なんと、十数年ぶりに、妻と愛し合うことができました。あの晩、静かに手を伸ばした私に、真理子が何も言わなかったんです。それだけで、胸の奥が熱くなるような気がしました。長い時間、まるで互いに触れることを恐れていたような私たちが、あの夜、そっと寄り添って、まるで昔に戻ったかのようでした。
歳を取って、私たちの生活は随分と穏やかになってきました。私の名前は浩二、63歳です。妻の真理子は62歳です。娘も独立し、夫婦二人の生活が長く続いています。表面的には何も問題はありません。ですが、いつの間にか私たちの間に見えない壁ができていたんです。小さな亀裂が徐々に広がっていくように、互いの存在がどこか遠く感じられるようになっていました。
私は近所の飲食店でパートをしていて、毎日それなりに忙しく過ごしています。年金の繰り上げ受給を勧めたことも何度かあるんですが、妻はいつも「お金がない」と言って聞く耳を持ちません。「だからまだ働いてね」と言うんですけど、本当の理由は何なんだろうと時々考えます。私はあまり長生きしない家系だから、繰り上げ受給した方が得だと思うんですけどね。娘と一緒に調べた結果も、そうだったんです。それでも、妻はまったく興味を示しませんでした。だから、私は「仕方がない」と自分に言い聞かせる日々を送っていました。
そんなある日、私は気づきました。妻は最近、ますますドケチになってきたんです。何かをする度に「お金がかかる」という言葉が彼女の口から飛び出します。だから、外に出かけることもほとんどなく、家でずっとスマホをいじっているんです。何をやってるのかと思ったら、どうやら「ツムツ○」というゲームに夢中になっていました。最初は、ボケ防止かと思ってたんですが、私の目から見ても、さすがに一日中やりすぎじゃないかと思うくらいにハマってしまっているんです。時々、ゲームに没頭する彼女の横顔を見て、私はふと寂しさを感じることがありました。目の前にいるのに、彼女が遠くに感じる。その距離感が、少しずつ私を苦しめていたのかもしれません。
そんな私の心の隙間に、ある日、思わぬ出来事が舞い込んできたんです。近所のスーパーで何気なく引いたくじが、まさかの「旅行券」が当たりました。驚きましたよ。「これで久々に旅行にでも行くか?」と心の中で期待が膨らみました。でも、そんな私の気持ちとは裏腹に、真理子は冷静そのものでした。「娘にあげなさい」って言うんです。思わず、「いやいや、これ俺たちのためじゃないの?」って言いそうになりましたが、あまりにも妻が当然のように言うもんだから、反論するのも面倒になってしまいました。それで、結局その旅行券は娘に渡すことにしたんです。
娘は、ただ「ありがとう」と言ってくれました。なんだか、拍子抜けするくらいあっさりとした反応でしたが、その後、数週間経って娘から連絡が来ました。「お父さんたちが行ってきてくれない?」と。どうやら仕事の都合で娘は旅行に行けなくなってしまったらしいんです。その話を聞いて、私は「じゃあ、仕方ないな」とどこかホッとしたような気持ちで、真理子との旅行を決めました。後で娘に聞いたんですが、実は彼女は最初から私たちのためにその旅行を予約していたらしいんです。「こうでもしないと、お母さん行かないでしょ?」と笑いながら言われたとき、心が温かくなりました。娘は私たちのことを思って、静かに背中を押してくれていたんだと感じました。
旅行の日がやってきました。真理子もなんだかんだ言って、出かける準備をしていました。出発の前日、家ではあんなにスマホに夢中だった妻が、旅行先ではまるで違う人のように生き生きとしていました。温泉宿で上げ前据え膳で何もしなくていいことに、本当に嬉しそうでした。温泉に浸かり、美味しい料理を食べるうちに、真理子の顔には自然と笑顔が戻ってきました。久しぶりに、私たちが同じ時間を楽しんでいるんだと感じられた瞬間でした。
夜になって、私たちの部屋に戻りました。そこで、私はふと思い立って、妻にマッサージをしてあげることにしました。彼女に対して、日頃の感謝の気持ちを伝えたいという思いが強かったんです。肩から背中、そして足先まで、ゆっくり丁寧に揉みほぐしていきました。その時すこしイタズラをしたくなって、余計なところに触れてしまったんです。いつもなら「やめなさいよ」と怒られそうなところなんですが、その時、真理子は何も言わなかったんです。むしろ、彼女の体が少しずつ温かくなっていくのを感じました。それは、まるで10年以上もレスだった時間が嘘のように感じられる瞬間でした。
その時、私の中で抑えきれない感情が湧き上がってきて、気づいたら真理子をそっと抱きしめていました。年を取ってからこういうことはもうないだろうと、ずっと心の中で思っていたのに、真理子はそれを受け入れてくれたんです。彼女の体温と、長い間忘れていた互いのぬくもりに包まれながら、私たちは、本当に十数年ぶりに愛し合いました。
その後、もう一度一緒に露天風呂に入りました。湯船に浸かりながら、なんだか昔に戻ったような気持ちになっていました。昔はこんな風に、よくスキンシップを取っていたのにな、とぼんやりと思い返していました。長い年月が経って、いろんなことが変わってしまったけれど、こうして二人で過ごす時間はやっぱり特別なものなんだと再認識しました。
旅行から戻ってきた後も、妻との距離は確実に縮まっていきました。娘が孫を連れて遊びに来た時に「ありがとう、いい時間を過ごせたよ」と伝えました。娘は安心したように笑いながら「よかった」と一言だけ言ってくれました。その笑顔が、私にとって何よりも嬉しいものでした。
そして、それからしばらくしたある晩のことです。いつものように布団に入ろうとすると、静かに寝室のドアが開いて、真理子がそっと入ってきました。「これからは一緒に寝よう」と言って、彼女が布団に滑り込んできたんです。そんな彼女の言葉が、今までのどんな言葉よりも心に響きました。あの日以来、私たちは毎晩一緒に眠りについています。そして、これからも、真理子と二人で一緒に年を重ねていけるのだと感じると、自然と微笑みがこぼれました。
これからも、ずっと一緒に。それが、今の私にとっての何よりの幸せです。
いかがでしたか?浩二さんのお話でした。皆様はスキンシップはとっていらっしゃいますか?ぜひコメント欄で教えてくださいね。それでは、また。