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スワッピングパーティ

いつまでも若くスワッピング系

「このパーティに参加してみないか?」

夫の言葉に、私の心は一瞬で凍りついた。目の前の夫がまるで別人に見えた。彼がこんな突拍子もないことを口にするなんて、信じられなかった。

私たち夫婦は、郊外の一軒家で二人きりの生活を送っている。娘たちが同時期に独立し、それぞれの家庭を築くために出て行った。夫婦の時間が増えた途端、最近、夫が求めてくることに少し戸惑っていた。もうアラフィフ目前。そんな年齢になっても夫婦の行為が必要なのか、正直わからなくなっていたのだ。そんな私に向かって「スワッピングパーティ」だなんて、あまりにも現実離れしていて、思わず笑ってしまいそうになる。

「何を言っているの?」私は驚きを隠せず、反射的に拒否していた。夫は真面目で内気な人だ。そんな彼がこんなことを考えるなんて、一体何が彼をそうさせたのか、理解できなかった。

その夜、私はベッドで何度もその言葉を反芻した。「夫婦を交換するの?」――いったい何のために?何が彼をそこまで追い詰めたのか。結婚してもう二十年以上経つ。お互いに言葉少なになり、気づけば会話も減っていた。今までの私たちが夫婦としてうまくやってきたと思っていたが、夫には違う景色が見えていたのかもしれない。

翌日、不安になった私は、勇気を出して友達に聞いてみた。彼女たちは皆40代で、まだ普通に夫婦の関係があることを知り、愕然とした。どうして私は彼とそのようなことができないのか、ますます自分自身に自信が持てなくなった。そんな自分が嫌で、やり場のない焦燥感が胸に広がる。

それから数日後、夫はまたあの話を持ち出してきた。彼の手には一枚のパンフレットが握られていた。「一度でいいから、このパーティーに参加してほしいんだ」と言いながら、私にそのパンフレットを差し出してくる。そこには、華やかで非日常的な雰囲気を醸し出す写真が並んでいた。私の心は拒否反応を示していたが、夫の目は真剣だった。断れば、彼との距離がさらに広がるような気がして、言葉を呑み込んでしまった。

 「わかったわ。でも、一度だけよ」そう答えた自分に驚きながらも、心の奥底では『これで彼の気が済むなら』という思いが渦巻いていた。愛情が冷めたわけではない。むしろ、今でも彼が大事だ。だからこそ、彼の望むことを受け入れてみようと、そんな気持ちになったのかもしれない。私は参加したくないのに、なぜか食事の量が減り、自然と運動するようになった。無意識のうちに、体重は4キロも減っていた。久しぶりに美容院にも行き、髪を整えた。私の心のどこかに、夫の期待に応えたいという気持ちがあったのだろうか。

パーティー当日、私は震える手でドアノブを握りしめた。パーティー会場に入ると、心臓が激しく鼓動し、息をするのも苦しい。『ここで帰ろうか?』頭の中で何度も逃げるべきだという声が響いた。しかし、夫の強い視線を感じ、足を動かすことができなかった。彼に従って、華やかな会場に足を踏み入れると、まるで異世界に迷い込んだような感覚に襲われた。

会場には豪奢なシャンデリアが輝き、シャンパンを片手に微笑む男女が所々に集まっている。赤いカーペットが敷かれたフロアに、優雅な音楽が流れ、どこか危うい熱気が漂っていた。夫の隣で怯える私を見て、彼は囁くように言った。

「大丈夫、ただ見てるだけでいいから」夫は私の背中に優しく手を添えた。私は無言でうなずき、彼の後について歩いた。どうせ誰にも話しかけられずに、食事を楽しんで帰るだけだろうと高をくくっていたのに、夫は驚くほど積極的に声をかけ始めたのだ。

「どうも、初めまして」夫は次々と他の夫婦に声をかけ、ついにはあるご夫婦の所で足を止めて話し出した。まるで夫が他人のように見えて、私は驚きを隠せなかった。気弱な彼がこんなにも積極的になるなんて。彼が緊張しているのが私にも伝わってきたが、その裏には私への思いがあるのかもしれないと感じ、胸が熱くなった。話はとんとん拍子に進み、夫が奥さんと話し始め、旦那さんが私に話しかけてきた。

「君も、こういうことに興味があるのかい?」旦那さんの声に、私は一瞬たじろいだ。上手く答えることができず、言葉を探していると、その奥さんが夫の腕に手をかけようとした。その瞬間、私の中で何かがはじけた。
「ダメ!」という言葉が口を突いて出て、私は夫の手を引き離した。心臓が高鳴り、涙があふれてくる。平然を装おうと必死だったが、心の中はパニック状態だった。私は自分の夫が、他の誰かに触れられることが耐えられなかったのだ。

この気持ちは一体何なのか、はっきりと理解していた。私はまだ夫が大好きで、他人に渡したくないという思いが溢れ出ていた。しかし、この歳になって嫉妬心をむき出しにするなんて、なんて恥ずかしいのだろう。私は堪えきれずに、人前で泣き出してしまった。

驚いた夫は、私を会場から連れ出し、駐車場で何度も謝ってくれた。「ごめん、無理させたね。もうやめよう」彼は私の手を握りしめながら、優しくなだめ続けた。帰りの車の中、私はどうしても我慢できなくなり、「そこに入って」と指をさした。夫が驚いた顔でその方向を見る。「え?ここって…」ラブホテルの看板が目に入る。

夫はしばらく言葉を失っていたが、やがて何も言わずにホテルの駐車場に車を停めた。そして、無言のまま私を部屋に導いた。部屋に入ると、私は夫に抱きしめられ、彼のぬくもりに包まれた。私たちは、お互いの存在を再確認するように、久しぶりにお互いを求め合った。

その瞬間、私は自分の心の中に眠っていた本能が解き放たれるのを感じた。まるで若い頃に戻ったような、激しい感情が体を駆け巡る。私は夫の名前を何度も呼び、彼を求めて止まらなかった。夫もまた、私を強く求めてくれた。

すべてが終わった後、私は息を整えながら夫に謝った。「ごめんなさい、どうしても嫌だったの。他の人に取られるのが…」涙を流しながら訴える私を、夫は優しく抱きしめた。

「俺だって、お前が他の誰かとなんて、絶対に嫌だよ。少し異性と話すことで刺激になるかなと思ったんだ。本当にごめん。」夫は私の耳元で囁いた。その言葉に、私は胸がいっぱいになった。私たちは再びお互いを抱きしめ合い、ただ静かに寄り添った。

それからというもの、私たちの関係は変わった。夫婦の時間は、以前よりも濃密になり、週末には二人で過ごす時間が増えた。家に帰れば、いつも夫が私を優しく抱きしめ、私もそれに素直に応じた。まるで、長い眠りから覚めたかのように。

あの夜、私は自分の心の奥底に眠っていた愛情と欲望を再確認した。夫は私にとって、何にも代えがたい存在だということを。そして、これから先も、彼と共に歳を重ねていくのだと、改めて強く思うようになった。
夫が家庭円満のために、スワッピングを提案してくれたことには感謝している。でも、もう一度参加するかどうかはわからない。たぶん、もう必要ないだろう。私たち夫婦には、二人だけで十分だから。

窓の外では、秋の風が柔らかく葉を揺らしている。その風に乗って、私たちの新しい生活が始まるような、そんな気がした。

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