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未亡人の幼馴染

いつまでも若く純愛

俺の名前は遼太郎、40歳だ。毎日規則正しく仕事をこなすだけの、何の変哲もない日常を送っていた。あの日、妻が寝取られていることに気付くまでは。

思い返すだけで胸が痛む。結婚して十年、特に不満もないと思っていた中で、妻が他の男と関係を持っていたなんて、夢にも思わなかった。気づいたときには、彼女はすでに家を出て行き、机の上にぽつんと置かれた指輪と離婚届が残されていた。無造作に転がるその小さな輪っかが、まるで俺を嘲笑っているようで、耐え難い孤独と惨めさが襲いかかってきた。心の中にぽっかりと空いた穴を、何かで埋めようとしたが、そこには何もなかった。ただ虚無だけが、俺の全身を支配していた。

そんな日々がどれほど続いたのだろう。昼間は仕事に没頭することで、どうにか自分を保っていたが、夜になると、まるで心にぽっかりと穴が開いたような感覚に襲われた。妻の笑顔や、声、俺に向けていた優しさ。それら全てが偽りだったのかと思うと、胸の奥から怒りと悲しみが湧き上がり、どうしようもない感情に押し潰されそうになった。

そんな俺を支えてくれたのは、幼馴染の瀬那だった。彼女は、実家が隣同士で小さな頃から俺の隣にいて、双方にとって兄妹のような感覚の幼馴染だった。妻に去られ、心が荒んでどんなに俺が拒絶しても、決して離れずに傍にいてくれた。

「一人で大丈夫だから」と強がる俺の嘘を、彼女は簡単に見抜いたのだろう。ある日、突然俺の家にやってきて、「何も話さなくていいから」とだけ言い、台所に立ち、手際よく料理を作り始めた。彼女の後ろ姿を見ていると、不思議と心が落ち着いていくのを感じた。キッチンから漂うおかずの香ばしい匂い、包丁の音、鍋から立ち上る湯気。それら全てが、まるで俺を温かく包み込むようで、久しぶりに人の温もりを感じた気がした。

彼女は、どんなに俺が無愛想でも微笑みながら「ほら、温かいうちに食べてね」と言って、食卓に料理を並べてくれた。湯気が立ち上る湯豆腐、黄金色に焼かれた卵焼き、ほのかに香る味噌汁。俺は言葉もなく、ただその料理に手を伸ばした。口に運ぶと、優しい味が広がり、涙が溢れそうになった。妻が出て行ってから、こんなに温かい食事を口にしたのは初めてだった。

そんな日々が続き、俺に心にも少しずつ余裕が出てきた。彼女はいつも優しく、温かい笑顔で俺を励ましてくれた。何も言わずに寄り添ってくれるその姿に、俺は次第に救われていった。けれど、そんな彼女からの連絡が、突然途絶えたのだ。

最初は忙しいのかと思った。しかし、連絡が途絶えて一週間、二週間、そして一か月が過ぎても、彼女からの音沙汰はなかった。心の中に不安が広がり、何か悪いことが起きているのではないかとどうしても胸騒ぎが収まらず、俺は思い切って彼女の実家に電話をかけた。

「遼太郎君……実はね……」電話越しに聞こえた彼女の母親の声は、どこか震えていた。俺の背中に冷たい汗が流れる。嫌な予感が的中したのか。心臓が強く締め付けられるようで、息苦しさを感じた。「瀬那の夫が、交通事故で亡くなったの……」

耳を疑った。瀬那の夫が……亡くなった?俺の頭の中で、彼女の母親の言葉がぐるぐると回り続けた。目の前が真っ暗になり、言葉が出ない。あの瀬那が……彼女の優しい笑顔を支えていた彼が、もういないなんて。どうして彼女がそんな悲しみを背負わなければならないんだろう。俺は、ただ立ち尽くし、受話器を持つ手が震えていることすら感じられなかった。頭が真っ白になり、いても立ってもいられず、俺はその足で彼女の家に向かった。扉を開けると、そこには、かつての瀬那の面影がないほどやつれた姿の彼女がいた。頬はげっそりとこけ、目の下には大きな隈ができている。肌は青白く、かつての彼女の生き生きとした笑顔はどこにもなかった。

「瀬那……」俺がその名前を呼ぶと、彼女はかすかに目を動かした。しかし、その瞳に映るのは、まるで虚無だった。彼女の全てを奪ってしまったのは、夫の死という現実と、自分がそれを受け入れられないことに対する苛立ち、そして悲しみだったのかもしれない。彼女の姿を見るのが辛くて、俺は涙をこらえながら、彼女の手をそっと握った。

放っておけなかった。このままではいけないと即行動に移した。彼女の両親に電話を入れ一緒に住む許可をもらった。

「一緒に住まないか?」俺は意を決して瀬那に提案した。「君の両親にも了承を得たから。瀬那が元気になるまで、俺が支えるからさ。だから、もう一人で苦しむのはやめてくれ。」俺の声は震えていた。彼女が一人で抱えていた苦しみを思うと、どうしようもなく胸が痛んだ。

