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続・女将さん

いつまでも若く純愛

前編はこちら→https://huroku-ch.com/2150

静寂に包まれた雪深い夜、旅館の一室で二人の吐息が溶け合うように響いていた。
「康弘さん……大丈夫ですか?」晴香の声は、緊張と微かな期待を孕んでいた。その声に導かれるように、岡田康弘はそっと彼女の肩に手を置いた。彼女の肌は浴衣越しにも感じられるほど温かく、微かに震えている。
「晴香さん……僕はもう…。」康弘は自分でも驚くほどの熱を帯びた声でそう告げると、彼女の髪に顔を埋めた。その瞬間、晴香が小さく息を呑む気配が伝わってくる。二人の距離はもう限界まで近づいていた。
「帰ってきてくれてありがとうございます……」晴香の声は震えながらも確かだった。康弘はその言葉に応えるように、彼女を優しく抱き寄せた。窓の外では雪がしんしんと降り続けている。冷たい世界に閉ざされたその部屋の中だけが、まるで春の陽射しに包まれたかのような温もりに満ちていた。
唇が触れる瞬間、晴香は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに瞳を閉じ、康弘に全てを委ねた。そのキスは深く、永遠に続くような感覚を二人に与えた。外の雪景色が二人の世界を遮断し、今この瞬間だけは二人だけの世界に感じられた。
そんな燃え上がる夜を経て、康弘はこの旅館での暮らしを始めて数ヶ月が経っていた。都会の喧騒を離れ、この雪に囲まれた小さな旅館での生活は、どこか非現実的でありながらも、晴香と共にいることで現実の重みを増していた。
彼は最初、慣れない仕事に戸惑いながらも、晴香の優しさと励ましに支えられ、少しずつ自分の居場所を見つけていった。しかし、その穏やかな日常は、大手ホテルチェーンが進出してくるという現実によって揺さぶられることになる。
「温泉テーマパークのオープンが決まりました。近隣旅館の皆さまには大変な影響があるかと思いますが、共存を目指していければと思っています。」そんな町長の言葉が発せられると、地元の旅館関係者たちは一斉にため息をついた。晴香の旅館も例外ではない。常連客が減り、観光客の流れが変わるのは明らかだった。
「これからどうしようか……」晴香は不安げに呟いた。康弘はそんな彼女を見つめ、力強く言った。
「この旅館の良さを守るために、地域で協力して一緒に考えよう。」前職は広告業界にいたことを活かして二人は新たなプランを立て始めた。雪を使った子供たちが楽しめる宿泊プランや、地元の農家と協力し特産品を使った料理、さらには地域住民とのコラボレーションイベントを企画するなど、旅館の魅力を再発見しようと奮闘する。
そんな中で現れたのが、大手チェーンの支配人である村上だった。村上は、学生時代から晴香に想いを寄せていたそうだが、当時の晴香は彼に気持ちには応じなかったそうだ。都会で成功を収めたのち、今回の赴任先が彼女の地元だと知ったとき、これが運命だと思い、再び彼女に接近する決意を固めた。彼は営業の一環として晴香の旅館を訪れ、馴染みのある様子で話しかけた。
「晴香、久しぶりだね。相変わらず美人だね。」その言葉に、晴香は少し戸惑いながらも微笑んだ。
「え?村上さんはどうしてここに?」
「この地域を担当することになったんだよ。あれ?知らなかった?」村上は仕事の話をする一方で、何度も個人的な話題に持ち込もうとする。さらには、「君のような人がこんな小さな旅館で埋もれているのはもったいないよ。うちのグループに入って俺に付いてよ?」と晴香に自分の所へ来るように迫って来た。
晴香はしつこい村上を逆上させることなく曖昧な態度でその場を切り抜けるが、村上の言葉に旅館を続けられるのか揺れる自分がいることに気づき、内心では戸惑いを覚えていた。ある夕方、村上は再び旅館を訪れた。その時、康弘は買い出しに出かけており、晴香は一人で帳簿を整理していた。村上は勝手に部屋に入り込むと、晴香に詰め寄った。
「晴香、君がここで苦労する必要はない。俺と一緒に来れば、もっと幸せになれる。」
「村上さん、そんなこと急に言われても困ります。お父さんの旅館を……」
「わかってる。だからうちのグループに入るんだ!」そう言うと、村上は晴香の肩を掴み、さらに距離を詰めてきた。晴香は恐怖で体が硬直し、声も出せなかった。
「離してください!」ようやく絞り出した晴香の懸命な声が響く中、扉が勢いよく開いた。そこに立っていたのは康弘だった。
「何をしてるんだ!」康弘は怒りに燃えた目で村上に体当たりをし、彼を彼女から無理やり引き剥がした。
「晴香に何かしたら、ただじゃ済まさないぞ。」村上は気まずそうにそのまま立ち去り、晴香はその場で崩れるように座り込んだ。
「大丈夫だったか?」康弘はそっと晴香の肩に手を置き、彼女を抱き寄せた。その瞬間、晴香は涙を溢れさせながら康弘にしがみついた。
「ありがとう……ごめんなさい。」
「もう大丈夫だ。僕が君も旅館も守るから。」その夜、二人はさらにお互いの想いを強く確認し合い、燃え上がるような感情に包まれ激しく愛し合った。

村上の一件を経て、晴香と康弘はさらに絆を深め、そして、旅館の再建に向けた努力も実を結び始める。新しい宿泊プランは口コミで評判を呼び、少しずつ客足が戻ってきた。地域の農家や職人との連携も進み、旅館は地域に根ざした独自の魅力を強めていった。
一方、オープンから1年が過ぎたテーマパークは、集客が思うように伸びず経営が悪化。都会的な設備を誇る施設は、雪深い田舎の静けさを求める客層には合わなかった。やがて撤退が決まり、地域の住民たちに安堵の声が広がる。
「やっぱり、田舎は田舎らしく過ごせるのが一番なんだよ。」晴香と康弘も、旅館を守り抜いた達成感を改めて感じていた。数年後、旅館は順調に経営を続けていた。康弘と晴香には息子が生まれ、家族の温かな笑顔が旅館を彩っている。冬のある日、旅館の玄関でその子どもが小さな手でお客を迎えていた。
「いらっしゃいませ!お荷物は僕が運びます!」小さな声と無邪気な笑顔に、訪れた客たちは思わず顔をほころばせる。晴香はその様子を微笑みながら見守り、康弘は帳簿を整理しながらふと立ち上がり、外を眺めた。窓の外では静かに雪が降り続き、旅館全体が白銀の世界に包まれている。その灯りは、これからも変わらず、訪れる人々の心を温め続けるだろう。康弘は心の中でそっと呟いた。
「ここに帰ってきて良かった。僕がずっと守るよ。」旅館の静けさの中で、家族の笑い声と雪の降る音が溶け合い、新たな時代の幕開けを告げていた。

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