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女将との情事

シニアの恋愛は60歳からチャンネル様シニアの話
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私の名前は武田国治、62歳です。定年までは大手チェーン店で店長をしていましたが、定年を迎え、今は地元の小料理屋で板前として働いています。そのままチェーン店で雇用してもらうこともできたのですが、長時間労働は変わらずで給料は下がるという状態になるので、思い切って辞めました。拾ってくれた女将でもある美佐江さんに感謝しています。営業が夜だけということもあり、前職のように長時間労働をする必要がなくなり、昼過ぎからの出勤で済む今の職場は、体が楽で助かっています。

そんな日々の中で、最近、ある人のことを考える時間が増えてきました。

それは、この店の女将、美佐江さんです。

私は結婚しており、家には妻の孝枝がいます。結婚して三十年以上の月日が流れ、今では互いに空気のような存在になっています。特に仲が悪いわけではありませんが、会話も最低限しか交わさなくなりました。

けれど、美佐江さんは違います。

彼女は妻の同級生だという話ですが、十歳以上若く見えます。肌は張りがあり、笑顔は柔らかく、仕草のひとつひとつに色気がある。そんな彼女と、ほぼ二人きりで仕事をしていると、ふとした瞬間に手が触れたり、近くに寄られたりすることがあり、思わずドキッとしてしまいます。

もちろん、変なことをするつもりはありません。孝枝の友人である以上、そんなことは許されないのはわかっています。だが、それでも、美佐江さんと過ごす時間が、どこか心地よく感じられるのも事実でした。

そんなある日のことです。

店が落ち着いた頃に、突然酔っ払いが店内に入ってきました。かなり泥酔しているのか、大きな声を出しながら、美佐江さんに絡み始めました。

ほら俺と付き合えよ、ほら早く注げよと絡むのです。

美佐江さんは丁寧に、お断りしているのですがいっこうに止まりません。

美佐江さんは困ったように笑いながら、なんとかあしらおうとしていましたが、男はどんどん図々しくなり、ついにはカウンター越しに手を伸ばし、美佐江さんの腕を掴みました。

「やめなさい」

気づけば、私は男の手を振り払っていました。

男はこちらを睨みつけ、不機嫌そうに舌打ちしました。

今度はコチラに矛先が向きました。

その時私は無意識に思わず包丁を構えてしまいました。

「これ以上迷惑をかけるなら、警察を呼ぶぞ」

男はさらに何かを言い返そうとしましたが、周囲の客たちもこちらに注目し、雰囲気が一気に険悪になりました。

すると注目を浴びているのが気まずくなったのか、悪態と暴言を吐きながら、男はようやく店を出ていきました。

店内はしばらく静まり返り、客たちもほっと息をついたようでした。

美佐江さんは他のお客様に断り、私をバックヤードに移動させました。

「国治さん、大丈夫ですか?」美佐江さんが、心配そうに俺の顔を覗き込みました。その瞬間、頬にジンとした痛みが走り、ようやく気づきました。どうやら、あの男に殴られていたようです。

「なんとかね。大丈夫ですよ」

「でも、すごく腫れてますよ……冷やさないと」美佐江さんは店の奥から氷を包んだ布を持ってきて、そっと俺の頬に当てました。

「……本当に、ありがとうございました」彼女はそう言いながら、私の目をじっと見つめてきました。

「国治さんがいてくれてよかった……」そう言った次の瞬間でした。

美佐江さんが、そっと俺に顔を近づけ、唇を重ねたのです。

一瞬、頭が真っ白になりました。

「……内緒ですよ」彼女は、ほんの少し微笑んで、そう囁きました。

私は何も言えず、ただ黙ってうなずくことしかできませんでした。痛みなんて一瞬で引いてしまいました。

美佐江さんの唇の感触が、まだはっきりと残っている。

何が起こったのか、すぐには理解できなかった。ただ、唇が離れたあとも、私の心臓は激しく脈打ち続けていた。

家に帰ると、孝枝がいつものようにテレビを見ていました。どんなに遅く帰ってきても、特に何か言うわけでもなく、ただ「遅かったわね」と一言。それだけでした。顔を見てもいないのでしょう。腫れていることにも気付いていません。

「ちょっと片付けが長引いてな」そう答えながら、冷蔵庫からビールを取り出し、一口飲みました。冷えているはずなのに、喉を通る感覚が鈍いように感じました。

孝枝はそれ以上何も言いません。ただ淡々とテレビの画面を見つめていました。私は、そんな何気ない日常の光景を見ながら、心の奥に妙なざわつきを感じていました。

今日の出来事が、まだ頭の中に残っていたからです。美佐江さんの唇の感触。ふわりと漂う柔らかな香り。「内緒ですよ」と囁かれた声。思い出すたびに、胸の奥がかすかに痛むような、でも甘美なものに包まれるような、そんな感覚になりました。

翌日も、昼過ぎに店に向かいました。昨日のことが気になり、美佐江さんと目を合わせるのが少し怖かったのですが、彼女は普段と変わらず、「おはようございます」と微笑みました。その姿を見て、少しだけ安心しました。

何もなかったことにしてくれているのだろうか。そう思っていたのですが……違いました。

仕込みの合間、二人きりになったとき、美佐江さんがそっと私の袖を引きました。

「国治さん……昨日のこと、忘れました?」

「……いや、忘れられませんよ」

「よかった」美佐江さんは、ふっと微笑みました。

その表情は、どこか安心したようにも見えました。

そして、私をじっと見つめてきます。その目には、言葉にしなくても伝わる何かがありました。

「……今夜、少しだけ、お時間いただけますか?」すぐにその言葉に頷いてしまいました。

夜、店を閉めたあと、美佐江さんと二人きりになりました。

「鍵をかけますね」カチリ、と扉の鍵が閉まる音が、やけに大きく聞こえました。

「…少しだけ、ね」そう言いながら、美佐江さんが私の手を取りました。

そのまま、流れるように体が触れ合い、距離がなくなっていきました。

気がつけば、年甲斐もなく激しく乱れてしまいました。罪悪感がなかったわけではありません。

頭の片隅には、孝枝の顔が浮かんでいました。でも、それよりも、美佐江さんの温もりや、甘い香りで包み込んで離しませんでした。

「…そろそろ帰らないと」そう呟いた私に、美佐江さんはそっと微笑みました。

「はい……また明日…」

「……ええ」そう答えながら、胸の奥がズキリと痛みました。

家に帰ると、孝枝はいつものようにテレビを見ていました。私の帰りが遅くなろうと、特に気にする様子もなく、ただ「遅かったわね」と一言。

「少し片付けが長引いてな」昨日と同じ言い訳をしながら靴を脱ぎました。それでも孝枝は、それ以上何も聞いてきませんでした。

風呂に入りながら、さっきの出来事が頭をよぎりました。湯に浸かりながら、さっきのことを思い出していました。

まだ、美佐江さんの感触が残っている気がしました。

このままではいけない。分かっています。でも、もう引き返せないような気がします。

妻の待つ寝室へ向かいながら、私はふと、ため息をつきました。

これが、始まりなのか、終わりなのか。

今はどうすればいいのか分かりません。ただただ、今も美佐江さんに会いたい気持ちだけが湧いてきています。

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