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夫と別居中にお誘いされました

シニアの話シニアの馴れ初めチャンネル様

夫との別居生活が始まってから、もう2年が経ちました。私は聡美、61歳の主婦です。夫とは2歳違いの年下で、結婚してから長い間、家族として穏やかな日々を過ごしてきました。しかし、今は別々の道を歩んでいます。別居の理由は、夫の浮気でした。

夫が家に帰らなくなったのは、別居する1年前からです。最初のうちは、夜遅くまで仕事をしているのだと言っていました。でも、その「仕事」が終わる時間がだんだんと遅くなり、やがて休日でさえも「急に仕事が入ったから」と家を空けるようになったのです。あの日も、夫はまた同じように仕事があるとだけ告げて、朝早くに家を出て行きました。それが嘘であることを私はもう知っていましたが、何も言い返せませんでした。部屋の隅に置かれた彼のスーツケースを見ると、帰ってくる気がないのだとわかってしまったからです。

少しでも関係を修復しようと、子どもたちが一度間に入ってくれたことがありました。「お父さんとちゃんと話してみたら?」と、彼らは私を励まし、夫にも家族で話し合おうと提案してくれました。けれど、その時の話し合いはむしろ逆効果でした。夫は明確に「今は仕事が忙しいし、自分の時間が必要なんだ」と言って、私たちの前から姿を消してしまいました。それから私たちは、今の別居生活という形に至ったのです。

最初は、夫がいない家での生活に戸惑いました。長年の習慣というものは恐ろしいもので、彼が帰るのではないかと、夜遅くまで待つ日々が続きました。でも、しだいにそんな習慣も薄れていき、私は一人での生活に慣れていきました。時には寂しさに襲われることもありましたが、それでも前に進もうと決めたのです。

そんなある日、私は新しいことを始めてみようと思い立ち、料理教室に通い始めました。料理はもともと好きでしたが、一人分の食事を作ることにはあまり慣れていなかったので、ちょうどいい機会だと思ったのです。教室には様々な人が通っていて、みんなそれぞれの理由で料理を学びに来ていました。その中で、私が特に気になる男性がいました。彼は私より少し年上で、穏やかで優しい雰囲気を持った人でした。

ある日、料理の手順を教わっている最中、彼がふと私に声をかけてくれました。「僕は妻に先立たれて、一人で生活するために料理を覚えようと思ったんです。これがなかなか難しくてね…」と、照れくさそうに笑いました。その時初めて、彼がどうしてここに来ているのかを知りました。彼の妻を想う気持ちが、静かに伝わってきて、少し胸が痛くなりました。

それからというもの、彼とはよく話すようになりました。料理を作りながら、「最近はどんなメニューに挑戦したんですか?」と気軽に聞いたり、彼の作った料理を試食させてもらったりと、自然と距離が縮まっていきました。彼の話す言葉は穏やかで、聞いていると安心感を覚えました。やがて、彼に対して私は特別な感情を抱くようになっていました。

でも、私は自分が既婚者であることを意識せずにはいられませんでした。たとえ夫と別居しているとはいえ、正式に離婚をしたわけではありません。それに、彼の中にはまだ亡くなった奥さんへの想いが残っているように感じました。彼と過ごす時間が楽しいほど、自分の中でこの感情が正しいものなのか、葛藤する日々が続きました。

ある時、料理教室の帰りに彼がふいに「聡美さん、もしよかったら今度一緒に食事に行きませんか?」と誘ってくれました。「最近、気になるお店があるんですけど、一人で入るのはちょっと抵抗があって…」と、照れくさそうに理由をつけていましたが、その表情が少し嬉しそうに見えて、私も思わず「ぜひ行きましょう」と答えていました。

そんなふうにして、私たちは食事に行くことになりました。まるでデートのようで、心が躍りましたが、同時に複雑な思いもありました。夫との関係が曖昧なままで、新しい感情に踏み出すことに対して、自分は許されるのだろうか…そんな迷いがずっと心の中にありました。

それでも、彼との食事を楽しみにする気持ちは止められませんでした。あの頃の私には、もう一度誰かと穏やかで温かい時間を過ごすことが必要だったのかもしれません。それが、たとえ一瞬のものだとしても。

