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義両親~夫を亡くした私に・・・

いつまでも若く恐怖

夫を亡くして2カ月が経ったある日、同居している義両親から信じられない提案があった。
「隆二と再婚してくれないか?」と、夫を癌で亡くして間もない私に、なんと夫の弟と再婚して欲しいと言ってきたのだ。
私の名前は奈津美。結婚後、私は夫の実家に入り、義両親と義弟と同居していた。義両親は基本的には優しく、私は共働きとして会社員を続けられていた。しかし、結婚して時間が経つにつれ、「奈津美さん、子供はまだかい?」という孫を期待するプレッシャーを掛けてくるのが強まっていった。夫と私は病院で検査を受けたが、二人とも特に問題はなかった。夫はいつも「時間の問題だと思うから気にしないで」と優しく言ってくれた。排卵のタイミングや同居の状況で難しい場面もあったが、それでも二人でゆっくりと子作りに励んでいた。しかし中々子供は授からず、そのまま10年の年月が経ってしまった。
そんな時、夫洋一に末期のすい臓がんが見つかった。悲しんでいる間もなく、発見からわずか2カ月で彼はこの世を去ってしまった。夫が亡くなって2カ月、私は心も体も憔悴しきっていた。立ち直ることができず、毎日が灰色に感じられた。目を覚ますたびに深い絶望が押し寄せてきた。

そんな中、義両親から「少し話がある」と言われた。重苦しい雰囲気の中、リビングで向かい合った私は、「もしかしたらもう家を出て欲しいと言われるのだろうか」と覚悟を決めていた。しかし、義父の言葉は私の予想を大きく外れたものだった。 「奈津美さん、洋一が亡くなってもう2カ月になるね」と義父が言葉を選びながら話し始めた。「私たちも年を取ったし、隆二と再婚してくれないか」と、夫の弟との再婚を勧めてきたのだ。 信じられない言葉に私は頭が真っ白になり、胸の奥に鋭い痛みが走った。どうしてこんな提案ができるのか、理解が追いつかなかった。 「え?どういう意味ですか?」と問いかけると、 「そのままの言葉通り、隆二と再婚し早く孫を見せてくれないか」と返答された。

「この話は隆二さんは知っているのですか?」 「あぁ、知っているよ。隆二もそれで良いって」 信じられなかった。この人たちにとっても家族が亡くなってまだ2カ月なのに。 「すぐには答えなくていいから、少し考えてみてくれない?」と義母が柔らかく言った。 それよりも正直なところ、私は夫の弟の隆二さんが苦手だった。彼は夫とは8歳も年が離れており、義両親から甘やかされて育っていた。この年になるまで一度も定職に就いたことがなく、未だに小遣いをもらっている。社会人としても完全に未熟な人なのだ。そんな人と再婚なんて考えられない。義両親は、自分たちの老後を見据え、隆二の面倒を見てくれる存在が欲しかったのかもしれない。そして何よりも、孫を抱くことが最後の願いだったのだろう。

それからというもの、仕事から帰ると毎日のように「考えてくれたかい?」と質問責めに遭った。隆二さんの目線も明らかに変わっていた。その都度、「そんなことまだ考えられません」と断っていた。しかしある日、義両親が出かけている時間に隆二さんと二人きりになる時間があった。 「義姉さん、僕のお嫁さんになってくれるんだよね」と唐突に話しかけてきた。 私はそんなことは考えられないと丁重に断ったが、「そうかー、僕と義姉さんの子供ができるのかぁ」と私の言葉を無視して一人妄想しているようだった。それからの毎日は地獄のような日々だった。 食事中には必ず、「どう?決めたかい?」と聞かれる。言葉だけではなく、義両親には逃げ場がないように仕向けられていた。この家にいると確実に隆二さんと再婚させられてしまう。家を出なければならない。私はこっそりと家を出る準備を始めた。夜中に静かに少しずつ荷物をまとめ、家を決め、必要最低限の家具を揃え、あとは出ていく日程だけを待つばかりだった。

そんな時、「奈津美さん、これはどういうこと!」と義母が迫ってきた。義母は私がいない間に部屋に入り、引っ越しの見積もりを見つけてしまったのだ。そのまま家族全員が集まり、家族会議が始まった。 「奈津美さん、うちを出ていくのか?」と義父が尋ねた。 「はい、洋一さんが亡くなって私はまだ何も考えられません」と答えたが、 「考えられなくても良いじゃないか。家族としてここで過ごせば」 「子供ができたら辛いことも忘れるよ」 と次々と私の思考を奪うかのように言葉を並べてきた。私は何度も何度もできないと説明をした。 すると義父は「分かった。一旦家を出ても良い」と納得してくれたようだった。 「親父」と食い下がる隆二。だが、義父はそれを遮り「君はもう私たちの家族なんだ。いつでも戻ってきなさい」と私を見送ることを決めてくれた。

引っ越しの前日まで、義両親は優しく接してくれた。荷物の箱詰めなども手伝ってくれ、元気で過ごすんだよなどと言われ、出ていくのが辛いと思えるほどだった。しかし、引っ越しの前日、夜中にトイレに起きた時にリビングから声が聞こえた。 「今はまだ駄目だ。もう少し時間が経ったら声を掛けよう」と義父の声。 「どれくらい待てばいいんだよ」と隆二の声。結局、義両親の優しさは偽りだったのだ。

引っ越し後、ようやく落ち着いた矢先に、仕事帰りに家に帰ると部屋の電気が付いている。消し忘れたかなと思ってカギを開けるとなんとそこには義両親の姿が。「おかえり、奈津美さん。おかず持って来たんだけど、いなかったから大家さんに開けてもらったよ」と大家に頼み込んで勝手に家に上がり込んでいたのだ。この瞬間全身に鳥肌が立つのを感じたが、「ありがとうございます」とこのまま波風を立てずある程度話してから帰ってもらった。このままだと確実に再婚させられてしまう。義両親が帰った後、いままでの経緯を友達に説明ししばらく泊めてもらうことになった。義両親にはお世話になった。でもこればかりは引き受けることは出来ない。私はバレないようにさらに新たな場所へ引っ越すことに決めた。

案の定数日後に義母からメッセージが届いた。「奈津美さん、いつも家にいないけどどこにいるの?」と何度も私の家に隆二を連れて訪れて来ていたみたいだ。私はすぐにスマホの電話番号を変更し、連絡が取れないようにした。
だが、今までお世話になった義両親にこんな対応では申し訳ないと思い、丁重にお礼とお断りの手紙を書いて送った。

手紙も送って私はようやく一息付いて気持ち的に楽になっていた。
だがそれは束の間の安息だった。次の日、同僚から「奈津美さん、電話入ってるよ。外線3番」と言われ、電話の受話器に手を伸ばした。
「もしもし奈津美さん?」電話の相手は義父だった。
この瞬間、全身が凍りついた。まるで時間が止まったかのように感じられた。体の奥底から冷たい震えが広がり、心臓が激しく打ち始めた。逃げ出したい衝動が頭を占めたが、それを抑え込む勇気を振り絞り、どうすべきか必死で考えていた。

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