(この人が犯人だ!私の部屋はすべて見られている――)
私は女性専用マンションに住んでいる。1階には管理人が住んでおり、セキュリティ重視の私にとってこの上ない物件だった。安全であることが何よりも重要だった。しかも相場よりも安い。まるで夢のような物件で、私は飛びつくように引っ越してきた
。ある日湯船に浸かって一息ついていた時にふと目に留まった火災警報器。よく見ると、脱衣所にもついている。賃貸なので各部屋に火災警報器があるのは知っていたが、友人たちに聞くとお風呂場にはついていないそうだ。なぜこんなことが気になったのかというと、最近なんとなく部屋に違和感を感じることがあるからだ。気のせいかもしれないと思っていたが、部屋にいても落ち着かない日々が続いていた。
そんなある日、私はこっそりと彼氏を家に呼んだ。だが翌日、突然大家さんが私に向かって「明美さーん。男性を部屋に入れちゃだめですよ」と呼び止めてきた。驚いて「見ていたんですか?」と聞くと、大家さんは一瞬目を逸らして「あ、あぁ。他の住人から通報があったんです」とおどおどしながら答えた。以後気をつけますと謝罪しその場は済ませたのだが、あの時の様子がどうにも気にかかっていた。
翌日、ネット通販で頼んでいたものが自宅に届いた。洗濯機の上のスペースを有効活用できるように大きなラックを買ったのだ。だが落ち着かない日々が続きよく眠れない日々が続いていたため、組み立てるのがしんどくて箱のまま脱衣所に立てかけたままにしていた。
数日後、出社時に管理人さんに呼び止められた。
「火災警報器の前に、荷物を置いたりしないでくださいね」
その場では何も気付かず「すみません」と流して仕事に向かったが、電車に揺られている間にさっきの言葉に強烈に違和感を感じた。その日の仕事を早々に切り上げて帰宅すると、ラックの箱が脱衣所の火災警報器を塞ぐような状態で私は置いていたのだ。これを見た瞬間、管理人の言葉が脳裏に鮮明に蘇り、一気に血の気が引いた。恐怖が全身を駆け巡り、冷や汗が滲んできた。
その日はどっと疲れが吹き出し、リビングで倒れ込むように寝てしまった。夢の中で、管理人が部屋中を監視している映像が頭から離れず、何度も目が覚めてしまった。目覚めるたびに全身が汗でびっしょりになっていた。恐怖と疑念が私の心を締め付けていた。
翌朝、管理人さんが「おはようございます、明美さん。大丈夫ですか?体調悪そうですよ」と声を掛けてきた。
(この男が犯人だ!私は絶対に監視されている――)この男は全てを監視して知っているのだ。私が昨晩、疲れ切ってお風呂に入らなかったことを。