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誤解の味

真理子は、自らが運営する料理教室で、愛情を込めて生徒たちに料理の技術を伝授していた。
その中でも、徹は彼女の注目を一身に集める存在であった。
60代に入ったばかりの徹は、その人懐っこい性格と時おり見せる子供のような無邪気さで、教室全体の雰囲気を和ませていた。
彼の存在は、料理を学ぶことの喜びを改めて教えてくれるものだった。

特にある日のマヨネーズ作りの授業では、徹の行動が真理子の心を大きく揺さぶった。
徹は、まるで彼女に対して特別な感情を持っているかのように振る舞い、真理子のそばにいることを好んだ。
彼は授業中、何度も真理子の目をじっと見つめ、
「真理子さんの教え方は本当にわかりやすい。おかげで、自分でも美味しいマヨネーズが作れるようになりました」
と、感謝の言葉を口にした。

徹はまた、授業後に真理子に対し、
「真理子さんのおかげで、料理がこんなに楽しいとは思いませんでした。大切な人に美味しい料理を振る舞いたいです」
と言い、彼女の手助けを申し出るなど、細やかな気配りを見せた。
徹の行動は、彼が真理子に特別な好意を持っているという誤解を招くには十分であり、真理子は徐々に徹への特別な感情を抱くようになった。

徹は、真理子の好きな食材を覚えておき、サプライズでそれを使った料理を授業で披露するなど、彼女を喜ばせるために努力を惜しまなかった。
このような徹の行動は、真理子にとって、彼が自分に対して何らかの感情を抱いている明確な証拠のように感じられた。

ある日の授業終わりに、徹が真理子を呼び出し、感謝の意を伝えてきた。
「真理子さん、ありがとうございました。あなたのおかげで、料理の楽しさを知ることができ、自信を持って料理ができるようになりました。」
真理子は徹のすべての行動、彼女への細やかな気配りや、授業中の特別な扱いに心が完全に奪われていた。
だが次の一言で、全ては崩れ去った。

「妻も喜んでくれました。やっと帰ってきてくれるんです」全ては女性が喜ぶことを実践し、妻に帰ってきてもらう為だったのだ。

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