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禁断介護

いつまでも若く禁断純愛

妻を失ってから、勇樹の心にはぽっかりと大きな穴が開いていた。日々の生活は砂を噛むように味気なく、42歳という歳が途方もなく重くのしかかっている。仕事を終えて家に帰っても、部屋はしんと静まり返り、どこか冷たかった。ほんの些細な家事ですら手につかず、生活は乱れていくばかりだった。

そんな自分を見かねたのか、妻の母である美紗子さんが、頻繁に訪れては身の回りの世話をしてくれるようになった。部屋の片付け、掃除、炊事……どれも自分が頼んだわけではなかったが、彼女は何も言わずに淡々とこなしてくれた。僕が「適当にやるから」と言っても、彼女は微笑んで流し、夕飯を作り続けてくれていた。自分が自力でできるのは、せいぜい洗濯くらいだった。

そうしていつの間にか、そういう生活が当たり前になっていった。気がつけば、妻が亡くなってから3年が経とうとしていた。

美紗子さんもまた、ひとりぼっちだった。彼女の夫……つまり自分にとっての義父は、妻が幼い頃に亡くなっていたらしい。母ひとり子ひとりで寄り添いながら生きてきた彼女も、今はその娘までを失い、ぽつりと取り残されている。その寂しさが、自分と重なるようで、いつの間にか彼女がいることが心の支えになっていた。

そんなある日、美紗子さんが自転車で転んで大けがをした。両腕を骨折し、しばらくの間は一人での日常生活が困難になると聞いたとき、どうしたらいいのかと心がざわついた。結局、二人で話し合い、彼女のリハビリが終わるまで、同居生活を始めることになった。

「悪いわね、本当に……」と美紗子さんは申し訳なさそうに言った。

「いえ、一緒に暮らしましょう」と笑顔で返したが、内心は複雑だった。自分ひとりの空間に、妻の母親が入り込んでくる。その変化がもたらすものが、どこか怖かったのだ。

同居が始まると、当然のように美紗子さんの世話が日常の一部となった。介護職についている自分にとって、ケア自体には慣れているので問題はない。しかし、彼女のような若々しい女性を相手にするのは、思った以上に気を引き締めなければならなかった。妻と年齢が離れていたために、美紗子さんとの方が年齢が近かった。50歳を超えていたが、そう思えないほど体が引き締まっていて、どこか艶っぽさすら感じさせた。

特に風呂やトイレの介助が、勇樹にとって一番の試練だった。介護初日の晩、勇樹は風呂場で美紗子さんの着替えから手伝うことになった。美紗子さんは恥ずかしそうに顔を俯かせたまま、三角巾の端を握りしめていた。その表情には赤みが差し、どうしても彼女の目をまっすぐ見られない自分がいた。

「ごめんなさい……こんなことまでさせてしまって…」

彼女が震える声で言ったとき、勇樹は思わず息を呑んでしまった。気の強い美紗子さんが、こうも無防備でか弱い姿を見せることに、胸がざわめくのを感じた。しかし、それを悟られないように、努めて冷静な表情を保ち、いつも通りに振る舞おうとした。

「いえ、気にしないでください。こういうのが僕の仕事ですから」

勇樹は静かにそう言いながら、手早く彼女の服を脱がせ入浴介護をした。彼女の肌に触れるたび、理性とは裏腹に心がざわつくのを必死に抑え込んだ。まるで菩薩のように煩悩を封印し、彼女の介護に集中することができた。目の前にいるのは「義母」だ。自分にとってはあくまで家族であり、世話をするべき相手だ……そう自分に言い聞かせながらも、時折彼女が顔を赤らめ、恥ずかしそうに目を伏せる姿が、どこか愛おしく映ることがあった。

タオルを持つ彼女の手が、わずかに震えているのがわかる。彼女は顔を上げないまま、「ありがとう……」とぽつりと呟いた。その声が、いつもより少しだけ弱々しく、切なげに聞こえて、勇樹の胸に静かに響いた。

こうして二人の同居生活が続くうちに、少しずつ二人の間には言葉にしない理解が育まれていくように感じられた。彼女の優しい気遣いや、遠慮がちな仕草に触れるたびに、勇樹の心の中に小さな温もりが宿っていった。

こうして同居が始まって2カ月が経ったころ、美紗子さんの手も少しずつ動くようになり、日常生活も楽になってきた。ある晩、彼女が「お礼に豪華な寿司でも取り寄せて、ささやかなお祝いをしましょう」と笑顔で提案してきた。いつものように彼女の笑顔を見ていると、胸がじんわりと温かくなった。

二人で寿司を囲み、久々に贅沢なひとときを楽しむ。お酒が程よく入り、その場でふと、美紗子さんが視線を落とし、何か言いたげに唇を噛んだ。

「……ねえ、勇樹さん。私の裸みて何とも思わなかったの?」

その言葉には、照れと寂しさが混じり、少し苛立ちも含まれているようだった。勇樹は驚いて彼女の顔を見つめたが、美紗子さんはすぐに視線を逸らし、頬が赤く染まっている。

一瞬、どう返せばいいのか言葉に詰まったが、勇樹は心を決めて答えた。

「いや、そんなことあるはずないですよ!」

自分がどれだけこの数ヶ月、彼女の前で煩悩を捨て、冷静を保とうと努力してきたか……その思いを懸命に語り始めた。「美紗子さんが隣にいると、なんだかほっとするんです。それに、こうして一緒にいると、もう一人じゃないんだって……」

その言葉に、美紗子さんもまた心が揺れ動いたのだろう。彼女は静かにうなずき、勇樹を見つめ返してきた。その視線は、今まで見たことのないほど深く、温かなものだった。

それからは、二人の間に多くの言葉は必要なかった。ある朝、柔らかな陽が差し込む中で、二人の指がそっと触れ合った。美紗子さんの手のぬくもりが、胸の奥まで染み渡るように感じられ、勇樹は初めて心の中で一つの想いを認めた。

「これからも、ずっと一緒にいられますように」……そう呟くと、美紗子さんも静かに微笑み返してくれた。

彼女はもはや、単なる義母ではない。勇樹にとって、心の支えであり、大切な存在となっていた。そして、二人は穏やかな未来を見据え、静かに歩み出していった。

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