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お隣さんに会う口実を作ってたら、気持ち悪がられました

シニアの話シニアの馴れ初めチャンネル様
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俺の名前は広瀬徹50代後半のサラリーマンです。10年前にマイホームを建てて、普通に平凡な幸せを手にしているとは思っています。ただ、俺は昔から平凡や無難⭐️と言われることが多かったです。そのせいでしょうか、どうにも非凡なことに憧れてしまう部分があります。

最近は同僚が小さな支社に異動になりました。理由は社内不倫です。お互いに家庭がある中、同級生だったふたりが再会して気持ちが燃え上がったのでしょう。女性社員からは冷めた目で見られて、俺を含む他の同僚も自然と距離を置くようになりました。不倫なんて最低なことではありますが、一歩間違えばすべてを失うことに足を突っ込める勇気自体はどこかうらやましく思ってしまったのです。

「そういえば、隣の家引っ越してきたみたいだよ。今日のお昼にきれいな女性が挨拶に来た」

「そうだったんだ」

隣の家は転勤が理由で建てたマイホームを売却しなければいけなくなったのだそうです。本来なら転勤はなかったようですが、突然言い渡されてしまったと聞いています。そういうことになる場合もあるのか、と俺も他人事には考えられませんでした。

妻から隣に誰かが引っ越してきたと聞いた時は深く考えていませんでした。騒音主じゃなければいいな、くらいにしか思っていなかったんです。だけどお隣さんが引っ越してきてから数日後、奥さんと顔を合わせる機会がありました。

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

妻からきれいな人と聞いていましたが、想像以上に美人でびっくりしました。芸能人と言ってもおかしくないくらいスタイルも良くて、まさに理想の妻という雰囲気だったからです。お隣の奥さんを見てから、心の奥でくすぶっていた平凡という言葉が再び俺を苛んできました。妻は仕事をしながら育児も家事も頑張ってくれています。俺にできる部分も頑張っているつもりですが、全然妻にはかないません。俺には勿体ないくらいの妻だと分かっていても、隣の奥さんと比べてしまうのです。

結婚して母になってからほとんど着飾ることがなくなった妻、それに対して隣の奥さんは子供もいるのに身だしなみにも気を遣っています。パッと見た感じでは人妻にも子持ちにも見えないほどです。お隣の旦那さんも仕事ができる人という感じで俺とは全然違います。ああいうきれいな人は、仕事ができる人としか結婚しないんだろうななんて思ったりもしました。

「あなた、最近お隣の奥さんと時間を合わせてない?」

「えっ、そんなことはないよ」

「……そう? お隣さんが引っ越してきてからゴミ捨ても率先していくようになったし」

「できることをしようと思っているだけなんだけど」

「……ごめん。最近子供のことでちょっと参ってるのかも」

妻も疲れていることは分かっています。ただ、はた目から見てもお隣の奥さんに会うために時間を合わせていると思われているのかとちょっと驚いたのも事実です。自分としては不自然にならないように気を付けていたのですが、やっぱり自分の考えと人から見た感覚では違うのでしょう。

確かに俺は妻の言う通り、お隣の奥さんと偶然会うように時間を調整しています。でもそれだけです。お隣の奥さんと不倫関係になりたいとか、そういうことは求めていません。感覚的に言えば芸能人に憧れるファンのような感じと言えばいいでしょうか。ファンが芸能人に対して特別な感情を求めるわけではないのと同じで、俺もただ偶然会えたり挨拶ができればいいと思っている程度です。これくらいいいじゃないかと思ってから3ヶ月ほどが経った頃に妻が真剣な顔で話しかけてきました。

「あなた、お隣さんを選ぶか私を選ぶか決めてくれる?」

「は?」

「気づかれていないつもりだったの?あなた、お隣の奥さんが好きなんでしょ」

以前のように伺うような言い方ではなく断定した言い方です。つまり、これまで俺の様子を伺っていて確信めいたものを見つけたからこうして話をすることにしたのでしょう。

「いや、何を言ってるんだよ。俺とお隣の奥さんには何もないって前にも言っただろ」

「関係がなければいいって言うの? あなたがしているのは心の浮気なんだよ?」

心の浮気と言われて、少しギクリとしてしまいます。確かにお隣の奥さんに会えた時はハッピー、会えなかった時は落ち込むなど俺のその日の気分にも影響していたからです。だけど、それは芸能人に憧れるような感覚で浮気なんて言われるのは心外でした。

「自分の夫がお隣の奥さんにご近所さん以上の気持ちを持っていると分かって、私がどれだけ悔しかったか、みじめな気持ちになったか分かる? 毎日くたくたになるまで仕事をして、家事をして、育児も……!」

妻はもう限界だったのでしょう。俺としては気持ちくらいいいじゃないかと思ったのですが、これが逆の立場だったらとようやく考えることができたのです。そして妻から驚くべき言葉を聞きました。それは「お隣の奥さんも気づいている」ということです。どうやら、妻が俺と話をしようと思ったのはお隣の奥さんに相談されたからだそうです。

「自分の旦那が別の女性に気持ちを持っていかれているって聞かされて、私がどれだけみじめな気持ちになったのか想像できる? できないよね? できないからそういうことするんでしょ?」

冷静になってみれば、確かに俺のしたことは最低です。家事や育児をさせるための妻をキープして、自分は気持ちだけとはいえ恋愛をしようとしていたのですから。

「本当はすぐに離婚を言い渡してやりたい。だけど子供のために我慢する。我慢する代わりにひとつだけ条件を出させて」

「な、なに?」

「引っ越したい」

「いや、それは!」

まだまだローンだってあります。場所的に良い場所ではありますが、ローンを相殺できるほどの金額で売却できるかは分かりません。これからは気を付けると言っても、妻は受け入れてくれませんでした。

「引っ越しができないなら離婚でいい」

お隣の奥さんに気持ちがあったとはいえ、妻のことが嫌いなわけではありません。子供と離れたくもありません。ただ、引っ越したとなると周囲から何を言われるか分からないのも怖いです。憶測から噂が流れて、会社に居づらくなるかもしれないのです。そのことを妻に伝えたのですが「だから?」と言ってきました。

「それはあなたが仕出かしたことでしょう。ここまで来て自分のことしか考えられないの?」

「うっ」

妻の言い分の方が正しいです。ここに住み続けることで妻は不要な心配をし続けなければいけません。それを考えたら、俺の方から引っ越しを提案するくらいあっても良かったのでしょう。

結局俺は引っ越しすることを選びました。隣にも挨拶をしたのですが、引っ越すことを聞いて、隣の奥さんがホッとしたような表情を見せたのです。俺は妻だけではなく、お隣の奥さんにとっても嫌な人間でしかなかったのでしょう。平凡が嫌だと考え続けていた俺ですが、非凡なことが起こっても全然嬉しくありません。非凡を感じた結果、失った代償が大きすぎたからです。

だけど、俺はまだ妻にチャンスを貰えました。信頼は一瞬で崩れると言いますが、本当にその通りです。俺はこれから長い時間をかけて妻の信頼を得られるように努力しなければいけません。今度こそ家族のことだけを考えて、妻の信頼を得られた時にもう一度今回のことを謝罪したいです。

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