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保母さん~俺に向けられる笑顔~

俺の名前は宇津美哲也。かつての妻は男を作って俺の元から去った。後から考えるとサインはたくさん出ていた。共働きなのに、妻の気持ちに寄り添わず家事も育児も任せっきり。そんな状況が他の人に助けを求める環境を作ってしまっていたのだろう。そのまま離婚することになり、以降は、生活のすべてを一人で背負っていた。昼間は会社員として働き、夜は一人で娘の葵を育てる。以来、哲也はワンオペ育児の忙しい日々を送っていた。その重圧はまるで鉛のように、哲也の肩を圧迫し、時には呼吸さえも困難に感じさせた。

「宇津美さーん、もう少し早くお迎えに来てくださいね」と、ある日保育園の園長に叱られた。葵を自転車の後ろに乗せ、家路につく哲也の心は重かった。しかし、その日は何かが変わる契機だった。葵の担当保母さんである真奈美が、優しい声で彼に話しかけたのだ。「宇津美さん、園長先生はああ言っていますけど、気にしないでくださいね。私、大丈夫ですから」と。彼女の小さな手が哲也の手に触れた瞬間、彼の心には久しぶりに暖かいものが流れ込んだ。

真奈美はショートカットが印象的な、小柄で目を引く可愛らしさを持つ新人保育士だった。贔屓目でみても彼女は、なぜか葵のことをいつも一番に考えてくれ、その姿に哲也は感謝の気持ちでいっぱいだった。それから数週間後、哲也と葵は近くのモールで偶然、真奈美と出会った。「あっ、真奈美先生だー」と葵が声を上げると、彼女は満面の笑顔で近づいてきた。葵の下着の購入で困っていた哲也に「私、お買い物付き合いますよ」と提案する真奈美の声は、哲也に少し戸惑いと喜びを感じさせた。

一緒に過ごす時間の中で、哲也は真奈美のさりげない気配りや優しさに心を動かされていた。葵と真奈美が楽しそうにしている姿を見るたび、彼の心は軽くなっていくのを感じた。買い物が終わりかけたとき、葵が間違えて「ねーママー。あれ食べたいー」と真奈美を呼び、その後恥ずかしそうにパフェを指差した。真奈美は笑って、「じゃあ、今日はパパにおごってもらおっかな?」とウインクしてきた。その日の夕食とパフェは、哲也にとって忘れられないひとときとなった。

それ以降、真奈美と哲也は親密な関係を築いていった。葵が彼女のことを気に入っているのはもちろん、哲也自身も彼女の機転の利くところや優しさに惹かれていった。彼は自分の感情に戸惑いながらも、真奈美への想いを育てていく。

「パパは真奈美先生のこと好き?葵は大好きなの」そんなことを葵に聞かれてから、哲也の心はお迎えの度に緊張と期待で高鳴った。真奈美との出会いが、彼の世界を少しずつ変えていく。哲也は自分の心の中に新たな希望の芽生えを感じ始めていた。それは、長い間忘れていた愛することの喜び、そして自分自身を再び信じることの大切さを思い出させてくれたのだった。

そんなある日、葵が保育園で怪我をしたという知らせを受けた。病院へ急いだ彼の心は、不安でいっぱいだった。到着すると、そこには真奈美がいた。彼女の顔には涙が溢れ、葵のベッドの横でひざまずきながら、謝っている姿があった。目を離していたときにブランコから落ち頭を打ったそうだ。CT検査の結果、幸いにも異常はなかったが、その一件は哲也にとって大きな出来事となった。

真奈美の涙を見て、哲也は深く心を動かされた。彼女が葵に対して抱く責任感と愛情、そしてその事故を深く悔やんでいる様子を見て、哲也は「この人以外にもういない」と心から感じた。

病院の帰り道、哲也が抱っこしている葵の頭を真奈美が軽くなでながら、「葵ちゃん今日は本当にごめんね」と話してるのを見た瞬間、哲也は感情が止まらなくなってしまった。哲也は声を震わせながら「真奈美さん!僕とお付き合いしてくれませんか?僕はあなたと葵と、これからの人生を共に歩んでいきたい。」と言葉を紡いだ。

真奈美は一瞬言葉を失ったが、やがて彼女の目からは涙があふれ、頷いた。「はい、喜んで」と彼女は答えた。その瞬間、葵は「やったぁ!。パパやっと言えたねー。真奈美先生待ってたんだよー」と言った。真奈美は焦ってパニックになっていたが、哲也は真奈美を引き寄せ、葵と二人を強く抱きしめた。それは、新たな関係の誕生と、彼らの心が一つになった瞬間だった。

哲也、葵、真奈美の絆は、その試練を乗り越えることで、さらに強くなった。彼らにとって、それは単なる事故ではなく、お互いへの信頼と愛を深め、未来への希望を共にするきっかけとなった。事故は彼らにとっての転機であり、それを乗り越えた彼らは、これから訪れるであろう幾多の困難も共に乗り越えていけるという確信を持つようになった。

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