彼女は、何も言わずに俺の顔を見つめていた。虚ろな瞳で、何かを探るように。やがて、彼女は静かに、ほんのわずかに首を縦に振った。それはまるで、俺の言葉に答えるのも辛いというような、弱々しい仕草だった。それでも、俺はそれを希望として受け取った。これから、彼女の笑顔を取り戻すために、俺は全力で彼女を支えることを心に誓った。

それから、俺たちの新しい生活が始まった。最初のうちは、彼女はただぼんやりと、ソファーに腰掛けたまま、天井を見上げている日々が続いた。目の前にテレビが映っていても、何も見えていないかのように、彼女はただその場にいるだけだった。俺が仕事から帰っても、彼女は無表情のまま、何も反応を示さなかった。俺が何をしても、どんな言葉をかけても、彼女はただ無言で、虚空を見つめていた。

それでも、俺は諦めなかった。彼女の好きな花を買ってきて、部屋中に飾ったり、彼女のために毎日新しいレシピで料理を作ったり。彼女が少しでも心を開いてくれることを祈りながら、彼女の傍で、ただ寄り添い続けた。俺にできることは、それしかなかったから。

ある日、俺が仕事から帰宅すると、彼女が台所に立っていた。久しぶりに見るその光景に、俺は一瞬息を呑んだ。彼女は包丁を持ち、手元を見つめながら、少しずつ野菜を刻んでいる。見たこともないほど不器用で、ぎこちない手つきだったが、その姿に俺は涙が溢れそうになった。彼女が、少しずつ前に進もうとしている——その姿が、俺には何よりも愛おしく感じられた。

「ただいま」俺が声をかけると、彼女は振り返り、小さく微笑んでくれた。その笑顔は、まだほんのかすかなものだったが、俺にとっては希望の光だった。彼女が少しずつ、笑顔を取り戻してくれるなら、俺はどんな苦労も厭わなかった。

それから彼女は、少しずつ変わっていった。「おかえり」と優しく声をかけてくれるようになった。食事中には、彼女がポツリポツリと話す言葉が増えていき、以前の彼女に少しずつ戻っていくのを感じた。そして、半年が経つ頃には、彼女は俺のいない時間も少しずつ外に出られるようになっていた。俺は、そんな彼女を見るたびに、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

そんなある日、俺は彼女にプロポーズをしようと思った。彼女と一緒に未来を歩んでいきたいと思っていた。彼女を幸せにしたい、心からそう思った。

「瀬那、俺と結婚してくれないか?」俺は真剣な思いを込めて、彼女にそう伝えた。「これからも、ずっと瀬那の隣で生きていきたい。瀬那には幸せになって欲しいんだ。」

彼女は目を丸くして、驚いたように俺を見つめた。彼女の心にどう響いたのか、それを確かめることができなくて、俺はただ彼女の返事を待った。彼女の目には、涙が溢れていた。彼女は震える声で、俺に言った。

「それって、プロポーズなの?」微笑みながら答えた彼女の声は震えていた。俺は静かにうなずいた。「ああ、プロポーズだよ。瀬那と、これからもずっと一緒にいたい。おまえを、心から笑顔にしたい。」

彼女はしばらくの間、言葉が出なかったようだ。でも、やがて小さな声で、「私も、ずっと遼くんと一緒にいたい」と、震える声で答えてくれた。その瞬間、彼女の目から大粒の涙が溢れ、頬を伝って流れ落ちた。俺は彼女をそっと抱きしめ、その涙が彼女の心の痛みから解放されるものだと信じた。

 俺たちはこれから、幸せな日々を歩んでいける、そう信じていた。しかし、そんな中、彼女の様子がおかしいことに気づいた。体調が悪そうで、日に日に元気を失っていく彼女に、俺はどうしていいのか分からなかった。

「瀬那、何か悩んでいるなら話してくれないか?」

彼女はしばらく黙ったまま、俺の顔を見つめていた。そして、震える声で、告白してくれた。「私…妊娠してたみたい。もう六カ月みたい…」その言葉に、俺は驚きで息を呑んだ。

彼女は泣きながら、話し続けた。「ずっと気づかなくて…この子は、元夫の子どもなの…ごめんなさい、言えなくて…本当にごめんなさい…」彼女は震える声で何度も謝りながら、涙を流していた。俺は一瞬どう対応して良いか戸惑ったが、

「瀬那、俺はお前を幸せにすると決めたんだ。この子も、お前も、俺が守るよ。俺の子どもだから。二人で守っていこう。」俺は彼女の耳元で静かに囁いた。

彼女は俺の胸に顔を埋め、しばらく泣き続けた。そして、ようやく落ち着きを取り戻し、小さな声で「ありがとう、遼くん……」と呟いた。その言葉が、どれほど重く、どれほど温かく響いたか。

その後、俺たちは両親に全てを打ち明け、これから生まれてくる子どもを俺の子どもとして育てることを誓った。両親たちは、俺たちの決意を聞いて、驚きながらも受け入れてくれた。父は「お前たち二人なら、きっと大丈夫だ」と俺の肩を叩き、母は涙を浮かべながら「これから三人で、幸せになりなさい」と、そっと背中を押してくれた。

それから俺たちは、新しい命と共に、二人で未来を歩んでいくことを決めた。お互いに支え合い、どんな困難が訪れようとも、笑顔で乗り越えていこう。俺は彼女の手を取り、しっかりと握りしめた。

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