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引きこもった夫に夫婦交換

シニアの体験シニアの恋

私の名前は邦子、62歳です。仕事は自宅でエレクトーン教室を開いて教えています。現在は近所の子供達数人とシニアの方々の老活として趣味程度で働いています。今年定年退職した夫、健二との静かな日常が、ある日突然、大きく揺れ動くことになりました。それは、親しい友人からの「夫を交換してみない?」という驚くべき提案がきっかけでした。

夫は現役時代、大手企業に勤める仕事人間で、毎日遅くまで残業をするのが当たり前でした。結婚前から、デートよりも仕事を優先するような人でしたが、当時はそのような男性が普通でしたので、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる夫の包容力と優しさに心惹かれ、私は結婚を決意しました。しかし、結婚後も夫の仕事優先の姿勢は変わらないままで、特に若い頃は深夜帰りが日常茶飯事でした。夫は何でも自分でできる人、というか自分でするよと言い、夜中に私を起こすようなことはありませんでした。が、そういう生活でしたので、誕生日や結婚記念日を祝ってもらうということもほとんどなく、次第に寂しさを感じるようになりました。ただ、当時は「24時間戦えますか?」というようなCMが流行る時代だった為、それが周りでも結構普通とされていたため、私も受け入れるしかなかったのです。

 いつの日か自分の子供にもエレクトーンを教えたいと願っていた私ですが、年に数回しか交わることがないため、中々子供はできず、次第にその夢を諦めざるを得ませんでした。結局、私たち夫婦には子供は授からず、年齢を重ねるごとに夜の営みもなくなっていき、私は49歳の時に閉経を迎えてしまいました。夫はその後も変わらず仕事に没頭し、定年が近づくまでその生活はまったく変わりませんでした。

そして、ついに先日、夫は定年を迎えました。「今までお疲れ様でした」と私は夫を祝ってあげました。「これからは趣味を見つけて人生を楽しんでね」と声をかけました。その時は色々やってみたいことがあったのでしょう。目を輝かせて希望に満ちた目をしておりました。ただ、時間が経つにつれ夫は仕事人間だった為、何をしていいのか分からないのでしょう。「何かしてみたら?」と言っても、夫は困惑した表情で「そんなこと言われても、俺は今まで仕事しかしてこなかったから…」と返してきました。私はとりあえず散歩でも行ってみるよう勧めましたが、出て行っても30分ほどで戻ってきてしまいます。結局、それ以外の時間はリビングでテレビを見ながらお茶やお菓子を食べてゴロゴロしているだけの毎日でした。結果退職後3か月で5kgも太ったそうです。「世の中の男性はこんなものなのだろうか?」と、私は少し寂しい気持ちになりました。

 一緒に買い物に行こうと誘っても「俺が行っても意味ないだろう」と言われ、夕飯のメニューを聞いても「何でもいい」とそっけなく返されるばかり。さらに「これから教室の生徒さんが来るから、少し外に出てきてくれない?」と頼んでも、夫は音が出ないように息を潜めて自分の部屋にこもって出かけようともしませんでした。仕事をしている時は忙しそうに生き生きしていたものの、充実感に満ちていたように見えていた夫。が、定年後は数カ月で何をしていいのか定まらず、すっかり気力を失ってしまったかのようでした。ギャンブルをして欲しいわけではありませんが、パチンコや競馬でもしていれば出かけていたのでしょうか。「何か軽くでも働いてみたら?」といっても、大手企業で働いていたプライドが邪魔をするそうです。「そんなアルバイトみたいなことは出来ん」と余計に怒って拗らせてしまいました。私にとってずっと家から出ない夫が悩みの種になっていったのでした。

