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周りに人がいるのに

シニアの恋愛は60歳からチャンネル様シニアの話
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私の名前は丸山真理子、58歳になりました。先日、夫の伸一が60歳を迎え、定年退職をしました。

長年頑張って来た夫は「しばらくはゆっくりする」と言っていましたが、すぐに嘱託として働く予定にしているみたいです。年金が入るまでは頑張ってくれるようです。でも、私はこれまで仕事一筋で頑張ってきた夫に、何か定年祝いをしたいと思っていました。そこで、長年憧れていた車をプレゼントすることにしました。

今までは家族で使うために選んだワンボックスカーに乗っていましたが、もうすぐ15年にもなります。そろそろ買い替え時です。前回は車検費用も高くつきました。それに夫がずっとトヨタの86という車を欲しがっているのは知っていました。パンフレットを何度も眺めては、「やっぱりいいなあ」とつぶやく姿を、私は何度も見ていたのです。でも、車なんてものを勝手に買うわけにはいきません。色やオプションなどもありますしね。そこで、私はトヨタに電話をしてカタログを取り寄せました。すると、トヨタの営業マンが直接持ってきてくれました。たまたま夫が散髪に行っていたので良かったですが、もし家にいたらバレてしまう所でした。私はよくわからないので、夫と一緒にディーラーにいく日を予約しておきました。

そして夕食後、「ジャーン」と言いながら取り寄せたカタログを夫に手渡しました。

「え?なにこれ?」夫は不思議そうに表紙を見つめました。そこに映るのは、鮮やかな赤の86。

「今度の車はこれにしよ?」そう言うと、夫は驚いたように私の顔を見つめました。しばらく無言のまま、カタログの表紙を撫でています。

「……ほんとに?いいの?」声が震えていました。私は微笑んで頷きました。すると、夫は突然私を抱きしめ持ち上げ、そのままくるくると回り始めました。

「ちょっと!危ないって!」やったーと言いながらまるで子供みたいにはしゃぐ夫。ところが、勢い余ってバランスを崩し、そのまま派手に転んでしまいました。

「イタタタっ!もう!いい歳してそんなことするから……」呆れながらも、目が合うとおかしくて、結局二人で笑い合いました。

それからというもの、夫は異常なくらい私に優しくなりました。

「今日は皿洗いは俺がやるよ」

「荷物?持つ持つ!なんでも言って!」なんだか新婚時代に戻ったみたいで、私は少し照れくさくなりました。

そして、いよいよディーラーへ。

ショールームに並ぶ車の中で、夫は86を見つけると、少年のように目を輝かせました。

「やっぱり良いわー…」その姿を見て、私も嬉しくなりました。夫はその場で契約書にサインをし、納車を心待ちにすることになりました。

「本当に良いの?」と何度も確認されましたが、その日に契約が出来て良かったです。早くて4カ月かかるそうです。

それからの4ヶ月、夫は毎日カタログを見つめながら、「この色にして正解だったな」とニヤニヤしていました。そして、いよいよその日がやってきたのです……。

4ヶ月が経ち、ついに夫の86が納車される日がやってきました。

ディーラーに着くと、ピカピカに輝く真っ白な86が用意されていました。納車式というものまでしてもらい、夫は終始満面の笑みで写真を撮ってもらいました。私はその様子を見ながら、「こんなに嬉しそうな夫を見るのは、いつ以来だろう」と思いました。まるで子供のように嬉しそうに車を眺める夫の姿に、私も心から嬉しくなりました。

「じゃあ、早速ドライブに行こう!」夫は興奮気味にそう言い、私を助手席に誘いました。まるで初めて車を買った若い頃のように、弾んだ声をしています。私は笑って助手席に乗り込みました。

夫が向かったのは、どこか見覚えのある道でした。山を登り、見晴らしのいい場所へと車を走らせます。そして、目的地に着いた時、私はようやく気づきました。ここは、私達がお付き合いを開始して、付き合って1か月ほど経ったときに来た展望台でした。そして私のファーストキスの場所でした。

「ここ……懐かしいね」そう言うと、夫は少し照れくさそうに笑いました。そして、ダッシュボードを指差しながら「開けてみて」と言います。

不思議に思いながら開けると、小さなジュエリーボックスが入っていました。ゆっくりと開けてみると、中にはダイヤモンドの指輪が輝いていました。

「え……?いつのまに?え?いつ入れたの?」驚いて顔を上げると、夫は少し照れながら言いました。

「今日は、結婚35年目だろ?おまえにも何か贈りたかったんだ。今まで支えてくれて有難う」

私はその言葉を聞いた瞬間、涙が溢れてしまいました。まさか、夫からこんなサプライズを用意してもらえるなんて思いもしませんでした。

「まさか、あなたがこんなことをしてくれるなんて……」泣き笑いしながら指輪を手に取ると、夫は優しく私の手を握りました。

「これからもよろしくな」

そして、私のことを抱きしめました。40年前と同じ場所で私たちはそっと唇を重ねました。40年前と変わらない、でも、今はもっと深く温かい気持ちがこみ上げてきました。周りには人がいたのにそんなこと忘れるくらい心が温かくなりました。

定年を迎えても、人生はまだまだ長いです。これからも夫と二人で支え合いながら、歩んでいこう。私はそう強く思いました。

帰り道、夫は嬉しそうにハンドルを握りながら、「どこか寄り道しようか?」と聞いてきました。私は笑って「そうね、せっかくだから何か美味しいもの食べて帰りましょ?」と答えました。

新しい車と、夫の優しさに包まれた、こんな歳になって忘れられない一日になりました。

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