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シニアの恋愛は60歳からチャンネル様シニアの話
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私の名前は香田久美、58歳です。夫の秀和は63歳、先月定年を迎えました。それまで毎朝スーツに袖を通して出勤していた夫が、今では家でのんびり過ごしています。リビングで新聞を広げたり、好きなテレビ番組を見たり、たまには庭の草むしりをしたり――そんな姿を見ると「ああ、老後ってこういうものなのか」と少しだけしんみりすることもあります。

私自身は、まだ正社員として働いています。仕事は忙しいですが、それなりにやりがいもありますし、同僚とのコミュニケーションも楽しい。夫の定年後も、私が働いているおかげで経済的には余裕があり、夫は家事も手伝ってくれるので特に不自由を感じることはありません。でも本音を言えば、「せっかくまだ元気なんだから、何か趣味を持つか仕事をしてほしい」と思っています。このまま家でゴロゴロしているうちに、どんどん老け込んでしまうんじゃないかと心配になるのです。本人に直接言うと機嫌を損ねるので、そこはぐっと飲み込んでいますけどね。

そんなある日の朝、いつものように通勤電車に乗った時のことでした。朝の満員電車の中で、何かお尻に違和感を覚えました。最初はカバンか何かがぶつかっているのかと思い、少し身をよじって体勢を変えてみました。でも、違和感は消えません。それどころか、まるでその「何か」が私の動きに合わせてついてくるような気さえするのです。

「まさか」と思いながらも、心の中で否定していました。だって私はもう58歳、還暦も近いんですよ? こんなおばさんに痴漢だなんて、何かの勘違いに違いない、と。

けれど、その違和感は翌日も、その次の日も続きました。それどころか、触られる感覚がだんだんと明確になっていったのです。手のひらの生暖かさや、指先の動きまでがわかるようになり、とうとう私は確信しました。「これ、痴漢だ」と。

信じられませんでした。若い頃ならともかく、今の私に痴漢がつくなんて。確かに私はスタイルには気を遣っていて、体重が50キロを超えたことはありません。服装もいつも清潔感を心がけているし、たまに「若いですね」と言われると密かに嬉しくなるくらいには、外見には気を配っている方です。でも、それでも58歳。周りから見たら十分に「おばさん」だろうと思っていたのに。

本当は、その場で痴漢の手を掴んで「何してるんですか!」と叫んでやりたかった。でも、「この歳で騒ぐのもみっともない」とか、「もしかして勘違いだったら恥ずかしい」とか、いろいろ考えてしまって、結局声を上げることができませんでした。

夫に相談してみたこともあります。「電車で痴漢にあってる気がするの」と切り出すと、夫は新聞から顔を上げて「そんなバカな」と一笑に付しました。「この歳で痴漢? 気のせいだろ」と言われてしまい、私はそれ以上何も言えませんでした。

その日から、私は毎朝電車に乗るのが怖くなりました。時間を変えてみても、痴漢行為は続きました。手の動きは日を追うごとに大胆になり、ある日にはスカートをたくし上げられそうになることもありました。その瞬間、私は「もう無理だ」と思いました。このままでは心が壊れてしまう――そう思った私は、もう一度夫に相談することにしました。

「痴漢に毎日触られてるの。本当なのよ、嘘じゃないの!」

私は泣きながら訴えましたが、夫は首をかしげて「気のせいじゃないのか?」とまだ半信半疑の様子でした。

でもその日も、翌日も、痴漢は現れました。私は最近毎日重い気持ちで電車に乗り込んでいました。揺れる車内、いつもの混雑。何事もなければ普通の日常のはずなのに、私は肩をすぼめ、周囲に気を張り巡らせていました。それでも、痴漢の手は容赦なく伸びてきます。触られる感覚が背筋を這うように広がり、目の前の景色が霞むほどの嫌悪感が私を包み込みました。

「もうやめて!」心の中で叫んでも、声には出せません。ただ耐えることしかできず、どうしてこんな目に遭うのか、自分を責める気持ちすら湧いてきます。

その時でした。突然、低くて力強い声が車内に響き渡りました。

「おい、痴漢をやめろ!」

驚いて振り返ると、そこには見慣れた夫の顔がありました。息を切らし、険しい目つきで痴漢の腕を掴んでいます。痴漢は抵抗しようとして、「俺はやってない」と喚きましたが、夫は毅然として言い放ちました。

「証拠は撮ってあるぞ。警察に突き出してやる!」

痴漢は青ざめ、夫に引きずられるようにして次の駅で降ろされました。夫は駅員室に連れて行き、証拠としてスマートフォンで撮影していた動画を提示しました。痴漢は抵抗を続けましたが、私を含む何人かの乗客が目撃証言をしてくれたことで、その場で警察に引き渡されました。

その後、駅員さんや警察官とのやりとりを終え、少し落ち着いたところで夫が私に向き直り、ぽつりと一言。

「遅くなってすまん」

その言葉に、私は堪えていた涙が一気に溢れました。夫は最初に私が相談したときから、こっそり後をつけていたそうです。痴漢の行動を確認し、確実な証拠を掴むために私に気付かれないように何日も電車に乗り続けてくれていたのだと聞かされた時、胸がぎゅっと締め付けられました。

「なんでもっと早く言わなかったの?」と私は涙ながらに問い詰めましたが、夫は苦笑して「男の意地ってやつかな」と言いました。その言葉に思わず笑ってしまい、夫の温かい手をぎゅっと握りしめました。

そして、警察の捜査の結果、驚くべき事実が判明しました。逮捕された痴漢は、私の会社の取引先の社員だったのです。これまで何度か会ったことがある顔でしたが、まさかそんな人が――と思うと、改めて恐怖と嫌悪感が込み上げてきました。

その夜、並んで寝ているお布団の中で、夫がふと冗談めかして言いました。

「お前を触っていいのは俺だけなんだからな」

その一言に、私は思わず吹き出しました。でも、気がつけば私は久しぶりに夫の布団に潜り込んでいました。58歳にもなってこんなこと…少し恥ずかしい気もしましたが、夫の温もりが安心感となって心に広がりました。

「この人と結婚して良かった」――そんな思いが胸に満ちていくのを感じながら、私はそっと目を閉じました。

次の日の朝、夫はいつもより元気に見えました。まるで一仕事終えた男の顔でした。私もどこか晴れやかな気持ちで家を出ました。電車に乗るのが怖いと思うことはもうありません。車窓から流れる景色を眺めながら、「これからはもっと夫を信じて、二人で助け合っていこう」と心に誓いました。

夫もきっと同じ思いでいるのでしょう。これからも、歳を重ねても手を取り合い、互いに支え合う日々を過ごしていけたら――そんな未来を、私は静かに思い描いています。

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