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この歳で初めての夜

シニアの恋愛は60歳からチャンネル様シニアの話

皆様こんにちは。私は佐久間たか子と申します。早いものでもう還暦を迎えることになりました。恥ずかしい話なのですが、私はこの歳になるまで、一度も男性とお付き合いをしたことがありませんでした。男性と話すことに緊張をすることもありますが、若い頃から仕事を優先していたことで、自分の時間を持つことがほとんどなく、気づけば独りで歳を重ねていました。お見合いも何度か経験しましたが、ご縁には恵まれることもなく、次第に「私にはそういう縁がないのだろう」と自分を納得させていたのです。

私は女医として働いてきました。医者を目指したのは、体が弱かった母を救いたいという気持ちからです。その当時の医者と言うと、周囲のほとんどが男性で、女性医師は珍しい時代でした。立場の弱い女性ということもあり「負けたくない」という気持ちが常に心にあり、正直仕事を休む間もなく努力を続けました。そのおかげで退職するまで医師としての地位を確立することができましたが、その分、恋愛や結婚といったものは二の次でした。忙しい毎日を言い訳にして、気づけばもう一人でも平気だと思い込むようになっていたのです。

もちろん出会いが無かったわけではありません。両親や知人などから何度も紹介されお見合いをしました。ただ、この人良いなと思う人も何人かいたことはあるのです。でも、私が医者をしていて仕事を辞めない事を知ると皆さん私から離れていきました。そんなこともあり、結局一人で過ごすことになったのです。

ただ、そんな私が人生の終盤で恋をするなんて夢にも思いませんでした。そのきっかけは、両親の介護を通じて出会った堀田修一さんという男性でした。堀田さんは同じ町内に住み、私と同じように独身のまま過ごし、ご両親の介護をしている方です。地域の介護者交流会で初めて顔を合わせたとき、堀田さんから「お疲れのようですね」と優しく声をかけてくれました。その言葉に驚きつつも、自分の肩が力なく垂れていることに気づき、つい正直に「そう見えますか?」と答えてしまいました。

堀田さんもまた、親の介護に多くの時間を捧げてきた方で、私と同じような疲れや孤独を感じているのだとわかりました。その場で長く話したわけではありませんが、不思議と気持ちが軽くなるのを感じました。あの時の穏やかな表情と温かい言葉は、今でもはっきりと思い出せます。

それから数週間後、堀田さんが「良ければ、一緒に散歩でもどうですか?」と誘ってくれました。私たちは公園をゆっくり歩きながら、互いの親のことや介護の苦労について話しました。堀田さんの言葉には、押しつけがましさがなく、ただ話を聞いてくれる優しさがありました。ふと堀田さんが「たか子さんのお母さんは、どんな方だったんですか?」と尋ねてくれた時、私は思わず微笑んで答えました。「とても優しくて、我慢強い人でした。自分のことは後回しで、私の心配ばかりしてくれました」と話すと、堀田さんは「うちの母も同じでしたよ。だから放っておけないですよね」と頷きました。似たような経験を持つ彼だからこそ、私の話を理解し、共感してくれるのだと感じました。

その時、堀田さんがふと私の手を取りました。「寒いですよね。でも人の手って暖かいでしょう?」驚きで息を飲む私に、彼は優しく笑いました。私は手が震えているのを隠そうとしましたが、心臓の音が耳に響き、彼にも聞こえてしまうのではないかと不安でした。その瞬間、60年分の孤独が溶けていくような感覚に包まれました。

そして、堀田さんから「今度息抜きに映画を観に行きませんか?」と誘われました。映画館なんて何十年ぶりだったでしょう。暗い館内で隣に座る堀田さんの存在がやけに近く感じられ、少し緊張してしまいました。映画の内容は、私たちと同じような状況の老々介護をしている物語でした。置かれている状況が同じでしたので心に深く染み入りました。映画が終わり、明るくなった館内で堀田さんが「息抜きってやっぱり大事ですよね」とつぶやきました。その帰り道、彼がぽつりと「たか子さんこれからもまた一緒に息抜きデートしてくれますか?」と言いました。その言葉に胸が高鳴り、私もそう思いたいという気持ちが芽生えた瞬間でした。

すこしずつ彼との仲も深まり、堀田さんの家庭菜園を見に行くことになりました。そこで収穫したばかりのトマトを洗いながら、彼が「ここでたか子さんも一緒に野菜を育てませんか?」といきなりプロポーズのようなものをされたのです。その言葉が胸に響き、私は考える間もなく思わず「はい」と答えてしまいました。その後、ふとした拍子で堀田さんが私の肩に手を置き、目を覗き込んできました。目が合った瞬間、何も言葉が出ませんでした。ただ、お互いの距離が少しずつ近づいていくのがわかりました。そして流れるように唇が重なった時、これまで感じたことのない温かさが胸に広がりました。これが恋なのだと、初めて実感しました。

その後、私たちは何度かデートを重ね、少しずつ関係が深まりました。もちろんこの歳で初めてなので堀田さんにはうまく出来ないかもしれないことを、恥ずかしいですが相談をしました。でも彼は私の体のことをきちんと考えてくれ、優しく対応してくれました。結局必要は無かったのですが、いろいろと用意もしてくれていたみたいです。

彼と一緒にいると私の孤独は薄れ、未来が少し明るく見えるようになってきました。今では彼と過ごす時間が何よりも幸せで、この年齢だからこそ見つけられた愛だと感じています。まだ不安や戸惑いが完全に消えたわけではありませんが、堀田さんとならきっと大丈夫だと思っています。

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