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妻が布団に潜り込んできました

シニアの恋愛は60歳からチャンネル様シニアの話

徳山茂、62歳です。希望すれば65歳まで勤め上げられたものの、つい先日、体力の低下や妻のすすめもあり早めに退職をすることを選びました。長年通い続けた職場に別れを告げた後、家に帰ると胸にぽっかりと穴が空いたような気がしました。これから何を支えにして生きていけばいいのだろう、と虚しさに押しつぶされそうになった瞬間もあります。長年の習慣で早朝には目が覚めるものの、行く先がない。張り詰めていた糸がぷつりと切れてしまったようで、戸惑いが大きかったです。

私は退職してゆっくりしていますが、妻は今もパートに出かけてくれており、日中家にいるのは私一人。定年後に急に増えた自由な時間が、最初はただ空虚に感じられました。毎日がぼんやりと過ぎていき、なにか新しいことでも始めなければ、と思い始めていた頃、ふと「料理でもしてみるか」と思い立ったのです。今まで妻に頼りきりだった家事のひとつぐらいは、役に立ってみようかと思うようになったのです。

最初は簡単な炒め物から始めましたが、少しずつ料理が楽しくなり、気づけば妻が帰る頃を見計らって、夕食を用意して待つ日が増えていきました。料理の腕は大したことはないですが、妻がテーブルに並んだ料理を見てふっと笑ってくれる、その顔を見ると、心の底から満たされる思いが湧いてきます。「美味しいわ」と言ってくれるだけで、こんなにも心が温かくなるものなのかと、驚くと同時に新鮮でした。仕事ではどれだけ頑張っても、褒められても、「充実している」とまでは感じなかったのに、妻に美味しいと喜んでもらうだけで、こんなに嬉しくなるものなのかと、私自身が驚いたものです。

料理をするようになってから、妻と過ごす時間も少しずつ変わっていきました。以前はお互い忙しく、顔を合わせても「おかえり」「ただいま」のような言葉だけで過ぎる日も多かったのですが、今では夕食の時間に「今日の具材、何を使ってみたの?」など、会話が自然に増えていきました。特別仲が悪かったわけではありませんが、こうして話す機会が増えると、長年連れ添った妻との間にどこか「他人行儀」だった部分が少しずつ消えていくように感じました。

私が家事をするようになり、夫婦間の会話は劇的に増えました。ただただ、たわいもない会話なのですがそれすらも嬉しい出来事になりました。

そしてそんな日々の中、ある晩、妻が突然私の布団にもぐり込んできたのです。あまりに不意のことで、驚いて言葉も出ませんでした。考えてみると、こうして妻と寄り添うなんて、もう20年近く前のことかもしれません。仕事に追われ、毎日が忙しくなるにつれ、妻と寄り添うなんて習慣も、いつの間にか遠ざかっていました。年齢も重ねて、自然とそういうものだとどこかで割り切っていたように思います。

しかし、その夜、布団の中で妻の温もりを感じると、心の奥底に眠っていた何かが静かに目を覚ましたような気がしました。あの頃と同じ情熱とは言えませんが、隣で寄り添ってくれる妻の存在が、今はとても愛おしく感じられるのです。こんな年になって、まさか妻にときめくなんてと、自分でも笑ってしまいそうでしたが、恥ずかしさよりも不思議な温かさに包まれていました。

翌朝、何事もなかったかのように妻が朝食を用意してくれている姿を見ていると、胸の奥がじんわりと温かくなりました。「ありがとう」と言えばいいのに、言葉が出ず、ただその後ろ姿を見つめていましたが、その時間がなんだかとても尊く思えたのです。ふと、「これからの人生も、こうして二人で穏やかに過ごせたらいいな」と心の中で思いました。

それからは、私の日常が少しずつ変わっていきました。妻が帰ってくるのを待つのが楽しみになり、料理や家事にもますます積極的に取り組むようになりました。妻が「美味しいわ」と言ってくれるたびに心が満たされていき、こんな小さな幸せが、いつの間にか私の生きがいになっていることに気づいたのです。これまで、夫婦として長く一緒に過ごしてきたことを「当たり前」と思っていましたが、言葉にしなければ伝わらない気持ちもあるのだと、今さらながら実感しました。

そして、再び妻が私の布団に入ってきた夜。もう驚きはなく、ただ自然にその温もりを受け入れました。あの日のような若い頃の情熱はもうないかもしれませんが、共に過ごした年月が育んだ穏やかで深い愛情が、私たちの間に確かにあるのだと感じました。こうして歳を重ねたからこそ得られたものが、今の私たちにはあるのだと思います。

最近では、妻がふとした瞬間に「お父さん、ありがとう」と言ってくれることが増えました。結婚当初は照れくさくて、そんな言葉も口にしなかった私たちですが、今では自然にお互いへの感謝が言えるようになっています。結婚35年を迎えた今、私たちはまた新しい段階に来たのかもしれません。歳を取るのも悪くない、むしろこれからの時間がますます楽しみになってきています。

先日、妻がぽつりと「お父さん、ずっと一緒にいてね」と言ってくれました。その言葉が心にじんと染みて、胸がいっぱいになりました。若い頃は苦楽を共にして、時にはけんかもしたことが思い出されましたが、こうして最後にお互いを支え合えることが、何よりの幸せだと感じています。

「終わりよければすべてよし」。昔の人はよく言ったものです。今では、毎晩妻と一緒に眠る時間がかけがえのないものになりました。これからももっと料理の勉強をして、夫婦二人で健康に長生きできるように生きていきたいと思います。

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