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スワッピングパーティのお誘い

シニアの体験シニアの恋

作:シニアの恋愛経験値は60歳から

軽井沢への道中、私は何とも言えない胸の高鳴りを感じていました。夫の純一と一緒に、親友夫婦の登紀子さんと慎太郎さんの別荘へ向かっていたんです。窓の外には初秋の穏やかな風景が広がっていて、空はどこまでも青く澄んでいました。でも、その美しい景色がかえって私の中に微かな不安を呼び起こしていたんです。まるで、この静けさが嵐の前触れのように感じられて。

別荘に到着すると、登紀子さんと慎太郎さんは私たちを温かく迎えてくれました。リビングでコーヒーを飲みながら、慎太郎さんが突然話を切り出しました。「実はね、この週末にちょっと変わったパーティーを企画してるんだ。スワッピングパーティーって聞いたことあるかな?」その瞬間、私たち夫婦は顔を見合わせました。

「スワッピング?」その言葉を耳にした途端、心臓が一瞬止まったかのように感じました。意味がすぐには理解できず、ただ茫然と夫の顔を見つめていました。純一が説明してくれる声が遠くから聞こえてくるんですが、その言葉の一つ一つが私の心の奥底にあった不安と戸惑いを徐々に引き出していくようでした。やがて、複雑な感情が胸の中に渦巻き始めました。

慎太郎さんは続けました。「誤解しないでほしいんだ。ただ、長年連れ添う夫婦には、時には新しい風が必要だろう?視野を広げて、お互いに新たな刺激を与え合うことで、より良い関係が築けるかもしれない。これはそのための一つの方法だと思ってほしい」と真剣な眼差しで話しかけてくれました。

私は驚きと戸惑いを隠せませんでしたが、心の奥底には少しだけ興味が芽生えていることに気づきました。それと同時に、若い頃の思い出が頭をよぎりました。夫と出会ったのは、あの賑やかなディスコの夜。知らない人たちと踊り、その中から気に入った人を見つけるような時代でした。でも、それはもう遠い昔の話。今の私たち夫婦に新しい何かを加えることへの不安が頭をよぎりました。

その夜、私たちは部屋で長い間話し合いました。慎太郎さんたちは「変なパーティじゃない」と言っていましたが、それでも不安は消えませんでした。お互いの気持ちを素直に打ち明けながら、私たちは迷いと戸惑いの中で夜を過ごしました。

そして、翌週。私たちは再び、あの別荘へと向かうことにしました。車内はいつものように静かでしたが、その静けさが、私たちの胸の中に秘められた緊張感を一層強めているように感じられました。外の風景は秋の色に染まり、風が優しく窓を撫でていました。でも、その美しさとは裏腹に、私たちの心は揺れ続けていました。

「もし…何かあったら、助けてくれるよね?」私の声が少し震えていたのを覚えています。 「ああ、絶対に」と純一は私の肩を軽く叩きながら、笑顔を見せてくれました。「まずは美味しい料理でも楽しもう。心配するな、俺がそばにいるから」とその言葉に、私は少しだけ安心した気持ちになりました。

パーティー会場に入ると、登紀子さんと慎太郎さんが温かく迎えてくれました。部屋の中は洗練された装飾が施され、柔らかな音楽が流れていました。他の参加者たちはすでに慣れた様子で交流していて、私たちはその雰囲気に圧倒され、少し戸惑ってしまいました。

慎太郎さんの説明を聞いていると、緊張と興奮が入り混じった感覚に包まれました。夫と一緒に周囲を見渡してみると、普段出会うことのないような人たちがたくさんいました。参加者の多くは私たちと同年代の60歳前後の方々でしたが、中には80歳近い方々もいて、その新鮮さに少し驚きました。純一は普段通り、物おじせずに人々の輪に入っていきましたが、私はどちらかというと、話しかけられるのを待つ形で、少しずつ会話を楽しんでいました。

夜が更けるにつれ、参加者たちは次第に少なくなっていきました。別のパートナーと一緒に席を立ち、静かに姿を消していく様子が見受けられました。私はその時、ある60代の元弁護士の方と話していましたが、その方が私をそっと誘ってきたんです。どうして良いかわからず、戸惑っていた私に、純一が声を掛けてくれました。

「そろそろ帰ろうか」と言いながら、夫が私の手を取ったのです。 私はその方に「また機会があれば…」と丁寧にお断りしましたが、夫の手の力強さに、少しだけ胸が痛みました。 「お前…ついて行こうとしてたんじゃないか?」夫の声には、わずかな怒りと嫉妬が混じっていました。 「違うよ、どうして良いか分からなくて…」と私は言い訳をしましたが、夫は「もういい、帰ろう」と言い、私の手を引いてくれました。

帰りの車の中、夫は明らかに不機嫌でした。こんな年になっても、夫が私にヤキモチを焼くなんて思いもしませんでした。声を荒げることはなかったですが、運転する彼の姿はどこかぶっきらぼうでした。

自宅に戻ってから、リビングのソファに二人で座りました。無言のまま、私たちはお互いの目をじっと見つめ合いました。その視線の中には、言葉にならない多くの感情が交錯していました。

夫がふーっと深呼吸をして、ゆっくりと話し始めました。「もう行くのはやめような。他の人と楽しそうにずっと喋っているのをみるのは嫌だったよ」と正直な気持ちを吐き出してくれました。 「私も嫌だったよ。でも、あなた、私を置いてどんどん行っちゃうから」 「それは…どんなものなのか興味があったから…ごめん」

私は彼の言葉を聞いて、少し涙が浮かんできました。「それは私も同じよ。でも、もう参加しなくても良いかな。私には合わないみたい。でも、あなたがこんな風に感情を出してくれたの、久しぶりね。昔はもっと泣いたりしてたものね」 「な、泣いてなんかないだろ」 「えー、そうかなー。そういうことにしといてあげる」

私たちはふとお互いに微笑みました。「慎太郎さんには俺から言っとくよ。俺たちには合わなかったって」

その瞬間、夫は私の手をそっと取り、私を抱きしめてくれました。抱きしめられたのなんて、何年ぶりだったでしょうか。その温もりが、私の胸の奥深くで忘れかけていた感情を呼び起こしてくれたんです。私は彼の腕の中に身を預け、そのままキスをしました。本当に二十年ぶりくらいのキスでした。

その夜、私たちは長い間、いろんな話をしました。これからどう過ごしていきたいのか、どんなことをしてみたいのか。笑い合い、涙を流しながら、久しぶりにお互いの気持ちを素直に伝え合うことができました。この年齢になっても、こんなに夫のことが大切だと再確認できるなんて、思いもよらなかったんです。

翌朝、私たちはこれからのことについて決意を新たにしました。これからは、思ったことを素直に話し合う機会をもっと持つこと。一年に一回は旅行に行くこと。そして、健康でいられる限り、一緒に運動をすることを決めました。どれだけ長く一緒にいられるかわかりませんが、残された時間を共に過ごす喜びを大切にしていこうと思っています。

その朝、夫の手を握りながら、私は心の中でそっと誓いました。これからも、純一さんと一日でも長く一緒にいられますように、と。

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