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妻公認の仲

いつまでも若く禁断純愛背徳
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玄関のドアが勢いよく開く音がした。

俺はリビングのソファから顔を上げ、そこに立つ人物を見て息をのんだ。佐奈が、二人いる。

「…ただいま」二人が声を揃えて言う。その声の高さも、言葉の間の取り方も、息の使い方すら同じだった。

俺は目を瞬かせるしかなかった。

「……瀬奈…ちゃん?」ようやく喉を通った声で問いかけると、隣の佐奈そっくりの女が苦笑しながら頷いた。

「お久しぶり、宗太さん」久しぶりという言葉の通り、俺が瀬奈と顔を合わせるのは結婚式以来だった。佐奈の双子の妹である瀬奈とは、何度か会っていたはずだが、こうして目の前にすると、あまりにも瓜二つで、どちらがどちらか見分けがつかない。俺は戸惑いながら視線を佐奈に向けた。

「彼氏と別れて、行くところがないんだって。しばらくここにいてもいいかな?」佐奈は申し訳なさそうに言った。

「突然で悪いんだけど……しばらく泊めさせてくれない?」瀬奈が続ける。

玄関の外を見ると、彼女の足元にはスーツケースがひとつ。それが、彼女の今の状況を何よりも物語っていた。佐奈が「お願い」と言いたげな目で俺を見つめる。もちろん、断る理由はない。

「……まあ、別に良いけど」そうして、俺たち夫婦の生活に、双子の妹瀬奈が加わった。

三人での生活は、最初から奇妙なものだった。まず、俺は 佐奈と瀬奈の見分けがまったくつかない。

髪型も、体格も、声の高さも完全に同じで、どちらがどちらか判断できない。そのうえ二人はシンクロするかのように同じ仕草をする。ふとした瞬間に同じタイミングで飲み物を飲み、同じ瞬間に首をかしげる。俺がどちらかに話しかけると、もう片方もまったく同じ表情をして応じる。

「お前たち、双子でも似すぎじゃない?」感心するような呆れるような声を漏らすと、二人はくすくすと笑った。

「そうかな。だいたいお互いが何を考えてるか分かるんだよね」

「そう。佐奈が何か言おうとしたら、私もそれが分かるし、その逆も」

「だからね、宗太。私たちのこと、見分けられるようにならないと、大変だよ?」俺は内心、今でももう十分大変だと思っていた。

佐奈と瀬奈は、互いに影響を受け合っているのか、あるいは元々性格までそっくりなのか、話し方や仕草だけでなく、好みまで同じだった。

例えば夕飯のメニュー。

「今日のごはん、カレーとハンバーグどっちがいい?」

「ハンバーグかな」

「じゃあ、カレーにしよっか」

「……え?」俺は違和感を抱いた。佐奈は、俺の好みに合わせてくれることが多い。それなのに、俺がハンバーグを選んだ途端にカレーに変えるなんて……。

「もしかして、お前……瀬奈?」

「正解!」瀬奈が笑う。俺はため息をついた。

「遊んでるだろ……」

「だって、そのほうが楽しいじゃん」まるで俺を試すような言動を繰り返す瀬奈。その無邪気な態度に、俺は苦笑するしかなかった。

そんなある日、仕事が長引いて、深夜に帰宅すると、リビングのソファで佐奈(?)が座っていた。

うつむき、肩を震わせている。

「……どうした?」俺はそっと声をかけた。

彼女は顔を上げずに、ただ涙をぬぐった。その仕草を見た瞬間、俺はハッとした。佐奈は涙を拭くとき、手のひらを使う。

でも瀬奈は、指で拭う。

「……瀬奈、だな?」その瞬間、彼女の動きが止まった。

「……なんで、分かったの?」

「お前が泣いてるの、初めて見たからな」俺がそう言うと、瀬奈は鼻をすすりながら、小さく笑った。

「私、ずっと佐奈が羨ましかった」静かにそう呟いた声には、滲むような寂しさがあった。

「佐奈は、何もかも持ってる。私と同じ顔、同じ声、でも違う人生。私はずっと比較されてきた。どっちが優秀か、どっちが可愛いか、どっちが得をするか……」瀬奈は膝を抱えて、小さな声で続けた。

