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もう男としてはダメみたいだ。

シニアの恋愛は60歳からチャンネル様シニアの話

結婚して25年。息子たちが家を出ていったことで、ようやく訪れたふたりだけで過ごす日々。けれど、そんな静寂が私にはどこか落ち着かない気分でした。意を決して、車の中で切り出しました。

「なあ、久しぶりにホテルに入っても良いか?」

ハンドルを握る手が微かに震えるのが、自分でも分かりました。何十年ぶりの誘いに、真由子がどう答えるのか怖かったのです。

妻の真由子は一瞬驚いたような表情を見せましたが、次の瞬間にはクスッと笑ってうなずきました。その日、私たちは数十年ぶりにラブホテルを訪れたのです。

部屋に入った瞬間、懐かしい雰囲気に心がざわめきました。

照明は薄暗く、壁には派手な装飾。ベッドは妙に大きくて、控えめな音楽が流れている。昭和の映画に出てくるような非日常の空間でした。

若い頃なら、こんな場所に入っただけで胸が高鳴ったのでしょうが、今は少し違いました。「誰かに見られていないだろうか」と気にする自分がいました。けれど、そんな緊張を打ち消すように、「こんな感じだったね。」

真由子のそんな一言で、時が巻き戻るような気がしました。

私の名前は高田努、61歳です。10歳下の妻、真由子とは2人の子供に恵まれ、つい先日、下の息子が社会人になり家を出ていきました。

真由子は聡明で美しく、私にはもったいないくらいの女性です。歳も離れている私と結婚してくれて本当に感謝しています。夫婦仲も良く、毎日一緒に過ごすゆったりとした時間が心から楽しかったのを今でも覚えています。

しかし、息子たちが生まれてからというもの、生活は一変しました。ちょうどその頃昇進したこともあり、仕事に育児にと追われる日々とともに、私たち夫婦の夜の生活は自然と途絶えていきました。私自身、45歳を過ぎたころまでは時折ムラムラすることもありましたが、日々の忙しさや年齢、そして体力の衰えでその感覚すら薄れていきました。それ以来、私たちは手を触れ合うこともほとんどなくなっていたのです。

そんな中、下の息子が社会人になり家を出て、ふたりきりの生活が戻ったある日、真由子がこう言ったのです。

「ねえ、今日から一緒に寝てもいい?」

久しぶりに同じ部屋で眠ることになったその夜、私は少し緊張していました。そして、何日か一緒に寝るようになった頃、真由子が突然こう尋ねてきました。

「そっちに行ってもいい?」

驚きと同時に胸が高鳴りました。「もちろん」と答えたものの、久しぶりすぎて体は高揚し、心はドキドキしているのに体がついていきませんでした。なんとなく感じるものはあったのに、思うようにならない自分にもどかしさと情けなさを感じました。

翌朝、私は正直に真由子に打ち明けました。

「正直なところ、男としてはもう駄目みたいだ…」

すると、真由子は少し微笑んでこう言いました。

「治療薬を使っている人もいるって聞いたことがあるけど、そういうの試してみる?でも体に負担があるかも知れないから一度調べて見ましょ」と優しく提案してくれました。

その日から、私たちは一緒に治療薬について調べ始めました。副作用や心臓への負担についても詳しく読みましたが、どの記事にも「健康な心臓への影響は少ない」とは書いてありました。ただ、一部心臓発作などを起こしたなどの情報が散見しました。

そのこともあり、真由子は首を縦に振ることはありませんでした。

「私は、少しでもリスクがあるなら、あなたに長生きしてほしいから、やっぱり薬なんて使わなくていいの。」

真由子のその言葉が、胸に刺さりました。

自分は、彼女にとってそんなに大切な存在だったでしょうか。若い頃には、彼女を守るのが自分の役目だと信じて疑いませんでしたが、気付いた時には守られているのは私でした。

だからこそ、変わりたかったし、彼女の願いに応えたいと思いました。

薬を使わないと決めた以上、私は何とか自力で改善する必要があると思いました。そこで、まずは体力をつける努力を始めました。毎朝ランニングを始め、サプリを飲み始めたり、精のつく食べ物を積極的に摂るようにしました。

さらに、二人の絆を深めるために新しい習慣も始めました。例えば、週に一度は一緒に散歩をしながら互いの思いを語り合う時間を設けたり、小さなサプライズをお互いに送り合ったりしました。そうすることで、日々の暮らしが少しずつ彩りを取り戻していきました。

ある日、私は真由子に提案しました。

「久しぶりに、環境を変えてみないか?」

こうして私たちは30年ぶりにラブホテルに行くことを決めたのです。最初はお互い緊張していましたが、昭和レトロな雰囲気の部屋に入ると、どこか懐かしい気持ちがこみ上げてきました。

さすがにこの歳です。入るところを誰かに見られたらと思っていましたが、同じように入っていく人は私達よりもどうみても年上の方達でした。

「今はシニアの人の方が利用が多いらしいよ」と妻の一言。

驚きつつも中に入ると、

「こんな感じだったね」と笑いながら、一緒にお風呂に入りました。昔のようにはいかないけれど、体の奥底で、長い間眠っていた何かが、ふっと目を覚ました気がしました。枯れ木に新芽が芽吹くように、静かだけれど確かに『生きている実感』がよみがえりました。そして、久しぶりに真由子と肌を合わせることができたのです。

その後、真由子がそっとこう言いました。

「ちゃんとできなくてもいいの。ただ、こうやって触れ合えたら、それだけで十分幸せよ。」

その言葉に救われた私は、彼女の手をしっかりと握り返しました。

それ以来、私たちは以前よりもさらに仲良くなり、スキンシップも増えました。真由子も私も、まるで若返ったかのようです。

真由子と手を繋ぎながら歩く夕方の帰り道、ふと思うのです。

二人に残された時間こうして心が触れ合える時間があるだけで十分なんだと思えました。

「ねえ、今度はどこに行く?」

真由子の微笑みが、これから先のどんな日々も、私にとってのかけがえのない宝物です。

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