私の名前は由紀恵、57歳です。今まで誰にも言えなかったのですが、私は閉経を迎えたあと、以前よりも性欲が増したのです。そんなことが起こるとは、夢にも思いませんでした。52歳の時、医者から「もう生理が来ることは無いでしょう」と告げられた瞬間、毎月の苦しみからの解放の嬉しさの反面、私はなんとも言えない寂しさを感じました。「ああ、これで私も終わったんだ」と。身体の変化とともに、女性としての役目を終えたような喪失感が心に広がっていったんです。
でも、それからしばらくして、私は自分の身体の変化に戸惑いを覚えることになります。閉経を迎えたというのに、心の奥底から湧き上がるような性欲を感じるようになったんです。なんだか急に、抑えきれない衝動が生まれてきたようで、自分でもどうしていいのか分かりませんでした。
暑い夏の夜、寝室で一人目を覚ましたとき、身体の中からじわじわと広がる熱さに、私は思わずため息をつきました。汗ばむ身体にシーツが貼り付いて、心臓がドキドキと早鐘のように打っているのが分かります。「どうしてなんだろう……」と、まるで自分の身体が誰かのものになってしまったかのように思えて、胸の奥がざわざわとしていました。
それは、私にとってとても奇妙で、恥ずかしいことであり、誰にも言えずに悩んでいたことでした。52歳で閉経を迎えたのだから、もうそんなことは無くなるものだと思い込んでいたのに、逆にこの衝動は私を混乱させるばかり。年齢を重ねた自分が、若い頃のような情熱に駆られるなんて、考えもしなかったんです。
そんなとき、どうしても一人で抱えきれず、産婦人科に勤める看護師の友人に思い切って相談してみました。私の話を聞いた彼女は、特に驚いた様子も見せずに「由紀恵、それは珍しいことじゃないわ。結構いるのよ」と笑顔で教えてくれました。
「女性ホルモンが減少するとね、かえって性欲が強くなる人もいるの。バランスが変わることで、今まで抑え込んでいた感情が表に出てくることがあるんだって」。彼女の言葉は、私が抱えていた重い荷物を、少しだけ軽くしてくれたようでした。「そうか、私はそういう体質なんだ」と、心の中で少しだけ安堵したのを覚えています。
それでも、私の中にはもう一つの大きな問題がありました。それは、夫との関係です。私の性欲が増していく一方で、夫の方はどんどんと衰えているように感じたのです。結婚して30年以上、私たちは共に歩んできましたが、彼もまた年を取り、仕事の疲れが溜まっているのでしょう。夜になると、ベッドに入るなり背を向けて、すぐに寝息を立てる彼の姿を見ながら、私はただ一人、暗い天井を見つめていました。
「どうしてこんなに寂しいんだろう……」そんな思いが胸を締め付けるのです。私の中で沸き上がる欲望と、夫が与えてくれるものとの間に、どんどん深くなっていく溝。どうしたらいいのか分からず、悩む日々が続きました。夫にそのことを話すのは恥ずかしいし、私一人で抱え込むには、あまりにも重い問題でした。
そんな私を見かねて、ある日、友人たちとランチをする機会があったとき、私は思い切って彼女たちに打ち明けてみることにしました。「みんなのところはどうなの?」と尋ねてみたのです。顔が赤くなるのが自分でも分かりましたが、彼女たちは一瞬驚いた表情を見せたあと、クスクスと笑い出しました。
「それは普通のことよ。歳を取れば、定年前の男性なんてもう体ぼろぼろよ。だから夫の疲れを取ってあげることが大事よ」と、優しく諭すように言ってくれました。「定年後になれば、男性も仕事のストレスや疲れから解放されて、性欲が戻ることもあるから、今は少し様子を見てみたら?」。その言葉は、私の冷え切っていた心に、じんわりと染み渡るようでした。
さらに看護師の友人は、「若い頃とは違った方法を試してみるのもいいかもね」とアドバイスをくれました。「オーラルセックスって知ってる?ちゃんと、厚生労働省のホームページにも載っているんだから、あまり恥ずかしがらずに試してみたら?」。彼女たちの言葉に、私は思わず感心してしまいました。その瞬間、心の中に少しずつ光が差し込むのを感じました。「そうか、年を取ってもできることはあるんだ」と、少しずつ前向きな気持ちになれたのです。
その日の夜、私はついに夫と向き合ってみることにしました。何度も心の中で言葉を練習し、意を決してリビングにいる夫のもとへと足を運びました。でも、いざ口を開こうとすると、喉がカラカラに渇いて、言葉がうまく出てこなくて……。
震える手をぎゅっと握りしめ、夫の目をまっすぐに見つめて、深呼吸をひとつ。「私、最近少し困っているの……もう少し、お互いに愛し合えたらって思っているんだけど……」。全身の力を使って言葉を絞り出すと、夫は最初驚いたように目を見開きましたが、すぐに真剣な顔になって、私の話を最後まで聞いてくれました。
「仕事の疲れが取れなくて、いつも君に申し訳ないと思っていたんだ」。夫の静かな声に、私は胸が締め付けられるようでした。長年一緒にいたのに、こんなにもお互いに隠していたことがあったなんて。私の目からは、思わず涙がこぼれてしまいました。夫はそんな私を優しく抱き寄せ、「ごめんね、もっと君を大事にしなくちゃいけなかった」と、耳元でそっとささやいてくれたのです。
それからというもの、私たちはお互いの気持ちをもっと大切にしようと決めました。夜の営みも、無理に求めるのではなく、まずはお互いの体調や気持ちを尊重し合うことから始めました。夫もまた、私が何を望んでいるのかを理解しようと努めてくれ、少しずつですが、私たちの関係は以前よりも深まっていったように思います。
歳を重ねることは、確かに避けられない現実です。でも、私は今、心の奥底に小さな灯火を見つけた気がしています。その灯火は、夫との新しい関係の始まりを静かに照らし出してくれる、そんな小さな希望の光です。まだまだ手探りではありますが、二人でお互いの心に寄り添いながら、これからも人生を共に歩んでいけたら。そう願いながら、今日も私たちは手を繋ぎ、ゆっくりと前に進んでいます。
こんな私たちの話が、同じような悩みを抱える誰かの心に、そっと寄り添う光でありますように。年齢を重ねても、愛し合うことを諦めず、共に歩んでいくことの大切さを少しでも伝えられたなら、それ以上の幸せはありません。
いかがでしたか?なかなか人には言えない悩みですね。皆様はどう感じましたか?