 ある日、老後の楽しみとしてレッスンを受けている同年代の生徒さんに、夫の愚痴をこぼしてしまいました。その生徒さんも同じような悩みを抱えていることが分かり、互いに夫の愚痴を言い合いました。それだけで案外スッキリするものですが、数日後にその友人から驚くべき提案があったのです。「そんなに退屈そうにしてるなら、うちの夫と1週間交換してみない?」というのです。私はその言葉に驚きながらも、現状を打破するために一度試してみることを決意しました。この年でそういう体の関係になるなんて無いんだろうと安易に考えていたのも理由です。

夫にその提案を持ちかけると、夫は驚きつつも「そこまで言うなら」と承諾してくれました。早速、友人に連絡を取り、夫婦を入れ替えて生活することになりました。友人の夫が我が家に来る日、私も久しぶりに味わう緊張感に包まれていました。彼は夫とは異なり、口が達者でおしゃべり上手でした。感情も素直に出し、私が作る料理を「うまい、うまい」と素直に褒めてくれます。夫の「何でもいい」という返事とは対照的に、彼はしっかりと自分の意見を持っている人でした。

初日の夕食時、私は彼の反応に驚かされました。彼は私の料理を褒め、「明日は何が食べたいですか?」と尋ねると、「邦子さんの得意料理が食べたい」とか「明日はかなり暑くなる予報だから、冷やし中華なんていいかもね」などと、具体的なリクエストをしてくれたのです。夫なら作っても感謝もしてくれず、いつも「何でもいい」と言われるだけだったので、私は久しぶりに誰かのために料理を作る喜びを感じていました。

食事後、彼は「邦子さんは仕事も家事もこなしていてすごいですね」と、まっすぐな目で褒めてくれました。夫からはそんな誉め言葉をもらったことがなかったため、私は逆に戸惑ってしまいました。そして最終日の夜、彼が私の隣に座り、「邦子さんは本当に頑張りやさんですね」と言って優しく肩を揉んできました。その瞬間、私はドキッとし、動揺してしまいました。

友人にそのことを電話で報告すると、友人は「ふーん、そうなの?」とそっけない返事を返してきました。彼女も夫との生活をどう感じているのか気になって聞いてみると、友人は「私たちもうまく出来てる……かな」と笑っていました。しかし、最終日前日の夜、彼は突然私を抱きしめ、「これ以上進んでもいいですか?」と尋ねてきたのです。私はびっくりし、罪悪感に苛まれながらも、「すみません、これ以上は…」と断ると、彼も「実は今抱きしめた時、徐々に妻の顔が浮かんできたんです」と、同じように自分の妻のことを考えていたことを告白しました。それよりも、この年になってそういう欲があることに本当にビックリしました。夫も本当はあるのでしょうか。

夫婦の入れ替え期間が終わり、夫が帰宅してきました。少々心配していたものの、彼は友人の妻からかなり叱られたらしく、過去の自分を反省している様子でした。「今までお前のことを考えてなくてすまない。でも、これからは旅行に行ったり、君がやりたかったことを一緒にやっていこう」と、寄り添ってくれたのです。夫は久しぶりに私の手を取りゆっくりと抱きしめてきました。そして私たちはその夜、久しぶりに関係を持ちました。若い頃とは違う感覚でしたが愛されているという実感と、夫婦としての絆を再確認出来ました。これから健康に動けるのは後10年くらいなのでしょうか?今まで仕事に生きてきた私たちの40年をこの10年で取り戻していきたいと思う今日この頃です。

数日後、友人と再び近況を話し合いました。友人は「ごめんね、言えなかったの」と謝罪してくれました。友人の大きな悩みとはいつまで経っても減らない夫の欲だったそうです。逆にそういうことを要求しないうちの夫にびっくりしたそうです。「前と変わらず喧嘩ばかりだけど、今回のことではっきり断ったりできるようになったから、ちょうど良かったわ」と話していました。今回の夫婦入れ替えは、お互いにとって大切なことに気づくきっかけとなりました。私は、これからの人生を夫と共に充実させていく決意を新たにしました。

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