食事に誘われた日から、私は心の中で期待を抱いていました。まるで久しぶりにデートに行くかのような心地です。実際、こんなふうに誰かと食事の約束をするのは、どれくらいぶりでしょうか。夫と別居する前は、休日に外食することはあっても、ドキドキしながら誰かを待つなんてことはもう長い間なかったように思います。

迎えた当日、私は少しでも華やかな気分になれるようにと、お気に入りのワンピースを選びました。いつもより少しだけ丁寧に化粧をして、待ち合わせの場所へ向かいました。彼が選んだのは、こじんまりとした雰囲気の良いレストランです。ガラス張りの店内からは、暖かい光がこぼれていて、その姿を見ただけで心が和みました。

「こんにちは、聡美さん。今日は来てくれてありがとう」と、彼はいつものように穏やかな笑顔で出迎えてくれました。席に着いて、メニューを開くと、彼がいくつかおすすめの料理を教えてくれました。「このパスタが美味しいって聞いたことがあるんです。せっかくだから試してみませんか?女性がいないとこんな店には来づらくて」と、少し照れながら提案する姿に、私は心が温かくなるのを感じました。

食事をしながら、私たちはたわいもない話をしました。料理の話や、彼が今までに旅行した場所の話、そして私の趣味についても。こうして穏やかに笑い合える時間が、どれほど貴重で、どれほど幸せなことか、改めて実感しました。彼といると、自然と笑顔になれるのです。

食事が進むにつれ、私はどんどんと彼に惹かれていく自分に気づきました。別居しているとはいえ、私はまだ夫と籍を入れたままの既婚者です。そんな私が、こうして他の男性に心を寄せていることに、罪悪感も少なからずありました。それでも、彼と過ごすこのひとときが終わってしまうのが惜しいと思ってしまうのです。

やがてデザートが運ばれてきた頃、話題は少し真剣な方向に進んでいきました。彼が「実は、今日はあなたに話したいことがあるんです」と切り出したのです。一瞬、何を言われるのかと身構えてしまいましたが、彼は続けて「聡美さんとこうして食事をするのが、僕にとってとても楽しい時間だって、改めて思いました」と優しく微笑みました。その言葉に、私は胸が高鳴りました。

実は最近娘と話す機会がありました。娘には一度きりの人生だから、自分の好きなように生きればいいってと言われたのです。だから今日は自分の気持ちに正直になろうと思い、私は心の中で覚悟を決めました。もしかしたら、この人に自分の想いを告げることができるかもしれない。そう思っていました。しかし、彼はふと遠くを見るように目を伏せました。

「…実は、亡くなった妻とのことをずっと思い出していたんです」と、彼は静かに話し始めました。「あの頃は、毎日が本当に幸せでした。今でも、思い出が僕の中でずっと生きていて、支えになっているんです」

その言葉を聞いたとき、私はすべてを理解しました。彼は、まだ亡き奥さんのことを心から愛しているのだと。彼にとって、私はただの話し相手であり、慰めの存在でしかなかったのです。私の心の中にあった小さな希望が、静かに消えていくのを感じました。

彼がどれほど優しい言葉をかけてくれても、その奥には変わらない愛情がありました。それが亡くなった奥さんへのものだと分かったとき、私は自分の気持ちに蓋をするしかありませんでした。「そうなんですね…きっと奥さんも、あなたが幸せでいることを願っていると思います」と、私は精一杯の笑顔で答えました。

食事はあっという間に終わり、帰り道、私は少しだけ胸が締めつけられるような感覚を覚えました。それでも、彼との時間は大切な思い出として心に残るのだろうと思います。

その後、私は夫との関係を見つめ直す決心をしました。長い間、はっきりしないままの別居生活に終止符を打つべきだと感じたのです。私は夫に離婚を言い渡しました。手続きは思った以上に面倒で、気が滅入ることもありましたが、それでも一つ一つ片付けていくことで、心の重荷が少しずつ軽くなっていくように感じました。

そして、ようやく離婚が成立したとき、私は肩の荷が降りたような気がしました。これからは、もっと自分のために生きていこう。自分の好きなことをして、心から笑える時間を増やしていこうと、心に決めました。

新しい一歩を踏み出すためには、過去に区切りをつける必要があったのです。彼との食事が、その覚悟を決めるきっかけになったのだと思います。もう一度、私は自分の人生を大切に生きていこうと決意しました。

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