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生保レディ

いつまでも若くひととき純愛

俺の名前は井上康生、42歳。三年前に妻の浮気が発覚して離婚して以来、この家には俺ひとりだ。広すぎるわけじゃないが、独りで過ごすには十分すぎる広さだ。掃除の行き届かない隅にたまる埃を見るたび、自分の生活がどれだけ停滞しているかを実感する。ある日、玄関のチャイムが鳴った。訪問者なんてほとんどないこの家で、いったい誰だろうと思いながらドアを開けると、そこに立っていたのは一人の女性だった。

「こんにちは、野村裕子と申します。保険のご案内で伺いました。」

「良かったら、相談だけでもどうでしょうか?」

40歳手前くらいだろうか。そこにはスーツをきっちり着こなしていて、ショートカットがよく似合っている笑顔がキレイな女性が立っていた。控えめな笑顔だけど、どこかに親しみやすさを感じさせる女性だった。

「保険か……。」正直、保険の話にはまったく興味がなかった。離婚もしたし、子供が出来る予定もない。ましてやこれからの結婚の予定もない。でも彼女の穏やかな雰囲気に惹かれた俺は、とりあえず話を聞いてみることにした。

「まあ、上がってください。」彼女を玄関に招き入れると、丁寧な所作で鞄から資料を取り出し、テーブルに広げた。説明する声は落ち着いていて、どこか心を和ませるものがあった。俺は内容を半ば聞き流しながらも、彼女の仕草や声のトーンに妙に引き込まれている自分に気づいた。

「井上さんは、ここで暮らされて長いんですか?」ふいに彼女がそう尋ねた。その質問に少し驚きながらも、俺は頷いた。

「ええ、もう3年になります。離婚してからずっと一人です。寂しいもんです。」彼女は少し考えるような表情をしてから、柔らかな声で言った。

「私も去年、離婚したんですけど……あまりいい別れ方じゃなくて。……ごめんなさい、私の話なんて関係無いですね。」

「いや、全然。むしろ、そういう話ならいくらでも聞きますよ。」俺は少しでも彼女を励ましたくて言った。彼女が笑って肩をすくめたその仕草に、彼女の笑顔の裏側に隠された孤独が、自分と重なるような気がしていた。

何気ない受け答えだったのに、その言葉は俺たちの胸に痛みをもたらした。俺は必死に作り笑いをしながら「でもまあ、俺はもう慣れましたけどね」と答えたが、その裏では答えきれない感情が渦巻いていた。結局その日の彼女は保険の話はほとんどせず、他愛もない会話をして帰っていった。

ただ、それ以来、1カ月に1回のペースで彼女は定期的に俺の家を訪れるようになった。もちろん、保険の契約の話が建前ではあったが、次第に会話は形式的なものから今の仕事の愚痴や日常的な雑談へと変わっていった。裕子の屈託のない笑顔や何気ない気遣いに触れるたび、俺の中で何かが変わり始めているのを感じた。彼女の明るい表情の奥に、どこか影のようなものを感じることがあった。それが彼女自身の抱える孤独なのか、それとも仕事上の疲れなのかは分からないが、俺はその影に共感してしまった。

ある日、裕子が少し疲れた表情でこう言った。彼女が座ったソファは窓際にあって、日差しが柔らかくリビングのカーテンを透かしていた。裕子が座ったソファのすぐ隣に座ると、彼女の香水のほのかな匂いが漂ってきた。それだけで俺の心は妙に浮き足立っていた。

「最近、ちょっと疲れちゃって……。」そう言った彼女の指先がわずかに震えていた。

「そうなんですか、..俺に出来ることなら何でも言ってください」と思わず声をかけてしまった。大した意味はないつもりだったが、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「井上さんと話すと、なんだろ。なんだかほっとするというか…落ち着くというか…」

その言葉に、同じように感じていた俺の胸が温かくなるのを感じた。彼女は保険の契約を取りたいだけに来ているのかもしれないとどこか思っていたのかもしれない。でも今は違うと思えていた。こんな感情を異性に抱くのはずいぶん久しぶりのことだった。

その翌週、彼女は週末にやってきたのだ。彼女は土日がお休みのはず。仕事以外で俺に会いに来てくれたことが俺は素直に嬉しかった。緊張した面持ちで、「今日もお邪魔しても良いですか?」と尋ねてきたのだ。普段のぴしっとした格好ではなく、ふわっとしたワンピースとカーディガンを着ている。私服を見たのは初めてだったので俺は少し戸惑いながらも、快く頷いた。

彼女はソファに座り、リラックスした様子で肩を少しもたれさせた。俺はそんな彼女を横目で見ながら、ふとした瞬間に彼女の鎖骨がちらりと見えたことに、妙に心がざわついた。「井上さんって呼ぶの、なんだか距離がある感じがして……康生さんって呼んでもいいですか?」彼女は少し照れたように言った。

「もちろん、そう呼んでください。」そう答えた俺の心は妙に温かくなった。

「私寂しいんです。康生さんは寂しくないですか?」裕子が静かに問いかけてきた。その言葉に俺はどう答えていいか分からなかった。ただ頷くだけだった。

「私、いつも仕事では強く見せなきゃって思ってるんです。でも、本当は……誰かに甘えたくなるときがあるんです。」彼女の声はほんの少し震えていた。その言葉が俺の胸に深く響いた。

「……初めてあなたを見た時から…あなたに甘えたいって思っってしまったんです。」裕子は微笑みながら、そっと俺の膝に手を置いた。その瞬間、俺は全身に熱が走った。彼女の手は想像以上に柔らかく、温かかった。俺は気づけば、自分の手を彼女の手に重ねていた。もう頭が真っ白で何をしているのか分からない。ただ、その手を離したくないと思っていた。その時、彼女からそっと身を寄せてきた。二人の距離が縮まると、俺の中で抑えきれなかった感情が一気に溢れ出した。

「よろしくお願いします…」裕子は囁くように言った。俺は静かに頷き、彼女を抱き寄せた。その夜、俺たちは静かに寄り添いながら、お互いの心の中にあった空白を埋め合うような濃密で幸せな時間を朝方まで過ごした。

翌朝、裕子が目を覚まし、少し照れたように俺に微笑んだ。その笑顔を見ると、俺は昨日の夜の出来事が確かに現実だったと実感した。

「昨日はありがとう。」俺がそう言うと、裕子は静かに「こちらこそ、ありがとうございます」と呟いた。彼女が帰り支度を始めるのを見て、俺はふと寂しさを覚えたが、それ以上にまた彼女に会いたいという気持ちが芽生えていた。

「また来てもいいですか?」裕子の声は少し控えめだったが、その目には確かな期待が込められていた。

「もちろん。俺はいつでも待っています。」

彼女が微笑むと、家の中の静けさが少し温もりに変わったような気がした。玄関のドアが閉まったあとも、彼女の香りと温もりが部屋に残っていて、俺は次に会える日をただ待ち遠しく感じていた。

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