
私の名前は大城 保、60歳です。
定年まであと5年。体はきつくなってきましたが、まだまだ働かなくてはなりません。家では妻が家事をしてくれ、私は仕事に集中するだけの生活。体がしんどいので、家に帰っても会話は減り、ただ、ご飯食べて寝るだけの生活になっていました。
そんなある日、職場に電話が入ってきたのです。
「お義兄さん、大変です! お姉ちゃんが階段から落ちて、今救急車で運ばれたんです!」声の主は、義妹の弥生ちゃんでした。
妻の年の離れた妹で、まだ50手前。普段から妻と仲が良く、うちにもよく顔を出していました。姉妹で盛り上がることが多く、私はその輪の外にいることがほとんどでしたが、彼女の明るさにはいつも救われていました。
仕事を早退し、慌てて病院に駆けつけると、妻は腰の骨を折る重傷で、3カ月程度の入院が必要とのことでした。ただ、命に別状はないらしく、強い痛み止めを打っている為、眠る妻の顔を見ながら、ようやく私は安堵しました。
しかし、これからの生活を考えると不安しかありませんでした。家事はすべて妻に任せていたので、何から手をつけていいかすら分かりませんでした。そんな私の心情を察してか、病院を出た後、弥生ちゃんが申し訳なさそうに言いました。
「お義兄さん、大変ですよね……。私が家事、手伝いますから」私は一瞬、躊躇しました。
彼女の夫である卓也くんは自衛官で、長期間家を空けることが多いとはいえ、さすがに他所の家庭の世話を毎日させるのは気が引けました。
「食事だけでも、うちで食べていってください」彼女の言葉は、どこか強引でした。
私はしつこく断ろうとしましたが、弥生ちゃんは頑なに引き下がりませんでした。平日は一杯ひっかけて帰るので、結局、土日だけお世話になることにしました。
そして、妻のいない一人暮らしが始まりました。初めての洗濯に戸惑いながら、出勤前に室内干しをしました。たったそれだけのことなのに、仕事が始まる前からすでに疲労感がありました。
帰宅すると、洗濯物は取り込まれ、きちんと畳まれていました。
まさか、と思いながら部屋を見回すと、部屋も整理されており部屋も掃除機をかけたようでした。さらに洗い物まで片付いていました。
弥生ちゃんがやってくれていたのです。
次の日も、その次の日も、家は綺麗に保たれ、朝にはおにぎりまで用意されていました。気づけば、私は彼女の優しさに甘えていました。そして迎えた土曜日。初めて彼女の家で夕飯をご馳走になりました。
弥生ちゃんの夫、卓也くんは気さくな人で、私を快く迎えてくれました。食事をしながら酒を飲み、久しぶりにくつろいだ気分になりました。酒が進むと、卓也くんはすっかり酔い潰れてしまいました。
「お義兄さん、ちょっと手伝ってもらえます?」彼をベッドに運ぶ際、私は誤って弥生ちゃんの胸に手を触れてしまいました。
一瞬、彼女の体がピクリと動いた気がしましたが、何も言わず、そのまま夫を寝かせました。
「今日は、ご馳走様でした」帰ろうとすると、弥生ちゃんが「さっき触りましたね」と微笑みました。ドキっとしました。
すぐに「ごめん!」と謝ると、彼女はくすっと笑い、「冗談ですよ。おやすみなさい」と言いました。
それなのに、私はその夜、なかなか眠れませんでした。
それから数回、弥生ちゃんの家で夕食をいただきました。そして、四回目の夜。卓也さんはまたもや酔い潰れ、私も帰ろうとしましたが、今回は私も少しふらついていました。
「大丈夫ですか?」彼女が支えてくれた瞬間、柔らかい肌の感触と、微かな汗の匂いが鼻をくすぐりました。そこからの記憶は、ほとんどありません。
目を覚ますと、見慣れない天井が広がっていました。私は、弥生ちゃんの家のソファで寝ていました。起き上がり、リビングへ向かうと、彼女が台所で味噌汁を作っていました。卓也くんはもう仕事に向かったようでした。
「おはようございます」その声が、どこかいつもと違うように感じました。
「ごめん迷惑かけたね」そう言いましたが、彼女はあまり反応しませんでした。
「……どうかした?」私が尋ねると、彼女は一度手を止め、ゆっくりと振り返りました。
「お義兄さん、昨日のこと……覚えてないんですか?」私は眉をひそめました。
「何かしたか?」
「……まずは顔を洗って、ご飯を食べてください。話はそれからです」彼女の口調は、少し強めでした。朝ごはんは、驚くほど体に染みました。そして、食べ終わると、彼女は静かに言いました。
「昨日、お義兄さん、私を抱きしめて、キスをしました」私は、湯呑を持ったまま動けなくなりました。
「……え?」
「本当に、覚えていないんですか?」彼女は、寂しそうな顔をしていました。私は、血の気が引きました。
すぐに正座し、深々と頭を下げました。
「本当にごめん! 酔っていたとはいえ、そんなことを……」彼女は、苦笑しました。
「そんなに謝らなくてもいいですよ。でも……そこまで謝るほど嫌なんです?」私は、返す言葉を失いました。
「……そんなことないよ」
「じゃあ、私のこと、抱けますか?」彼女のその一言に、雷が落ちたような衝撃を受けました。
「……え?」
「昨日の責任、取ってください」その瞬間、私の中で何かが弾けました。
次の瞬間、私は無我夢中で彼女を抱きしめていました。彼女の体は、驚くほど柔らかく、そして温かかったのです。
拒まれるかと思いましたが、弥生ちゃんは何も言わず、ただそっと私の背に手を回しました。
「……本当にいいのか?」自分でも驚くほど震えた声でした。彼女は少しだけ私の胸に顔をうずめると、ゆっくりと囁きました。
「昨日も、止めなかったですよ」それは、まるで許しを与えられたような言葉でした。
私の理性は、そこで完全に崩れ去りました。
それから、私たちは何度も関係を重ねました。最初は、ただ酔いに任せてしまった一度きりの過ちだったはずでした。
けれど、彼女の腕の中で感じる温もりに、私は抗うことができませんでした。
妻のいない家に帰るたびに、彼女のことを考えてしまいました。
弥生ちゃんも同じだったのか、私を避けることはありませんでした。むしろ、日を追うごとに彼女の方からも私に寄り添ってくるようになりました。
ある日、彼女が言いました。
「私……こんなにされるの、久しぶりなんです」私は何も答えられませんでした。
彼女には夫がいる。私は妻の妹と、してはいけない関係を続けている。
それでも、彼女を抱くことをやめられませんでした。
「どうしたらいいんだろうな……」彼女の寝息を聞きながら、私はぼんやりと天井を見つめていました。
この関係に、終わりが来ることは分かっていました。
妻が退院するまで、あとひと月半。
それまでに、私はこの関係を解消することは出来るのでしょうか。
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