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女将~風呂で倒れたところを助けてもらい

いつまでも若くひととき純愛

ふと気がつくと、見知らぬ天井が目に入った。なんだか頭がぼんやりし頭痛がひどい。さらに喉がひどく渇いている。布団の温もりを感じながら、体を起こそうとすると、全身に鈍い痛みが走った。
「大丈夫ですか?」女性の声に驚いて顔を上げると、そこには旅館の若女将が座っていた。晴香さんという名前だったはずだ。彼女は心配そうに私を見つめていた。
「ここは……?」
「旅館の客室です。お風呂場で倒れていらっしゃったので、父と一緒にお部屋まで運ばせていただきました。体が濡れていたので、失礼かとは思いましたが……お着替えもさせていただいて……」
説明を聞きながら、ふと自分の体に視線を落とすと、布団の下は浴衣がはだけており一糸まとわぬ状態だった。顔が一気に熱くなる。
「本当にすみません!お酒をお出ししたのが原因だったんだと思います……私が注意していれば……」
彼女は頭を下げて謝り続ける。いや、悪いのは完全に自分だ。あんな美味しい酒を勧められ、調子に乗って飲み過ぎた挙句、のぼせてしまったのだから。
「いえ……僕の方こそご迷惑を……」恥ずかしさと申し訳なさで、蚊の鳴くような声しか出ない。それでも彼女は顔を上げ、微笑んだ。
「今はゆっくり休んでください。雪が止む気配もありませんし、ひとまずお水持ってきますね。」彼女のその笑顔に、胸の中のざわつきが少しだけ和らぐのを感じた。

 ただ翌朝、目が覚めると頭が重い。どうやら昨日の疲れとお酒が原因で、風邪を引いてしまったようだ。晴香さんにお願いして体温計を借りると39度近くもあった。体が鉛のように重く、再び布団に倒れ込んだ。その様子を見て、晴香さんが驚いて部屋に駆けつけてくれた。
「熱があるじゃないですか!岡田さん、無理しないで休んでください!」
彼女は慌ただしく布団を整えたり、冷たいタオルを用意したりしてくれる。申し訳ない気持ちが込み上げてくるが、体がついていかない。
「晴香さん……すいません迷惑をかけてしまって……」
「そんなこと気にしないでください。私がしっかりお世話しますから。」彼女の言葉に救われる思いだった。しばらくして運ばれてきたおかゆの香りが、空っぽの胃にじんわりと染み渡る。
「昔、母がよく作ってくれた味なんです。これだけは料理長の父よりも私の方が得意なんです。」少し照れくさそうに言いながら、彼女がスプーンを差し出す。その優しさが、体だけでなく心まで温めてくれる気がした。何かしないといけない事があるとき以外はずっと付き添ってくれていた。弱った体に晴香さんの優しさが染み入る。
体調が少しずつ回復するにつれ、私たちの会話も自然と広がっていった。窓の外では雪が深々と降り続き、旅館全体が静けさに包まれている。その静寂の中で、晴香さんの声だけが私の耳に心地よく響いていた。
「岡田さんって、どうしてこの旅館を選ばれたんですか?」彼女がふと尋ねる。どうして……確かに理由は特にない。ただ、都会の喧騒から離れたかったのだ。
「静かな場所で、自分と向き合える時間が欲しかったんです。……ちょっと大げさですかね。」
「そんなことありませんよ。みんな嫌がるけど私も、こういう雪の静けさが大好きなんです。」そう言って、彼女は窓の外を見た。外は白銀の世界がどこまでも続いている。雪が降る音さえ聞こえてきそうなほどだ。
「でも……この静けさが怖くなるときもあるんですけどね。」彼女の声が少し沈んだ。
「怖い、ですか?」
「ええ。ここは父と二人で切り盛りしてるんですけど、親戚からは結婚できなくても良いから早く跡取りを作れとかよく言われるんです。でも、そんな簡単に決められるものじゃないですよね……。出会いも無いですし…」彼女の声には少し苦笑が混じっていたが、その言葉の奥には切実な孤独が隠れているのを感じた。
「……そんな簡単なことじゃないですね。でも、晴香さんみたいな方なら……きっと誰かが放っておかないと思います。」そう言った瞬間、思わず自分の言葉にドキッとした。彼女の反応が気になり、ちらりと視線を送ると、晴香さんは照れたように微笑んでいた。
「ありがとうございます。そう言っていただいて嬉しいです。」

 最終日の夜、体調もほとんど回復し、明日の帰る準備をしていると、晴香さんが部屋を訪れた。どこか緊張した面持ちだった。
「岡田さん、ちょっとお話してもいいですか?」座布団に腰を下ろした彼女は、少しうつむきながら話し始めた。
「……岡田さん、この旅館のことをどう思われますか?」
「素敵な場所だと思いますよ。静かで温かい、こんな場所、他にないと思います。」その言葉に、彼女は少しだけ顔を上げた。
「……ありがとうございます。昨日言ってたことお願いできませんか?」
「えっ昨日って……跡取り?…」彼女は俯き顔を真っ赤にしながら
「……もし、岡田さんが良いのならお願いしたいんです…」その瞬間、何かが弾けたように体が動いていた。私は彼女の手をそっと握り、そっと彼女を抱きしめた。
「晴香さん、僕でよければ……」彼女は驚いたように目を見開き、そして少しずつ涙を浮かべながら微笑んだ。
「…よろしくお願いしします…」彼女はそっと僕の胸に顔を埋め、僕に体を委ねてくれた。そして静かな空気の中で、私たちの唇が触れ合い、夜は更けていった。

 翌朝、玄関先で見送ってくれる晴香さんの姿を見て、胸が少し痛んだ。それでも、彼女の笑顔に背中を押される思いだった。
「また来ます…」そう告げると、彼女は少し寂しそうに微笑んだ。
「お待ちしています。」振り返ると、雪に埋もれた小さな旅館が遠ざかっていく。その灯りは、きっと私の心にずっと残り続けるだろう。振り返ると、これまでの生活はただ毎日をやり過ごしていただけだった。けれど、晴香さんと過ごしたこの数日は、雪の静けさの中で初めて自分が何かを守りたいと思った瞬間だった。

「さあ、忙しくなるぞー」僕の心の中は既に仕事を辞めここに戻って来ることを心に誓っていた。

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