを求める様子もない。でも、なんとなくこのまま見過ごすのも気が引けた。俺は、手早く食事を終えてコンビニを出た。

 「すみません、大丈夫ですか?」声をかけると、女性は肩をびくっと震わせ、ゆっくりと顔を上げた。驚いたように俺を見つめ、わずかに唇を開く。

 「……あ、大丈夫です」掠れた声。彼女は何かに怯えたように身をすくめると、すぐに立ち上がり、公園の出口へ向かう。まるで逃げるように。ベンチに視線を戻すと、そこにはぽつんと買い物袋が置かれていた。

 「ちょっと待って!」俺は慌てて袋を持ち、彼女のあとを追いかけた。

 「すみません、これ忘れてましたよ」彼女はハッと振り返ると、俺の手元の袋を見つめ、目を瞬かせた。

 「あ……」まるで、自分が持っていたことすら忘れていたような反応だった。

 「すみません……ありがとうございます」彼女は申し訳なさそうに袋を受け取ると、小さく頭を下げた。そのまま、逃げるように去っていく。小さな後ろ姿を見送りながら、俺はなんとも言えない気持ちになった。あの疲れ切った表情は、何だったんだろう?

 一週間後——いつものようにコンビニで昼食をとっていると、視線の先に見覚えのある姿があった。彼女だ。今度はイートインスペースの隅で、カップコーヒーを前にじっとテーブルを見つめていた。疲れ切った表情は、あの日と変わらない。声をかけるべきか、迷った。でも、このまま黙って昼飯を食べるのも、なんだか気まずい。俺は思い切って口を開いた。

 「……大丈夫ですか?」彼女ははっと顔を上げ、驚いたように俺を見つめた。

 「先週も辛そうでしたけど……」俺がそう言うと、彼女は「あ、その節は……」と小さく笑った。

 「でも、大丈夫ですから」そう言いながらも、その表情はどう見ても大丈夫には見えない。俺は、ふと口をついて出た言葉に驚いた。

 「もしよかったら、ドライブにでも行きますか?」彼女は目を丸くした。——しまった、いきなりすぎたか?

 「え?」驚いた彼女に、俺は少し気まずくなりながらも笑ってみせた。

 「営業車ですけどね」その瞬間、彼女の口元が緩み、小さく笑った。

 「じゃあ……ちょっとだけ、乗らせてもらえますか?」俺は少し驚きながらも、頷いた。車の中で、彼女はぽつぽつと話し始めた。彼女の名前は武田真理恵。40歳。

 「親の介護が大変で」その言葉を聞いた瞬間、俺は彼女の疲れの理由を悟った。

 「旦那さんは?」

 「…お前の親なんだから、って」苦い笑みを浮かべながら、彼女は続ける。

 「昼間はずっと介護。夜も何度も起こされて…ほとんど眠れてなくて」

 「それ、俺の母親が倒れたときと同じだ……」俺は、自分の経験を話した。

 「介護ってさ、一人で抱え込むと壊れるんですよ」

 「……そうですよね」彼女は、遠くを見るようにぼんやりと呟いた。

 「支援は受けてるんですか?」

 「ううん……お金もかかるし、できるだけ自分でやらないと、って思って……」

 「それ、しんどいですよ」俺は、公的な介護サービスの話をした。彼女は驚いたように目を丸くした。

 「そんな方法があるんですか?」

 「知らないだけで、結構いろいろあるんです」俺と話している間、彼女の顔色が少しだけ良くなった。

 「…話して、少しすっきりしました」小さく微笑む。

 「ありがとうございます」その笑顔を見たとき、俺は思った。この人の支えになってあげたいな、と。それから、俺たちは週に一度、コンビニのイートインスペースで昼食をとり、ドライブをするようになった。もちろん、下心がなかったわけじゃない。これだけ美人で、気さくで、話していて楽しい人。惹かれるなっていうほうが無理だった。でも、彼女は人妻だった。手を出すつもりはなかったし、俺のほうから関係を壊すこともできなかった。この関係は、いつか終わる。

