テレビ局のプロデューサーという仕事に携わり、かれこれ20年以上が経つ。若い頃はただがむしゃらに働き、業界の華やかさに酔っていた時期もあった。しかし今では、華やかさの裏に潜む欲望や駆け引きに嫌気が差し、どこか冷めた目で物事を見ている自分がいる。48歳になった俺、増田智樹にとって、この仕事は情熱よりも「責任」が優先されるようになっていた。今回、俺がプロデューサーを務める新番組のキャスティングも佳境に差し掛かっている。問題は、最後の枠を誰に託すかだ。候補は二人――28歳の売れないグラビアモデル、竹内彩夏。そしてもう一人は36歳の元グラドルでママさんタレントの、斎藤奈々。
竹内彩夏は、誰もが振り返るような華やかな外見を持っている。明るい笑顔と愛想の良さで、一見、親しみやすく見える。しかし、その裏に潜む野心の強さは、会話の端々に感じられた。彼女の売り込み方は巧妙で、意図を持って人を取り込もうとする態度はかなり露骨だ。
「増田さん、本当に尊敬してます! 新番組は絶対成功しますよ!」
そう言って、肩に軽く手を置いてくる竹内。ボディタッチが激しい。その仕草に、明確な意図が込められていることは言わずもがなだった。彼女のようなタイプは業界に珍しくない。だが、彼女がここまでのし上がるために、どれだけの人を蹴落としてきたかを想像するのは難しくなかった。
一方、斎藤奈々は、竹内とは対照的だった。彼女は二人の子供を育てながら、グラドルとしてのキャリアを地道に築いている。派手さはないが、努力の跡がにじみ出るような自然体の魅力があった。撮影の合間に話しかけると、彼女の誠実な人柄がさらに伝わってきた。
「奈々さん、家庭と仕事の両立は大変じゃない?」
「はい。でも、この仕事が好きなんです。子供たちも、私が頑張っている姿を見てくれていると思うと、もっと頑張れます。」その言葉に、俺は少し感銘を受けた。彼女のような人間がもっと評価されるべきだと心のどこかで思った。だが竹内は、そんな斎藤を許さない。彼女は陰湿な手を使い始めた。衣装を破いたり、物を隠したり。これは本人と断定は出来ないがSNSで誹謗中傷をしたり、業界の関係者に斎藤の悪口を吹き込んだりと、評判を落とす工作をしていた。それだけでは飽き足らず、俺へのアプローチもさらに露骨になっていく。ある晩、局の近くのバーで竹内が俺に声をかけてきた。
「増田さん、こんなところでお会いできるなんて、偶然ですね!」偶然を装ったその笑顔。内心、苦笑したが、あえてそれを表に出さず、彼女のゲームに乗ることにした。
「おお。何か話したいことでも?」彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻し、俺に向き直った。
「実は……私、もっと仕事を増やしたいと思っていて。増田さんが力を貸してくれたら、私ももっと頑張れると思うんです。」その言葉と共に、彼女は手を俺の肩に置き、わずかに身を寄せてきた。その仕草には、他意があることは明らかだった。
彼女の行動がますますエスカレートする中、俺はある計画を立てることにした。竹内のようなタイプに単純に「NO」と言うだけでは、彼女の愚かさに気づかせることはできない。それならば、自分でその愚かさに気づかせるように仕向けるのが一番だ。
「竹内さん、実はエグゼクティブプロデューサーがあなたに興味を持っているみたいですよ。」俺は彼女にそう伝え、局内のとある中年スタッフの名前を挙げた。彼はただの裏方で、大した権力もない。だが、竹内には「偉い人」に見えるだろう。
「本当ですか? じゃあ、ちゃんとご挨拶しないと……!」目を輝かせてそう答える彼女を見て、内心では笑いをこらえたが、表情には出さなかった。彼女がどう動くのか、しばらく観察することにした。
竹内彩夏は、こちらの思惑通りに動き始めた。彼女は「エグゼクティブプロデューサー」と勘違いした裏方スタッフに、急速に接近していった。収録の合間には積極的に話しかけ、露骨にお世辞を並べる。
「本当にすごいですね! 現場をいつも完璧に仕切ってて尊敬します!」
そんな言葉を何度も聞かされるスタッフは、最初こそ面食らっていたが、次第に彼女の意図に気づき始めた。ある時、彼は俺のところに来て、小声で囁いた。
「増田さん、これ……一体どういうことですか? 」俺は軽く笑いながら答えた。
「まあ、気にしないでください。彼女には勘違いさせておけばいいんです。ただ、関係は絶対に持たないでくださいね。」スタッフは困惑しながらも、それ以上は深く追及しなかった。一方で、斎藤奈々は地道に自分の仕事をこなし続けていた。しかし、竹内の嫌がらせは相変わらずで、彼女の元にも誹謗中傷のような噂が届いていた。
ある日、奈々が俺のところに相談に来た。
「増田さん、少しお時間よろしいですか?」
「もちろん。どうしました?」
「最近、いろいろ嫌がらせが届いていて……。私はただ、仕事を一生懸命やりたいだけなのに……」その言葉には、悲しみと不安がにじみ出ていた。それでも彼女は涙をこらえ、まっすぐ俺を見つめていた。
「このまま続けるべきなのか、迷ってしまいます。でも、子供たちに背中を見せたいし、私なりに頑張りたいんです。」俺は深く頷き、彼女に静かに言った。
「奈々さん、俺はちゃんと見ていますし、それはきっときちんと伝わりますよ。」その言葉に、奈々の表情が少し和らいだ。彼女のような人間こそ、この業界に必要だと俺は再確認した。数日後、いよいよ最終キャスティングの決定日がやってきた。候補者として会議室に呼び出された竹内と斎藤。二人の表情は対照的だった。竹内は余裕の笑みを浮かべ、斎藤は少し緊張した面持ちだった。俺は深呼吸をして、結論を伝えた。
「この番組の最後の枠には、斎藤奈々さんを起用することに決定しました。」
一瞬の静寂が訪れた後、竹内の顔が真っ赤になり、声を荒げた。
「増田さん、それってどういうことですか!? 私だって、この仕事のために……!」彼女の抗議を遮り、俺は冷静に言葉を続けた。
「竹内さん、あなたの努力は確かに認めます。ただ、その努力の方向が間違ってるよ。この業界で生き残るためには、人を蹴落とすことではなく、自分の価値を高めないと。すぐに終わる子になっちゃうよ。」さらに、彼女がエグゼクティブプロデューサーだと思い込んで媚びを売っていた相手について触れた。
「あの方、ただの裏方スタッフですよ。あなたの行動はすべて見させてもらいました。」竹内の顔が凍りついた。羞恥と怒りが入り混じった表情で、何も言えずその場に立ち尽くしていた。斎藤は驚いた表情で、深く頭を下げた。
「本当にありがとうございます。このチャンスを絶対に無駄にしません。」その言葉に、俺は心の中で安堵した。この結果こそが正しかったのだと確信した。
竹内彩夏は、今回の失態が業界内で広まり、次第に仕事を失っていった。しかし、彼女はその後、表舞台に立つことを一旦諦め、舞台役者として地道に経験を積む道を選んだという話を後で聞いた。その姿勢の変化に、俺はどこか安堵した。
一方、斎藤奈々は新番組での活躍を見事に果たし、業界内でますます注目を集めるようになった。彼女の誠実な努力が、多くの人々に感動を与えているのを感じる。
実際の所、枕営業をしたというのはまだまだよく聞く。俺は早くそんな体制がなくなることを俺は常に思っている。
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