秋の冷たい風がリビングを吹き抜けると、私はつい窓の外の夕焼けに目を向けてしまいます。毎日見ているはずの景色なのに、そのオレンジ色の空にはいつも心を奪われてしまうんです。隣には達也さんがいます。私は59歳、彼は20歳年上の72歳。年の差なんて、最初は全く気にならなかったんです。達也さんは私にとって心の支えで、いつも一緒にいるだけで安心できる存在。でも、周りはそうは思ってくれないようで、いつもどこか冷ややかな目で見られるんです。
達也さんと初めて会ったのは、地元の文化センターで開かれていた俳句サークルでした。彼の俳句には深い人生経験が滲み出ていて、その言葉一つ一つに引き込まれました。私なんかはまだまだ初心者で、彼のように巧みな言葉選びはできません。それでも、彼の句を聞いていると、心が温かくなって、いつの間にか彼のことを好きになっていました。年齢のことなんて全然気にしていませんでしたし、達也さんも私に優しく接してくれていました。二人の距離が自然に縮まっていったのは、何の不思議もなかったんです。
達也さんは昔、教師をしていました。生徒たちの成長を見守りながら、自分の人生も豊かにしていったと話してくれました。「若い頃は、もっとガツガツしてたな。今思うと、何をそんなに焦っていたんだろうね」と達也さんは時折、遠くを見つめながら話すのです。その言葉には重みがあって、私も彼の過去に思いを馳せるようになりました。きっと、彼の人生経験が彼の言葉に深みを与えているんだと感じたのです。私はいつの間にか、そんな達也さんの深い目に引き込まれていきました。
ただ、私たちの関係が周りに知れ渡るにつれて、少しずつ違和感が生まれました。達也さんの親戚や友人たちが「財産狙いじゃないのか」と私を疑いの目で見るようになったんです。ある日、達也さんの甥が訪ねてきたときのことです。「叔父さん、そんなに年下の女性と付き合うなんて、大丈夫なんですか?」と笑いながら言われて、私は何も言い返せませんでした。達也さんは「大丈夫だよ」と言ってくれたけれど、心の中ではその言葉がずっと引っかかっていました。達也さんは私を守ろうとしてくれているのに、その度に自分が彼の重荷になっているような気がして、胸が締め付けられるようでした。
私たちが旅行に行ったときのことも忘れられません。ホテルのフロントで「ご夫婦ですか?」と聞かれて、達也さんが「いえ、彼女です」と答えた瞬間、受付の人が少し戸惑った顔をしたんです。その時、達也さんはただ正直にそう言っただけなのに、なんだか私たちの関係が嘘っぽく思えてしまって、自分の中で何かが揺らいだ気がしました。達也さんが私を守りたいと思ってくれているのは分かっているけれど、それがかえって私の胸を締め付けることもありました。
また、ある日、達也さんの友人たちと食事をする機会がありました。皆さん年配の方々で、話題も自然と昔の話に花が咲きました。ところが、話の流れで私たちの関係について触れられた瞬間、空気が一気に変わったんです。「達也、お前も若い女と付き合うなんて、元気だな。まあ、気をつけないとな」と冗談交じりに言われましたが、その言葉には本音が隠れているのが分かりました。私はその場では何も言えませんでしたが、帰り道でふと「私が達也さんの人生に迷惑をかけているんじゃないか」と不安が湧き上がりました。達也さんの手を握りしめることで、その不安を振り払おうとする自分がいました。
その帰り道、達也さんは私の手を握りながら「ごめんな、嫌な思いをさせて」と言ってくれました。私は「大丈夫ですよ」と笑って返したけれど、本当はすごく悲しかったんです。達也さんのことが好きで、一緒にいるだけで幸せなのに、どうしてこんなにも誤解されてしまうんだろうって。私たちはただ普通に愛し合っているだけなのに、周りからの無理解が私の心を少しずつ蝕んでいくのを感じました。
あるとき、私が体調を崩して病院に行ったときのことです。達也さんも付き添ってくれたのですが、待合室で隣に座っていたおばあさんに「娘さんかしら?」と聞かれました。その時も達也さんは笑って「いや、彼女なんですよ」と答えたのですが、そのおばあさんの驚いた顔が忘れられません。その場は何とか笑い話にしましたが、帰り道で達也さんが「そんなにおかしいのかな」と呟いたのです。私はその一言が胸に刺さりました。達也さんがどれだけ私を大切に思ってくれているか、私だって分かっています。でも、その気持ちを周りに伝えるのは本当に難しいんです。
そして、避けられないのが相続の話題です。達也さんが先に亡くなったら、彼の財産はどうなるのか。彼の親族はあからさまに私を疑っていて、「何か狙っているんじゃないか」と思われているのが痛いほど伝わってきます。達也さんは「君が困らないように、少しは残したい」と言ってくれますが、彼の甥が「ちゃんと遺産は守ってね」と言ってきたとき、私はその場で涙がこぼれそうになりました。達也さんがどれだけ私のことを考えてくれているか、それを彼の家族に分かってもらうのはとても難しいんです。
達也さんと一緒にいると、確かに不安や孤独を感じることもあります。でも、それ以上に彼といる時間は私にとって何よりも大切なものなんです。達也さんと一緒に散歩したり、家で映画を見たり、二人で静かに過ごす時間が私の心を満たしてくれるんです。彼と一緒にいると、自分が本当に求めていたものがここにあると感じられるのです。「周りがどう思おうと、俺は君が好きなんだ。それだけで十分だ」と達也さんが言ってくれたとき、私は涙が止まりませんでした。彼のその一言が、私にどれだけの勇気を与えてくれたか分かりません。私たちの関係は、世間からは理解されないかもしれないけれど、達也さんといることが私の選んだ幸せです。
これからも、達也さんと一緒に歩んでいきたい。周囲の偏見や無理解なんてどうでもいいんです。私たちには私たちだけの物語があって、その物語を大切にして生きていきたい。達也さんと過ごす時間がある限り、私はどんな困難にも負けずに生きていける気がします。
いかがでしたでしょうか?皆様もこの歳になってから恋をしたことはありますでしょうか?こんなことに悩むなどありましたら、コメント欄にて教えてくださいね!