 二ヶ月が過ぎた頃、真理恵の方から「休日に出かけませんか?」と誘われた。「お礼がしたいんです」そう言われて、俺は断る理由がなかった。当日、彼女は少しおしゃれをして現れた。車に乗り込むと、彼女は少し緊張したように俺を見つめる。

 「…あの、ちょっと寄ってもいいですか?」そう言って、指をさした先にあったのは、ラブホテルだった。俺は言葉を失った——。車内に、沈黙が落ちた。指さされた先にあるのは、間違いなくラブホテルの看板。冗談なのかと思い、ちらりと彼女の顔をうかがったが違った。真剣な表情だった。

 「…いいの?」俺は静かに問いかけた。真理恵は、一瞬だけ目を伏せたあと、ゆっくりと頷いた。

 「…ダメ、ですか?」か細い声。でも、それは俺の背中を押すには十分だった。

 俺はウインカーを出し、ホテルの駐車場へと車を滑り込ませた。部屋に入ると、真理恵は落ち着かない様子で室内を見回した。綺麗な部屋だったが、場の雰囲気に馴染めていないのが伝わってくる。俺も、どこかぎこちない。

 「…こんなこと、初めてで」小さな声で言う彼女は、どこか不安げだった。

 「俺もだよ。こんな美人の人妻と、こんなことになるなんて思ってなかった」軽く冗談めかして言うと、彼女は小さく笑った。

 「人妻…って言わないでください。なんだか、罪悪感が……」ふと、真理恵がそっと俺の胸に額を押しつけた。俺はそっと腕を回し、彼女を抱きしめた。その日俺たちは深く愛し合った。

 週に一度のコンビニでのランチとドライブは、いつしか「待ち合わせてホテルに行く」に変わった。ただ体を重ねるだけではなく、湯船に浸かりながらたくさんの話をした。仕事の話、介護の愚痴、夫の冷たさ。

 だが、その関係は突然終わりを迎えた。営業車で彼女を乗せて走っていたところを、たまたま上司に見られてしまった。

 「おい永田、業務中に何やってるんだ?」翌日、俺は部長に呼び出され、きつく叱責された。

 「客先で女を連れ回してるって報告があったぞ。会社の車だぞ?何考えてんだ!」

 「いや、その……ただの知り合いで……」苦しい言い訳をしたが、会社の決まりを破ったのは事実だった。これ以上、彼女を営業車に乗せることはできない。それは、今の関係が終わることを意味していた。

 俺は悩んだ。彼女に会えない日が続くと、胸の奥が締めつけられるように苦しかった。ただの浮気相手じゃない。ただの関係じゃない。気づいたときには、転職サイトを開いていた。そして、ふと思った。

 介護職に転職すれば、彼女の支えになれるんじゃないか?今まで営業として培った話術も、母親の介護経験も、無駄にはならないはずだ。 ——そうだ。これしかない。そして、俺は決意した。次に会ったとき、彼女にこう伝えた。

 「俺、転職することにしました」

 「え?」

 「介護職に転職して、君の親の面倒を俺がみる」彼女は、目を見開き、信じられないという顔をした。

 「……何言ってるんですか?」

 「真理恵さん、旦那と別れてください。俺と一緒に生きてほしい」彼女は、目を潤ませながら首を振った。

 「いきなりそんなこと言われても……困ります」

 「今のままでいいの?」俺は真剣に問いかけた。彼女は、迷っていた。

 「…考えさせてください」

 「わかった。待ってるから。」そう言って、俺は彼女と別れた。

 それから二週間が経った。俺は不安だった。彼女は、本当に来てくれるのか?それとも、あの日の言葉を最後に、俺たちは終わってしまうのか?

 …そして、その日、俺はいつものコンビニへ行った。イートインスペースに——彼女はいた。俺を見つけると、真理恵は静かに微笑んだ。

 「……決めました」

 「……離婚してくれるの?」彼女は、小さく頷いた。

 「だから……これから、よろしくお願いします」そう言って、そっと俺の手を握った。彼女の手は、温かかった。俺は、その手を強く握り返した。こうして、俺と真理恵の新しい人生が始まった。

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