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私の理性を揺らす隣人の男の子

いつまでも若く年の差背徳
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春の風が、ふわりとカーテンを揺らした。

その風をぼんやりと見つめながら、私はまたひとつ歳を重ねたな、と思っていた。

結婚はしたいと思ってる。今でも。

誰かと一緒にご飯を食べたり、寝る前に「おやすみ」って言い合ったり、ふとした時に手を伸ばしたら、そこに誰かのぬくもりがあるような、そんな日常がほしい。でも、私ももう35歳でアラフォー。この年になると、恋に落ちること自体が、どこか照れくさくなる。

好きって気持ちも、昔みたいにまっすぐ出せないし、傷つくことが怖くなったのかもしれない。いや、違う。

たぶん、慣れてしまったんだ。ひとりで帰る家、ひとりで食べる夕飯、ひとりで眠る夜に。

そんなある日。うちのチャイムが鳴った。午前中の遅い時間。パジャマのままじゃなかっただけ運がよかった。

玄関を開けると、少し戸惑ったような顔をした男の子が立っていた。男の子――なんて言ってしまいたくなるくらい、若かった。

黒い髪、清潔そうなシャツ、細身の体。そして何より、まっすぐな目で、こちらを見ていた。

「あの……隣に引っ越してきた加藤と申します。これから……よろしくお願いします」

あまりに緊張していたのか、言葉が少し上ずっていた。でも、その初々しさが可愛らしくて、私は思わず口元がほころんでしまった。

「花田です。こちらこそ、よろしくね」彼は、私の顔を見たとたんに、目を見開いて、それからほんの少し、頬を赤くした。

その様子が、なんというか、妙に私の心に残った。

引っ越しの挨拶なんて、形式的なもので終わると思っていたのに、彼の姿が、やたら記憶に焼きついてしまった。

若い男の子にドキッとするなんて、自分でも驚いたけど……心が反応するのは止めようがなかった。

それから、何度かすれ違った。エレベーターの前、郵便受けの前、駐輪場の端っこ。

そのたびに、彼はぎこちなく会釈をして、でも、なぜか目を合わせた瞬間だけは真っすぐに見てくる。

あの瞳を、私はだんだん意識するようになっていた。

そして、ある日。本当に偶然だったのだけど、私は彼とまた再会した。

私の唯一の趣味絵画教室で。週に一度、気分転換に通っている小さな教室に、彼がいた。

最初は気づかなくて、でも、何か視線を感じてふと隣を見たらそこに彼がいたのです。

私を見て、ぱっと顔を赤らめて、でも嬉しそうに、ちょっと恥ずかしそうに笑った。

彼も趣味で絵を描いているらしく、普段は文系の大学に通っているらしい。「うまくないですよ」と苦笑いしていたけど、彼の描く線は素直で、優しくて、私はそれを見て少し胸が詰まった。ああ、この人の目には、こういう世界が映ってるんだなって。

それから、絵の話をたくさんした。音楽の話も。ピアノが弾けることもわかって、それもまた嬉しかった。共通点が多いと、心の距離ってこんなに一気に縮まるんだって思った。あの頃の私は、きっと浮かれていたんだと思う。

歳の差も、現実も、何もかも忘れたくなるほど、彼といる時間が楽しかった。怖かった。でも、楽しかった。

恋って、こんなふうに始まるんだったっけ?忘れてた感覚が、次々に戻ってくるような、そんな日々だった。

でも、心のどこかでずっと不安はあった。彼にとって私はどう映っているんだろう。ただのご近所さん?たまたま趣味が合う年上の女性?そもそも、女として見られてるのかな?

ある日、我慢できなくなって、彼に聞いてしまった。

「私といて、疲れたりしない?」言葉は違ったかもしれないけど、意味はそんな感じだった。彼は目を見開いて、ちょっと困ったように笑った。そして、何かを言いかけて、それを飲み込んだ。でもその夜、彼からメッセージが届いた。

「今度、うちで映画とか…一緒に見ませんか?」断る理由なんてなかった。いや、むしろ、そんな言葉を待っていた。

約束の日。私は少しだけ、いつもより丁寧に化粧をした。でも、やりすぎると変に見える気がして、何度も鏡を見直しては、ため息をついた。

彼の部屋は、想像よりもずっと整っていた。若い男の子の部屋って、もっと散らかってるかと思ったけど、そうじゃなかった。

ちゃんとしてる、って思った。彼らしくて、なんだか納得する。ソファに並んで座ると、ちょっとだけ空気が張りつめた。私は無理やり笑ってかもしれない。

「隣の部屋だから、帰りが楽ね」そう言うと、彼もふっと笑って、緊張が少しほぐれた気がした。

でも――映画が始まっても、私は全然内容が頭に入ってこなかった。横顔が、近い。

肌が綺麗で、まつ毛が長くて、ふとした瞬間に香る柔らかい匂いが、私の理性を揺らす。

どれくらい時間が経ったのか、自分でもわからない。気づいたら、彼の手が私の手に触れていた。

その一瞬で、全身の血が逆流するような気がした。こんなに誰かに触れることが、怖くて、愛おしいなんて。

それだけで、胸がいっぱいになった。言葉なんて、もういらなかった。

その夜、手をつないだまま映画を見ていたはずなのに、画面の内容はもう何も覚えていない。ただ、手のひらに伝わるぬくもりだけが、静かに心に沁みていた。それが嬉しくて、こわかった。ああ、私はこの人を好きになってしまったんだ、とはっきりわかってしまったから。

