PR

家政婦~妻の入れ替え~

純愛

夜の静寂が部屋を包み込む中、窓の外では木々が風に揺れ、かすかな葉擦れの音が響いていた。「瑠衣さん、大変な思いをさせるかもしれない。だけど俺に着いてきてくれるかい?」と俺は問いかけた。彼女は潤んだ瞳でゆっくりと頷いた。今、目の前にいる女性は妻ではない。妻が雇った家政婦、瑠衣だ。彼女の存在が、俺の孤独な心に灯りをともしてくれる。


俺の名前は島田大輔。小さいながらも会社を経営していた元経営者だ。「もう良い年なんだからゆっくりしたら」と、気遣いのようにも聞こえる言葉で、年の離れた妻に社長職を追い出されたのだ。俺にとっては突然の話だったが、彼女はすでに役員を取り込んでおり、抵抗の余地もなかった。

妻は元々専業主婦だったが、仕事を手伝うようになってからめきめきと力をつけ、妻の力で会社は大きくなった。始めのうちは「一緒に頑張ろう」という感じだったが、最近は俺を老害扱いする始末だ。俺は、あの頃の彼女が持っていた温かさや協力の姿勢を懐かしく思うが、それが消え失せた今、俺の心には深い孤独が広がっていた。会長職という肩書だけはあるが、実際には何も権限がない。出社しても「ああ、何しに来たの」といった態度で、最近では会社に行くこともなくなった。家にいても邪魔者扱いで、ここ数年は会社近くのホテルに泊まり、家に帰ってこないことも多々あった。

まあ、それでもそんな扱いをされてても俺はまだ耐えられていた。それは、瑠衣さんがいたからだ。瑠衣さんは、妻が数年前に手配した家政婦さんだ。妻は家のことはまったくしなくなっていた。要は、俺の家事を代わりにする家政婦さんを自分で手配したのだ。

突然見ず知らずの女性が家を訪れたときは驚いた。しかし、瑠衣の優しさと気配りはすぐに俺の心を癒してくれた。妻は寝る以外は家にいない。最近は昼前から夕食までずっと彼女と過ごしている。買い物やちょっとしたお出かけ、通院にも彼女と一緒に行く。まるで彼女が本物の妻であるかのような錯覚に陥ることもあった。そんな状態で、彼女に惹かれないはずがない。

社長職になって初めて、仕事の大変さが分かったのだろう。仕事は立場によって役割が違う。今までは俺に文句を言えば済んだだろうが、まとめる立場になるとそうはいかない。社長には社長の仕事があるのだ。だが、たまに帰ってきた妻はストレスを発散するかのように、俺や瑠衣にもストレスをぶつけてくる。「あー瑠衣さん、それもお願いね!」と完全に小間使いのような扱いをする。

それでも瑠衣は嫌な顔一つせず、妻の言うことを健気に聞いていた。そんなある日、決定的な出来事があった。妻は床が滑りすぎるという理不尽な理由で瑠衣に怒り出し、掃除をやり直させていた。そこまで言うことではないだろうと妻を諫めたが、火に油を注ぐように妻の怒りは収まらなかった。

後日、「瑠衣さん、いつもすまないね」と、俺は心からの感謝を込めて声をかけた。彼女は涙を浮かべながらも微笑んで、「いえ、大丈夫です。大輔さんの方こそ、大丈夫ですか?」と優しく返してくれた。自分の方がひどい目に遭っているのに、涙を我慢しながら俺のことを心配する瑠衣。俺はそんな彼女を見ると我慢できなくなり、彼女を優しく抱きしめてしまった。瑠衣はその瞬間、堰を切ったように感情があふれ出し涙した。

俺にとって、瑠衣との時間は心の支えだ。彼女の優しさは、失われたものを取り戻すかのようだ。俺の中に潜む寂しさや孤独を、彼女はまるで魔法のように消してくれる。彼女の笑顔、優しい言葉、細やかな仕草すべてが、まるで温かな光で俺の心を照らしている。彼女と過ごす日々が、これまでの失われた時間を取り戻してくれるように感じるのだ。

「瑠衣さん。俺に着いてきてくれるかい?」この人を守りたい、この人と人生の最後を過ごしたい――その思いが胸を突き上げる。その日のうちに俺は離婚の決意をし、弁護士に連絡した。心臓が高鳴り、未来への不安と希望が入り混じる中、俺は新しい人生を選んだ。

弁護士によると、妻は会社の同僚との不倫が問題になっていたそうで、とんとん拍子で俺との離婚は成立したそうだ。

その後、遠く離れた地で、俺と瑠衣は静かに穏やかな日々を過ごしている。彼女の笑顔が、これからも俺の心を温め続けるだろう。

タイトルとURLをコピーしました