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記憶の影

40年の歳月が流れたある日、由美子は偶然、博と再会した。
その瞬間、彼女は若い頃に受けた深い傷を思い出した。
かつて彼に心を許し、その信頼が裏切られた苦い記憶が鮮明に蘇る。
しかしながら、博は由美子のことを全く覚えていなかった。
その事実に驚愕し、由美子は衝動的に「美香」と名乗り、その場を乗り切った。

博から次第にアプローチされるようになった「美香」は、彼への復讐を決意する。
しかし、博との時間を重ねるうちに、彼が昔とは大きく変わり、思いやりがあり、成熟した人間になっていることに気づき始める。
この新たな博に、由美子は徐々に心惹かれていった。
彼女は復讐を果たすために近づいたはずが、博の優しさや変貌ぶりに、自分の感情が揺れ動くのを感じた。
復讐を決意しながらも、実行に移せない日々が続く。
由美子は自分の心と葛藤し、博への未練と復讐への決意の間で揺れた。
最終的に、由美子は意を決し、博を突然振る決断を下す。
彼女は博との関係を終わらせ、二人の間にあった全てに終止符を打つべく行動を起こした。

博が混乱し、うろたえる中で、由美子は自分が「美香」ではなく、過去に彼に深く傷つけられた由美子であることを告白した。
「博、実は私美香じゃないのよ。由美子よ。覚えてない?あなたは私の存在すら覚えていない、私にとって辛い過去なのよ。」
博はその瞬間、全てを思い出したのか、深い狼狽と謝罪の念に包まれた。
「由美子、ごめん…本当に、すまなかった…。」
由美子は博に向かって、彼に心惹かれたこと、そしてそれでもなお彼を振る決断をしたことを静かに語った。
「博、あなたと過ごした時間で、また心が動くことがあったわ。でも、私にはもう戻ることが出来ないの。だから、これでお別れよ。」

由美子は博との最後の別れを告げ、一人夜の街を歩き出した。
彼女の心は複雑な感情で満ちていたが、自分の選択を通じて新たな一歩を踏み出したことに安堵していた。
彼女は博への復讐を超え、自分自身への誠実さを選んだのだ。
その夜、由美子は過去の影を背負いながらも、自らの手で未来への道を切り開いていった。

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