年齢差。立場。世間の目。そんなものは全部わかってる。でも、それでも、この人ともっと一緒にいたいと思ってしまった。

それが、どうしようもなく罪深くて――同時に、たまらなく愛おしかった。

あの夜は、結局帰らなかった。もう少しここにいてもいいですか、なんて言葉もいらなかった。

彼が手を離さずにいてくれたから、私はただそのまま、寄りかかるように身を預けた。

ふたりの距離がゆっくりと縮まっていく。指先が髪に触れて、耳の後ろをなぞり、頬を包む。私は目を閉じて、そのぬくもりをすべて受け入れた。ひとつひとつの動きが、こんなにも丁寧で、優しくて、

触れられるたびに心が震えるのは、きっと、愛されたいと願っていた時間があまりに長すぎたせいだ。

肌が重なり合って、体温が交わって、彼の息づかいが、私の耳元で小さく揺れた。

ためらいながらも、彼の指先が私の肩に滑り、服の隙間に迷い込んでくる。私はそれを拒むことができなかった。

むしろ――ずっと、求めていたのかもしれない。

その夜、私たちはほとんど言葉を交わさなかった。ただ、重ね合った肌のぬくもりがすべてを語ってくれた。

背徳感というより、許されていなかった欲望が、ようやく静かに叶えられていくような夜だった。

そして――朝が来る前、私は彼の背中を抱きしめたまま、声にならない涙を流した。

こんなにも人を求めていた自分に驚いたし、こんなにも満たされた夜があることを、私はもうすっかり忘れていた。

それから数日。彼からの連絡は、ぴたりと止まった。

最初は「忙しいのかな」と思った。けれど、既読がついたまま返事がない時間が伸びていくにつれて、

不安がじわじわと胸を蝕んでいった。

――あれは、気の迷いだったの?

――私だけが、本気だったの?

夜、眠れないままソファに座っていると、隣の壁がやけに薄く感じた。

耳をすませば、もしかして彼の生活音が聞こえるんじゃないかと思って、

つい壁に寄りかかってみたりもした。馬鹿みたいだと思った。でも、どうしようもなかった。

ある日、絵画教室で彼に会った。彼は少し痩せたように見えた。顔色もよくない。

私の姿を見ると、一瞬だけ目を見開いたけど、すぐに視線を伏せた。何もなかったように振る舞おうとしてる、その不器用さに、

私の心はぐしゃぐしゃに崩れていった。その帰り道。私は彼の後を追いかけて、小さな公園のベンチに座った。

言葉はなかった。ただ、ふたりとも黙って、春の風に髪を揺らされていた。

しばらくして、彼がぽつりとつぶやいた。

「親に、反対されたんです」私は、息を呑んだ。

「年上の人と付き合ってるなんて……真剣に考えてるのかって。将来どうするつもりなのかって」

彼は、拳をぎゅっと握っていた。その手の震えが、彼の心の揺れそのもののように見えた。

「……僕は、好きです。でも、どうしていいかわからなくて」私はうなずくことも、否定することもできなかった。

ただ、静かに目を閉じて、冷たい風を受け入れた。

それから、ふたりは少し距離を置いた。あの夜のぬくもりを思い出しては、胸の奥が締めつけられる日々だった。

けれど、ある夜。ドアがノックされた。開けると、彼が立っていた。少し痩せて、でも目はまっすぐにこちらを見ていた。

何も言わずに抱きしめられたとき、私はもう何も考えられなかった。涙がにじんで、肩に顔を埋めた。

その夜も、私たちは何も言葉を交わさなかった。ただ、お互いを求める手が、確かに心を繋ぎとめていた。

それから三年が経った。彼は大学を卒業し、小さな出版社に就職した。私は在宅でデザインの仕事を続けながら、彼とふたりで暮らしている。

喧嘩はない。特別なこともないけれど、毎日が穏やかで、幸せだ。

「そのうち、結婚しようね」

そんな言葉を、何気なく交わすようになった。それで十分だった。

あの春の日に出会ったとき、まさかこんな未来があるなんて、思っていなかった。でも今は、隣のぬくもりがあることが、何よりの幸せだと、心から思える。春の風がまた、カーテンを揺らす。あの日と同じ、優しい匂いが、部屋に広がった。

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