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シニアの恋~この歳になっての恋は難しい

シニアの話シニアの馴れ初めチャンネル様

私の名前は大沼芳江70代です。現在私は一緒に暮らしている人がいます。籍は入れていないのですが事実婚のようなものと言えばいいのでしょうか。私は若い時期に夫を亡くして、子供を育てるために必死でした。周囲は再婚を勧めてくれていたのですが、仕事に育児、そして恋愛など考える暇がなかったのです。もう少し器用な人間であれば恋愛も上手くできたのでしょうが、私は同時に複数のことをこなせる人間ではなく、恋愛を選べば恐らく子供のことが疎かになってしまうという自覚がありました。だから、ドキッとするような人と出会うことはありましたが、恋愛に発展しないように気を付けていた部分があります。

そんなひとり息子も自立して今では子供の大学費用のために必死で働いています。息子の奥さんになってくれた女性もしっかりした人で、私はようやく親であることをある程度考えなくてもいいのかなと思えるようになりました。

だけど、人間という生き物は欲深いのでしょうね。息子が自立してひとり暮らしをするようになってからどうしようもない寂しさを感じるようになりました。ひとりの時間を持て余すことを息子に言った時に「趣味のサークルとか入ってみたら?」と言われました。私自身、料理をすることが好きで昔は色々と工夫をしていたものです。だけど、息子が結婚してからお嫁さんや孫を出迎える時に美味しいご飯を作りたいと考えるようになり、料理教室に通うことにしたのです。幸いにも近所に評判の良い料理教室があったので通うようになりました。

料理教室に通うようになってから孫たちが喜んでくれる料理を作れるようになったのです。料理好きとはいえ、どちらかと言えば渋めの料理ばかりだったので孫には不評でした。だけど、最近の若い子たちが好むようなものを作れるようになって、私はより料理好きになりました。そんな時に出会ったのが同じ教室に通う隆二さんです。

隆二さんは奥さんと離婚をして10年以上になるのだと聞きました。離婚をしてから色々なことに興味が出てきて、最近では料理にハマってしまったのだとか。最初は料理教室で会うばかりだったのですが、そのうち一緒にお茶をする仲になりました。隆二さんと出会ってお茶をしたりするようになった時、私は60代半ばです。女は何歳になっても女という言葉を聞いたことがありますが、まさか自分が60代半ばになって異性にドキドキすることになるとは思いませんでした。はっきり言ってこんな年齢で恋をするなんて恥ずかしいことだとさえ思っていたのです。

ある日、隆二さんと美術館に行った時にこれ以上深みに入る前に会わないようにしようと思ったのですが「どうして?」と言われてしまったのです。下手な嘘をつくよりも正直に話すべきだと思い、自分が考えていることをすべて話しました。すると隆二さんは少し考え込んだ後ににっこりと笑って言葉を返してきたのです。

「誰かを好きになることは悪いことじゃないと思うけどなぁ。息子さんに反対されているとか、実はあなたが旦那さんに隠れてこういうことをしていたとかなれば話は違ってくるけど」

さすがにそれはないと慌てて否定しました。息子は大人になったと言っても、親の恋愛、しかも私のような年齢で誰かを好きになるなんて恥ずかしいと思っているのではないかと不安になって隆二さんのことは話していません。もちろん夫が亡くなったことは隆二さんにも話しています。

「じゃあ、息子さんに反対されたら会うのをやめよう。だけど僕はあなたのことが好きだし、できれば一緒にいたいなと思う。だから会えなくなるのは少し……いや、かなり悲しいかな」

私も隆二さんと一緒に暮らせたらと思うことはあります。だけど、隆二さんと息子のどちらを選ぶのかとなった場合、私は迷わず息子を選ぶでしょう。息子が「恥ずかしい」や「会わないで」と言ってきたなら隆二さんを諦めることができるはずです。

「ちなみに僕には娘がいるんだけど、娘は賛成してくれているよ。誰かと一緒にいてくれれば、娘としても安心できるし、お父さんが幸せなことが一番だからと言ってくれたんだ」

どうやら隆二さんは離婚の時にいろいろとあったらしく、今まで再婚はしなかったそうです。男手ひとつで娘を育てて、今は県外で3人の母親になっているのだと聞きました。隆二さんは娘さんにも話しているうちに私は臆病風に吹かれたままだったことに気づかされました。

本当に隆二さんと一緒にいたいと考えるなら、まずは息子に話すべきだったんです。緊張はしましたし、息子に嫌われるかもしれないと思いながら隆二さんのことを話したのですが……。

「いいんじゃない? 母さんも自分の幸せを見つけてほしいなって思ってたし」

息子はさらっと言ってきました。正直あれだけ悩んだ私の気持ちは一体なんだったのだろうと思うほどにあっけらかんとしていたのです。そして私は知らなかったのですが、息子夫婦の間で同居の話が持ち上がっていたそうです。私をひとりのままにしておくのは心配だということで息子夫婦の意見が一致していたのだとか。

どうして同居の話を内緒にしていたのかと聞いたら「母さんは遠慮して断るだろ? だからきちんとこっちの話をまとめた上で話そうと思っていたんだよ」と言われてしまいました。私にとっては息子はまだまだ子供と思っていた部分があったのかもしれません。息子は立派に私のことも考え、奥さんとも話をするほどしっかりとした大人になっていたのです。

その後、私と息子、そして隆二さんの3人で顔合わせをしました。隆二さんの娘さんは遠方ということで私の方から電話で挨拶をしたのですが「父をよろしくお願いします」と言われてしまいました。そしてふたりで話し合った結果、私と隆二さんは籍を入れないことにしたのです。籍を入れてしまえば遺産関係でもめ事になる可能性もあるからです。今は大丈夫でも後々トラブルになるかもしれないことはやめようと私の方から申し出ました。息子や隆二さんの娘さんは「籍を入れてもいいのに」と言ってくれていましたが、そこは譲れませんでした。隆二さんも「一緒にいられれば別にどんな形でも構わないよ」と言ってくれて、隆二さんが私の住んでいる家に引っ越してくる形になったのです。

隆二さんは元々持ち家を持っていたそうですが、娘さんの結婚を機に処分したのだそうです。それからはアパートで気ままなひとり暮らしをしていたと聞いています。一方私の方は夫が残してくれた家があります。元夫との思い出もありますし出来れば処分をしたくないと言ったら、隆二さんが私の気持ちを汲んでくれました。

きっと私が隆二さんに惹かれたのはありのままの私を受け入れてくれたからです。元夫に対する想いが残っている私を受け入れてくれたから、私もこの先の人生を一緒に過ごしたいと思えるようになりました。それに隆二さんだけだったんです。女手ひとつで息子を育てて「大変だったね」と言わなかったのは。

今まで出会った多くの人が私が夫を亡くしたことを聞いて同情するようなことを言ってきました。きっと私がひねくれていたからなのかもしれませんが、同情されることが嫌だったんです。確かに大変ではあったけど「あなたたちに何が分かるの? どれだけ大変か知らないくせに」という気持ちがありました。だけど、隆二さんは同情するようなことは一切言いませんでした。息子のことを話しても「お母さん想いのいい子なんだね」と言う程度だったんです。

こんな年齢になってから誰かに恋をすることを覚えて、しかも一緒に暮らすなんて自分でも驚きです。本当に人生って何が起こるか分からないものですね。

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