「結局、佐奈は先に結婚して、幸せになって、私は取り残された。私が欲しかったもの、佐奈は全部持ってるのに……私は、何も持ってない」俺は、言葉を失った。

「佐奈はずっと、私のことを大切にしてくれてた。でも、私が勝手に距離を取って……馬鹿みたいでしょ」

「……瀬奈」俺が呼ぶと、彼女はかすかに首を横に振った。

「ねえ、宗太……もし、佐奈がいいって言ったら……私のことも、受け入れてくれる?」

「……は?」思考が追いつかないまま聞き返すと、瀬奈はゆっくりと顔を上げ、俺を見つめた。

「佐奈と宗太とずっと一緒にいたい。」俺は固まったまま、何も言えなかった。

「だから……佐奈にも、ちゃんと聞いてみる」俺の返事を待たずに、瀬奈は立ち上がり、寝室へと向かった。

そして—、しばらくして戻ってきた彼女の隣には、佐奈がいた。佐奈は、まっすぐ俺を見つめ、静かに言った。

「宗太……お願いがあるの」

「瀬奈のことも、面倒を見てあげてほしいの」俺は、目の前がぐらつくような感覚を覚えた——。俺はその場で硬直した。

佐奈の口から出た言葉が、まるで現実味を感じられなかった。

「……え?どういうこと?」自分の声が掠れていた。理解が追いつかない。

佐奈は俺の困惑した表情を見て、少しだけ唇を噛んだ。

「私も……瀬奈とずっと一緒にいたいの」その言葉は、静かだった。だけど、揺るぎないものがあった。

「瀬奈が、私たちと一緒に暮らすことで楽になれるなら……私は、それがいいの」佐奈の言葉を、瀬奈が静かに引き取るように言った。

「……駄目かな?」俺は二人を見つめた。本気なのか?

佐奈は、俺の妻だ。瀬奈は、その妹。いくら双子でも、こんなことが許されるわけがない。

「待って……ずっと一緒に暮らすってこと?」俺の声は、自分でも驚くほど弱々しかった。

「佐奈、お前は……それで本当にいいのか?」

「うん」佐奈は頷く。

「私は、宗太が好き。でも、瀬奈も大切。私たち、今まで何でも分け合って生きてきた。だから……宗太のことも、分け合えたらいいなって」俺は言葉を失った。瀬奈が、俺のシャツの裾を軽くつまんだ。

「……お願い」その声は、どこか怯えたようでもあった。

「私は、ずっと佐奈と一緒にいたい。でも……佐奈が宗太と結婚して、私は一人になってしまった」

「だからって……」

「私は、佐奈と宗太の間に入りたいわけじゃない。でも、離れたくないの」俺は、自分の心臓の鼓動が早くなっているのを感じた。

「……そんなの、普通じゃないよ」ようやく口にした言葉に、佐奈は淡々と答えた。

「普通って何? 世間の常識?」

「……そりゃそうだろ」

「でも、私たちは私たちだから。普通にこだわらなくても、いいと思うの」そう言って、佐奈は瀬奈の手を取った。

「宗太……私たち、二人であなたのことを大切にするから」俺はゆっくりと息を吸い込んだ。

「……一晩、考えさせてくれ」それだけ言って、俺は寝室へ向かった。

眠れるわけがなかった。

翌朝、目が覚めると、二人はキッチンで朝食を作っていた。振り向いた二人が、同じ笑顔を向けてくる。

「おはよう、宗太」

「おはよう、宗太さん」俺は、これがいつもの朝と変わらないように感じてしまったことに、軽く眩暈を覚えた。

朝食を食べながら、二人は昨日と変わらないように見えた。だけど、俺の中にはどこか、今までとは違うものが渦巻いていた。

俺は、答えを出すしかなかった。

「……本当に、それでいいんだな?」俺の問いに、佐奈と瀬奈は同時に頷いた。

「うん」二人の声が重なる。

俺は深く息をついた。

「……分かった」その言葉を口にした瞬間、何かが決定的に変わってしまった気がした。

その日から、奇妙な三人の生活が始まった。最初は、まだ戸惑いもあった。それでも、佐奈と瀬奈は、当然のようにそれを受け入れていた。夜は交代交代。俺は最初、罪悪感を抱いていた。しかし、二人の態度があまりにも自然で、次第に俺自身もそれに慣れてしまった。

背徳感はあった。けれど、それ以上に、俺は二人のどちらも傷つけたくなかった。

「宗太、今日は私ね」

「宗太さん、明日は私」毎晩のように、どちらかがそう言う。

俺は、いつの間にか、それを当たり前のように受け入れてしまっていた。

これは、幸せなのか?

それとも、ただ、俺が流されているだけなのか?

答えを出せないまま、奇妙な関係は続いていく。

佐奈と瀬奈。

俺の妻と、その妹。

双子の絆と、夫婦の愛が絡み合う、奇妙な関係が、静かに続いていく——。

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